第96話「クリスマス」

 楽しかったライブの次の日、今日はクリスマスだ。

 日向は興奮がおさまらなかったのか、帰ってからもメロディスターズの曲を聴いていた。たしかに今回も本当に楽しかった。ちゃんと東城さんにお礼を言わないといけないな。

 そして今日は、絵菜と真菜ちゃんがうちに泊まりに来ることになっている。こちらも楽しみにしていた。バイトは明後日から入ることにしているので、今日と明日はみんなで楽しもうと思った。あ、勉強もちゃんとしないといけない。特に日向と真菜ちゃんは受験生で追い込みの時期だ。しっかり見てあげようと思った。

 部屋で勉強をしていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。「はい」と言うと、日向が入ってきた。手にはノートやペンを持っている。


「お兄ちゃん、分かんないところあるんだけど、教えてくれない?」

「ああ、いいよ、日向もだいぶ受験生としての自覚が出てきたようだな」

「ふっふっふー、私を甘く見ちゃいけないよ、やる時はやる女だからね!」

「お、おう、じゃあ絵菜と真菜ちゃんが来てからもちゃんと勉強するんだぞ」

「えぇ!? そ、そこはみんなで楽しく遊ぼうよー……あはは」

「おいおい、やる時はやる女じゃなかったのか、真菜ちゃんも勉強教えてほしいって言ってただろ、日向もするんだよ」

「う、ううー、お兄ちゃんのマヌケー」


 ぶーぶー文句を言う日向だった。それはいいとして、日向の勉強を見てあげることにした。けっこう難しい問題に挑戦しているみたいだ。うん、日向も少しずつ学力が上がってきたのではないだろうか。


「ここは、こうして、こうやって……」

「ああ、なるほど! お兄ちゃんなんでそんなに勉強できるの? 脳みそ分けてくれない?」

「い、いや、それは無理だろ……日頃からちゃんと勉強しているからだよ」

「うー、お兄ちゃんの妹なのに、こんなに違うなんて……神様がいじわるしたとしか思えない」

「まぁ、日向も頑張ればできるよ。前よりもできるようになってるんじゃないかな、このままいけば青桜高校も夢じゃないな」

「うん、絶対にお兄ちゃんたちの後輩になるからね! そのためなら頑張れる……はず」


 その時、インターホンが鳴った。日向と一緒に出ると、絵菜と真菜ちゃんが来ていた。


「こ、こんにちは」

「お兄様、日向ちゃん、こんにちは! 今日と明日お世話になります」

「こんにちは、いらっしゃい」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは! ささ、どうぞどうぞ、温かい飲み物でくいっと一杯やりましょう」

「おーい、なんかどこかのサラリーマンみたいだな」


 僕と日向のやりとりを見て、絵菜と真菜ちゃんが笑った。

 二人をリビングに案内すると、キッチンにいた母さんがニコニコしながらやって来た。


「二人ともいらっしゃい、ゆっくりしていってねー」

「あ、すみませんおじゃまします、あの、ケーキ買ってきたので、よかったら」

「あらあら、ありがとう、じゃあ夕飯の後にみんなでいただきましょうか」

「はい、絵菜さん、真菜ちゃん、温かい飲み物どうぞー!」

「あ、ありがと」

「ありがとう日向ちゃん! あ、お兄様、後で数学教えてくれませんか? ちゃんと勉強道具は持って来ましたので」

「あ、団吉、私も数学教えてほしい」

「うん、いいよ、日向も二人を見習って勉強するんだぞ」

「う、ううー、でも仕方ない、青桜高校に合格するためだ、が、頑張らないと……」


 みんなでおやつを食べた後、僕たちは勉強をすることにした。日向と真菜ちゃんがリビングのテーブルで、僕と絵菜がダイニングのテーブルでそれぞれ勉強する。


「お兄様、ここが分からないのですが……」

「ああ、ここは三平方の定理を使って、こうやって……」

「ああ、なるほど! お兄様さすがですね、やっぱり私の神様です」

「え!? か、神様というわけではないけどね……あはは」

「お兄ちゃんこの前のテスト二位だったんだよね! そろそろ生徒会で学校を支配できたー?」

「まあまあ! 二位ってすごすぎますね、もうお兄様の言うことでみんな動いているのかも」

「い、いや、生徒会だからって学校を支配できるわけじゃないからね?」


 なんだろう、生徒会がものすごく偉い人の集まりだとか思っていないだろうか。

 その後しばらくみんなで勉強していた。みんなの質問で自分の分はあまり進まなかったが、まぁ仕方ない。でも日向も集中力がついてきたのではないだろうか。以前はすぐギブアップしてたもんな。


「みんな頑張ってて偉いわねー、そろそろご飯にしましょうか」

「あ、はーい! ああおもてなししなきゃー」


 母さんと日向が夕飯の準備を始める。僕もテーブルの片づけをした後準備する。絵菜と真菜ちゃんは待つしかないのでそわそわしているみたいだ。

 今日の夕飯はパスタ、照り焼きチキン、ローストビーフ、コンソメスープ、サラダなど、なんとなくクリスマスっぽいメニューになっていた。母さんほんとに頑張るなぁ。


「さあさあ、みんなたくさん食べてねー」

「い、いただきます……あ、すごく美味しい……」

「ほんとだ、お母さんすごく美味しいです!」

「あらあら、そう? 美味しいって言ってもらえると嬉しいわー、ふふふ、やっぱり娘が増えたみたいで嬉しくなるわね」


 母さんも二人が来てくれることが嬉しそうだった。こうして我が家が賑やかになるのは僕も嬉しかった。

 美味しい夕食をいただいた後、絵菜と真菜ちゃんが持って来てくれたケーキをいただくことにした。ショートケーキが五つ入っている。僕はモンブランをいただいた。


「あ、すごく美味しいよ、これどこのケーキ?」

「ああ、駅前からちょっと離れたところにケーキ屋が出来てて、そこに行ってきた。前に行ったカフェの近くかな」

「あ、なるほど、あのカフェの近くか、知らなかったよ」

「ほんとだ、苺のケーキも美味しい! お兄ちゃん、モンブランちょっと食べさせて?」

「ああ、いいよ……って、お前、ちょっと取り過ぎ!」

「ふっふっふー、取ったもん勝ちだよー、ウソウソ、私のも食べていいからさー」


 僕と日向のやりとりを見て、みんな笑った。そうかケーキ屋が出来ていたのか、今度行ってみようかなと思った。

 美味しいケーキをいただいた後、テレビを見ながらみんなで談笑した。そういえば前回も前々回も、お泊まり会の時はかなりドキドキしていたことを、僕はすっかり忘れていた。

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