第94話「待ちきれない」

 十二月二十四日。クリスマスイブだ。

 今日は東城さんたちメロディスターズのライブに行く予定だ。去年行ったライブを思い出す。とても楽しかったので今回も楽しみにしていた。

 ライブは夕方の五時からなのでまだ時間はある。僕はリビングでゆっくりしていると、部屋で勉強していたはずの日向がニコニコしながらやって来た。


「お兄ちゃん、まだかなぁー」

「え、そんなに慌てなくてもまだ時間はあるよ、楽しみなのは分かるが、勉強もしておけよ」

「えー、もうだいぶやったし、楽しみ過ぎて勉強できないよー、絵菜さんたち来るんだよね? 健斗くんも来るって言ってたよ」

「ああ、でもさすがに早すぎるだろ、もう少ししてから――」


 その時、インターホンが鳴った。あれ? 何か宅配便かな? と思って出てみると、絵菜と真菜ちゃんが来ていた。


「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは!」

「ああ、いらっしゃい……って、あ、あれ? まだけっこう時間あるけど、僕が間違えてる?」

「あ、いや、ごめん、真菜がどうしても行きたいからって……」

「お兄様、日向ちゃん、こんにちは! 楽しみ過ぎてもう来ちゃいました。お姉ちゃんも早くお兄様に会いたそうにしてたので」

「なっ!? あ、まぁ、それもある……かも」

「あはは、そっか、うちでのんびりしてから行こうか、上がって」


 二人をリビングに案内すると、母さんがニコニコしながらジュースを持ってきた。


「二人ともいらっしゃい、今日はライブらしいわね、いいわねー」

「お母さんこんにちは! おじゃまします」

「あ、おじゃまします、あと、明日と明後日またお世話になることになって……す、すみません」

「ああ、いいのいいの、娘が増えて嬉しいわ、昨日また絵菜ちゃんたちのお母さんとお話させてもらったわー、また今度ランチ行きましょうねって約束しちゃった」


 母さんと絵菜たちのお母さんがどんどん仲良くなっている気がする。ま、まぁ、そっちの方がこちらとしてもありがたいというか、なんというか。


「お兄様、また勉強教えてくれると嬉しいです。どんどん受験の日が近づいていますが、なかなか数学が難しくて」

「ああ、いいよ、また教えるよ。日向も真菜ちゃんを見習って勉強するんだぞ」

「う、ううー、またお兄ちゃんが勉強しろって言う……バカー」


 ぶーぶー文句を言う日向を見て、みんな笑った。

 その時、またインターホンが鳴った。あれ? と思って出てみると、今度は長谷川くんが来ていた。


「ああ、いらっしゃい、長谷川くんも早いね、待ちきれなかった?」

「あ、お兄さんこんにちは! は、はい、実は待ちきれなくて、もう来てしまいました……」

「あはは、そっか、絵菜と真菜ちゃんももう来てるから、とりあえず上がって」


 長谷川くんは「す、すみません、おじゃまします」と言って靴を揃えて上がった。リビングへと案内する。


「あ、健斗くんも来たんだね、待ちきれないよねー」

「あ、うん、ライブ行くのって初めてだから、緊張しているのもあるかも……」

「ああ、僕も去年初めてライブに行ったけど、たしかにドキドキだったかも。でも楽しかったよ」

「そうなんですね! メロディスターズのサイト見たり曲聴いたりしていました。みんな可愛いし歌がうまくてビックリしました」


 しばらくみんなで談笑していると、火野と待ち合わせしている時間が近づいてきたので、僕たちは一緒に家を出て駅前へと向かった。駅前に着くと、いつものように火野がもう来ていてこちらに気づいて手を振っていた。


「おーっす、お疲れー、いよいよライブの日だな!」

「お疲れさま、ああ、みんな楽しみで集まるのが早かったよ」

「あはは、そっかそっか。お、もしかして長谷川くんかな? はじめまして、団吉の友達で火野と言います」

「あ、は、はじめまして! 長谷川と言います!」


 火野が握手しようと右手を出したので、長谷川くんも慌てて右手を出す。ちょっと緊張しているのか長谷川くんの姿勢がピンとしていた。


「それじゃあ行こうか、高梨さんと木下くんと天野くんが向こうの駅で待ってると思う」


 今日のライブは前回行ったライブハウスで行われることになっていたので、高梨さんたちはライブハウスの最寄り駅に集合としていた。電車に乗って二駅隣なのですぐ着いて、改札を出ると高梨さんたちがいた。


「やっほー、みんな揃ったねー」

「お、お疲れさま、み、みんな揃うの早かったね」

「みなさんお疲れさまです! なんか僕も早く来てしまいました」

「あはは、お疲れさま、みんな考えてることは一緒みたいだね」

「うんうん、楽しみだよねぇー、あ、もしかして長谷川くんかな? はじめまして、私高梨って言います」

「あ、は、はじめまして! 長谷川と言います!」


 ちょっとだけ恥ずかしそうにしている長谷川くんだった。さ、さすがに年下といっても男の子は食べないよな……?


「こんにちは、日車日向と言います」

「こんにちは、沢井真菜と申します、姉がお世話になっております」

「こ、こんにちは、天野です……あ、なるほど、日車先輩と沢井先輩の妹さんですね」


 こちらでも天野くんがちょっとだけ恥ずかしそうにしていた。


「そ、それじゃあ行こうか、ま、また僕が案内するよ」


 木下くんを先頭に、みんなライブハウスへ向かって歩き出した。久しぶりに来たが、やっぱり道が覚えにくいなと思った。

 十分ほど歩いて、ライブハウスに着く。やはり外も中もオシャレである。


「あ、日向ちゃん、長谷川くん、またグッズ売ってるよ!」

「え!? 真菜ちゃんどこ? あ、ほんとだ!」

「す、すごい、グッズもあるんだね……!」

「よっしゃ! 三人ともお姉さんと一緒に見に行かないかい? ふふふふふ」


 僕がお金は出さないでと言う前に、高梨さんは三人を連れて行ってしまった。な、なんか男の子でも食べそうな勢いである。


「そういえば去年も買ったよなぁ、お守りは学校の鞄につけてるぜ」

「そうだったね、僕はスマホケースもそのまま使ってるよ。そういえば天野くんはライブ来たことある?」

「以前何度か来たことがあります。その時も東城さん輝いてて、い、いつもと全然違うなぁと」

「そっか、うん、ステージ上だといつも以上に可愛く見えるよね……はっ!?」


 ふと絵菜の方を見ると、また面白くなさそうな顔をしていた。


「ご、ごめん、と、東城さんのアイドルとしての可愛さというか、なんというか……」

「ふふっ、怒ってないよ、慌てる団吉も可愛い」


 あ、あれ? もしかして慌てる僕が見たくてわざとやってる? と思ったが、言わないことにした。

 しばらくみんなでグッズを見たりしていると、開演の時間が近づいてきた。僕たちは中へと入る。またメロディスターズのみなさんが出て来るんだなと思うと、ワクワクとドキドキが入り混じったような感覚になっていた。

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