第92話「招待」
「そういや、もうすぐクリスマスだな、去年を思い出すなぁ」
ある日の昼休みにいつものように四人で昼ご飯を食べていると、火野が嬉しそうに言った。今年は十二月二十四日が土曜日で、二十五日が日曜日だった。学校は二十三日の金曜日に終業式となる。
「ああ、そうだな、今年は二十三日が終業式か」
「そだねー、去年のクリスマスイブは楽しかったねぇ、思い出すなぁ。ねえねえ、またみんなで集まって何かやらない?」
「おっ、いいな、しかし毎年団吉の家にお世話になるのもなんか申し訳ないよなぁ、今年は土曜だからお母さんもいるだろ?」
「ああ、たぶんいると思うけど、去年もみんなで集まった話したら、母さんも参加したかったとか言ってたよ」
「そかそかー、うーん、でもあまりご迷惑になるのはよくないよねぇ、どこか出かける?」
「出かけるのもいいけど、どこも人が多そうだな……」
絵菜がぽつりと言った。たしかにクリスマスイブやクリスマスはどこも人がいっぱいだろう。しかも今年は土日だ、いつも以上に出かける人が多い気がする。
「うーん、たしかにどこも人は多そうだよね……やっぱりうちで――」
「あ、団吉さん!」
急に名前を呼ばれたので振り向くと、東城さんがニコニコしながらこちらに来ていた。
「あ、東城さんだ、おーっす」
「あ、東城さん、こんにちは」
「みなさんこんにちは! そういえば昼休みはここでしたね、すっかり忘れててまた教室に行っちゃいました」
東城さんがテヘッと舌を出した。くそぅ、仕草が可愛い。
「ああ、ごめんね、もしかして何か用事だった?」
「はい! みなさんもいるからちょうどいいと思って! あの、みなさんクリスマスイブに何か用事ありますか?」
「ああ、ちょうど今クリスマスイブに何かしないかって話してたところだったよ。まぁ、何も思いついてないんだけど……」
「そうだったんですね! ということはみなさん空いているということですか?」
「ん? まぁ、そういうことになるね」
「よかった! あの、実は今年はクリスマスイブにライブを行うことになっているんです! なので、ぜひみなさんに来ていただけないかと!」
東城さんがニコニコしながら少しぴょんぴょんと跳ねている。ん? クリスマスイブにライブ?
「あ、そうなんだね……って、ら、ライブに行く……!?」
「はい! 前みたいに私がチケット用意してますので、ぜひ来ていただけると嬉しいです! あ、日向ちゃんや真菜ちゃん、あと天野くんと木下さんも一緒に!」
「え!? そ、それは、なんか申し訳ないというか……」
「いえいえ、ぜひみなさんに来てもらいたいので、これくらいさせてください! って、勝手に話進めてますが、やっぱりダメでしょうか……?」
「い、いや、ダメってことはないけど、いいのかなって……み、みんなどうする?」
「お、おお、いいのかな……いいんだったら、俺はまた行きてぇけど」
「う、うん、私も行きたいかなー、でも東城さん、ほんとにいいの?」
「はい! みなさん遠慮しなくて大丈夫ですよ、メンバーやマネージャーにもOKはもらっていますので!」
「そ、そっか、絵菜はどう? 大丈夫?」
「う、うん、いいんだったら、行きたいけど……」
「そっか、じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて、みんなで行かせてもらおうかな」
「やった! じゃあ明日チケット持って来ますね! ふふふ、イブライブなので、特別な衣装もあるかもしれませんよ!」
そう言って東城さんがくるんと回った。くそぅ、やっぱり可愛い。
「くぁー特別な衣装!? なんだろなんだろー、きっと可愛くて美味しそうなんだろうなぁー……じゅるり」
「た、高梨さん落ち着いて……東城さん、ほんとにありがとうね」
「いえいえ! 天野くんには私から伝えておくので、木下さんに伝えてください! あ、友達が待ってるみたいなので、すみません失礼します!」
東城さんはぺこりとお辞儀をして、友達のところへ行った。
「お、おお、なんか急だったけど、クリスマスイブの予定が決まっちまったな」
「そだねー、でもライブかー、前も楽しかったよねぇ、また楽しみになってきたよー」
「そうだね、せっかく東城さんが呼んでくれたから、みんなで楽しもうか」
「……東城、やっぱり可愛いな」
隣で絵菜がぽつりと言った。
「あ、そ、そうだね、ステージだとさらに輝いて見えるよなぁ、さすがアイドルって感じだよ」
僕がそう言うと、絵菜がテーブルの下で僕の左手をきゅっと握ってきた。な、なんだろう、東城さんにとられるとでも思っているのだろうか。とにかく、クリスマスイブの予定が決まった僕たちだった。
* * *
放課後、僕は六組の前の廊下で、絵菜と木下くんが出てくるのを待っていた。木下くんに東城さんがライブにご招待していることを伝えるためだ。
しばらく待っていると、絵菜と木下くんが一緒に出てきた。絵菜が声をかけてくれたのかもしれない。
「ご、ごめん、待たせてしまった」
「ううん、木下くんを連れてきてくれてありがとう」
「さ、沢井さんに呼ばれたんだけど、何かあった?」
「うん、実は東城さんがクリスマスイブに行われるライブに僕たちをご招待してくれるみたいで、木下くんもぜひ一緒にって言ってて」
「えぇ!? ま、まりりんが……!? あ、で、でも僕、実はもう行くつもりでライブのチケット買ってしまったんだ……」
「あ、そうなんだね、どうしよう、東城さんに木下くんの分はいらないって伝えるかな……」
「あ、団吉、それだったら木下の分で長谷川くんを呼んだらどうかな? 日向ちゃんも嬉しいと思うけど」
「あ、なるほど、それもありかもしれないね。日向に話しておくよ。あと一応東城さんにも伝えておくよ」
「ま、まりりんが僕のこと招待してくれるなんて……夢みたい……いや、これは夢なのかな……」
「き、木下くん落ち着いて、現実だよ。急に言われてびっくりしたけど、ライブが楽しみになってきたよ」
「う、うん、僕も楽しみにしてるよ。が、学校で会う姿とはまた違うから」
「そうだよな、東城可愛いもんな……アイドルってやっぱりすごいな」
あ、あれ? 絵菜が拗ねてる? と思ったが、どうやらそうではないみたいだ。たしかに前回ライブに行った時も、東城さんをはじめメロディスターズのみなさんはステージで輝いていた。アイドルって本当にすごいんだなと思った瞬間だった。
そのライブにまた行けるのだ。楽しみになってきた僕だった。
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