第91話「落ちた原因」
ある日、僕と絵菜は昼ご飯を食べ終わって一緒に教室に戻っていた。
「団吉、今日は放課後予定あるのか?」
「ん? ううん、今日は生徒会もないし、特に予定はないよ」
「そっか、じゃあまた一緒に帰らないか?」
「うん、いいよ、一緒に帰ろう」
僕がそう言うと、絵菜は嬉しそうな表情を見せた。何もない時はなるべく絵菜と一緒にいたい。その気持ちは変わらなかった。
階段を上がって、五組の教室が見えてきたその時だった。
「あ、日車くんと、沢井さん」
急に名前を呼ばれたので振り向くと、九十九さんがいた。
「あ、九十九さん、お疲れさま」
「お疲れさま、そうだ、日車くん、今日の放課後、何か用事ある?」
「ん? いや、特に何もないよ。どうかした?」
「あ、それが、その……ちょっと聞いてもらいたいことがあって……よかったら時間もらえないかな?」
九十九さんの言葉を聞いて、絵菜が僕の手をきゅっと握ってきた。なんだろう、九十九さんにとられるとか思っているのかな。
「あ、うん、いいけど、今日は絵菜と一緒に帰ろうと思ってて、絵菜もいてもいいかな?」
「あ、う、うん、大丈夫……ちょっと恥ずかしいけど、じゃあまた放課後に」
九十九さんはそれだけ言うと、手を振って教室の方へ行った。
「なんだったんだろ、九十九さん……あ、絵菜ごめん、勝手に巻き込んでしまって」
「ううん、大丈夫。でも九十九、なんか深刻そうな顔だったな……」
「そ、そういえば……なんか気になることでもあるのかなぁ」
そういえば先日のテストで、九十九さんは順位を落としていたのだった。そのことも気になっていたので、後でそっと聞いてみようかなと思った。
* * *
放課後、帰る準備をして廊下に出ると、絵菜と九十九さんが待っていた。
「ごめん、待たせてしまって。九十九さん、聞いてもらいたいことがあるって言ってたけど……」
「う、うん、でもここではちょっと……」
「そっか、じゃあ駅前の喫茶店にでも行ってみる? あそこだったら話せるかな」
三人で駅前の喫茶店に行くことにした。喫茶店には人がいたが座れないほどではなく、僕たちは奥の席に座り、それぞれコーヒーやジュースを注文した。
「は、初めて来た……なんか、学校帰りにちょっと寄り道っていいね」
「そっかそっか、あ、九十九さんごめん、実は僕も聞きたいことがあって……その、気にしてたら申し訳ないんだけど、この前のテストで九十九さんが五位だったのが気になってしまって。いつも一位だったのにどうしたのかなって。もしかして何かあった?」
「あ、そ、その、私が話したかったのもそのこともあって……その、あの……」
九十九さんが話しづらそうにしていた。何か言いたそうだったので、僕と絵菜は黙って待つことにした。
「……じ、実は、テストの一週間前に、ある男の子に『好きです、付き合ってください』って告白されて……わ、私どうしていいのか分からなくなって、混乱してしまって……」
なるほど、告白を受けたのか……って、え!? こ、告白!?
「え、あ、そうなんだね、男の子って、同じクラスの人?」
「ううん、たしか二年三組って言ってた……でも一緒のクラスになったこともないし、全然知らなくて……どうして私なんかを、す、好きになったのか分からないけど……」
「……九十九は、何て返事したんだ?」
それまで黙って聞いていた絵菜が、ぽつりとつぶやいた。
「そ、それが、『ごめんなさい、お付き合いすることはできない』って……や、やっぱり全然知らない人だったから、私は好きという気持ちにはなれなくて……」
「……そっか、それでいいと思う。好きになってくれたから好きになるっていうのは、なんか違うから」
「そ、そうだよね……でも、その子に悪いことしたんじゃないかって思って、すごく気になって……勉強も全然手につかなくて、今回のテストも下がってしまって……お父様に怒られてしまった……」
「九十九さん、全然悪くないよ。誰が誰を好きになってもそれは自由だけど、断るのも自由だから。気になる気持ちも分かるけど、九十九さんの本当の気持ちも大事だよ。あまり気にしすぎないでね」
「そ、そっか、うん、気にしすぎないようにする……でも、私のことをそんな風に想ってくれてる人もいるんだなって、ちょっとだけ嬉しかった……前にも話したと思うけど、私みんなから避けられてる気がしてたから……」
そういえば九十九さんは友達が少ないと言っていた。美人で勉強ができる九十九さんをあまりよく思っていない人もいるのではないかと。そしてそのことを九十九さん自身も気にしていた。知らない人とはいえ、好意を持たれているというのは嫌な気分ではないだろう。
「以前みんなで話したように、もしかしたら九十九さんを妬んでいる人もいるかもしれないけど、そんな人は相手にしなくていいからね。それに、僕たちはもう友達だよ。ね、絵菜?」
「え、あ、うん、あと九十九の気持ちも分かる気がする。好意を持ってくれているのは嫌な気分にはならないから。ま、まぁ、ちょっと怖いなって思うこともあるけど……でも、九十九も一人じゃないから、大丈夫」
「うんうん、大島さんや天野くんもいるし、他にも九十九さんを慕ってくれる人がいるよ。一人じゃないからね」
「そ、そっか、ありがとう……あ、ちょっとスッキリしたかも。うん、また勉強頑張らなくちゃ」
九十九さんがぐっと拳を握った。
「うんうん、一人で抱え込まず、みんなに頼ってね」
「ありがとう……日車くんも沢井さんも優しいな、私、好きになるなら日車くんみたいな人がいいな……」
「え!? あ、ぼ、僕みたいな人は他にもたくさんいるんじゃないかな……あはは」
僕がそう言うと、絵菜がテーブルの下で僕の左手を思いっきり握ってきた。
「い、いてっ!」
「……? 日車くん、どうかした?」
「い、いや、なんでもない……九十九さんにもそのうちいい人が現れそうだなーって……あはは」
「う、うん、これまであまり恋はしたことないけど、これから先好きになる人が現れるのかな……」
一瞬だけ絵菜が面白くなさそうな顔をしたが、その後も三人でしばらく話していた。そっか、テストの順位が下がったのはそんなことがあったからか。でも僕たちに話したことで少しはスッキリしたみたいだ。
九十九さんも生徒会長で美人で密かに人気が出ているみたいだし、これからも告白されることがあるかもしれない。それでも九十九さん自身の気持ちを大事にしてほしいなと思った。
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