第90話「気になること」

 定期テストの日がやって来た。

 今回も今まで通り、しっかりと準備をしてきたつもりだ。あれから時々放課後残って、みんなで勉強したりしていた。みんなも赤点をとらないようにと必死だ。

 今日は現代文、英語、生物、明日は古文、数学、物理、世界史、明後日はその他副教科という日程でテストが行われる。


「じゃあ、テスト始まるから荷物を廊下に出してくれー」


 大西先生のいつもの言葉で、僕たちは動き出す。さてどこに荷物を置いておこうかと思っていると、一学期の時と同じく置く場所に迷っていた富岡さんと相原くんの姿があった。


「あ、富岡さん、相原くん、こっちスペースあるから置いておかない?」


 僕は三人分のスペースをとって、二人を呼んだ。


「あ、ありがとうございます……! ついに来ましたね、今回も日車さんに色々教えてもらって……本当に感謝しています……!」

「……俺もだよ、ありがと。なんとか赤点とらないように頑張る」

「うんうん、みんなでまた頑張ろうね、赤点は絶対に回避しよう」

「ふふふ、日車くん、ついに来たわねこの時が! 今回こそ負けないわよ!」


 大島さんがやって来てニヤリとした笑みを見せた。


「……うん、今回も大島さんには負けないよ、大島さんも覚悟しててね」

「や、やっぱり日車くん、カッコよくなったわね……そんな日車くんが嫌いじゃないわ、みんなで頑張りましょ」

「うん、あ、いつものように気合い入れていかない?」


 僕が右手を出すと、みんなも右手を出してグータッチをした。よし、頑張れそうな気がした。



 * * *



 数日後、いつものようにテストの結果が全部出揃った。

 僕は学年で二位だった。夏休み明けのテストからさらに順位が上がった。しっかりと取り組んだ結果がこうして数字に表れると、嬉しくなる。

 今回は数学がかなり難しく、平均点も低かった。それでも僕は百点……と言いたいところだったが、計算ミスをしてしまって九十八点だった。かなり悔しい結果となってしまった。まぁでも大西先生によると今回百点をとった人はいなかったとのことなので、僕が一番できたのではないかと思う。

 個人的には英語の成績が上がっていて嬉しかった。ジェシカさんとメールするために英語も頑張ろうという気持ちになっていたのがよかったのだろう。

 それよりも僕は気になったことがあった。成績上位者の貼り紙を見たら、一位が九十九さんではなかったのだ。九十九さんは五位だった。その分僕の順位が上がったのかもしれない。いつも一位だった九十九さんが下がるなんて、何かあったのだろうかと思った。


「日車さん、今回はどうでしたか……?」


 休み時間に成績表を見ていると、後ろの席から富岡さんが話しかけてきた。


「あ、僕は二位だったよ。富岡さんはどうだった?」

「に、二位……! すごいです! 私は九十五位でした。数学も難しかったけどそこそこできたのでよかったです……!」

「そかそか、あ、ほんとだね、平均点低かったけどそれよりもずいぶん上だね。よかったよ」

「……さすが日車くんだね、すごいよ」


 富岡さんの隣で話を聞いていた相原くんが話しかけてきた。


「あ、相原くんはどうだった?」

「……俺は百七十八位だった。今までで一番よかったかも。日車くんと大島さんのおかげだよ、ありがと」

「おお、よかったよかった、あ、物理が危なかったけど、赤点はないんだね」

「……うん、次は物理も頑張ろうと思う」

「そうだね、物理もちょっと難しかったからなぁ、また次頑張れば大丈夫だよ」

「……ひ、日車くん、二位だったわね……負けたわ……」


 隣の席から震える声が聞こえてきた。見ると大島さんがプルプルと震えている。


「あ、う、うん、まさかここまで来るとは自分でも思わなかったよ、大島さんは七位だったんだね」

「そうよ……なぜ日車くんに勝てないのかしら……勉強量の差? 地頭? 分からなくなってきたわ……」

「お、大島さん落ち着いて……あ、でも現代文と古文は僕よりもできてるね」

「いいのよ日車くん、慰めはいらないわ……そう、私は敗北者……現実を受け止めなければ……」


 やっぱり僕の声があまり届いていない大島さんだった。


「お、大島さん、落ち着いて……それよりも、ちょっと気になったことがあって」

「ん? どうかしたの?」

「あ、その、いつも学年一位だった九十九さんが、今回五位なんだよね……僕が二位になれたのも、九十九さんが下がったからだと思うんだけど……」

「ああ、そういえばそうだったわね、九十九さんが一位じゃないって初めてじゃないかしら。何かあったのかしら……」

「うーん、九十九さんが勉強してないなんてちょっと考えられないんだよね……もしかしたら、勉強が出来なかった何かがあるのかも……」

「せ、生徒会長さん、いつもトップでしたよね……すごい……でも今回は下がっていたのですね」

「あ、うん、そうなんだよね、おかしいなと思って……いつも一位だったのに、急にそんなに下がるかなぁと」

「……数学が難しかったからとか? 物理もちょっと難しかったし、そういうのもあるんじゃない?」

「うーん、たしかにそれもあるかもしれないけど、九十九さんならそういうところも問題なくクリアできそうなんだよね……本当に何かあったのかも」


 いつも一位だった九十九さんがこんなに下がるなんて、考えられないことだった。今度こっそり聞いてみようかなと思った。


「……それはそれとして、日車くん、今回の望みは何? やっぱり胸? お尻? それとも私にキスしてほしいのかしら」

「あはは、そうだよねそういえば……って、な、何もないよ! 何も言ってないからね!」

「……日車くん、また赤くなってる」

「まぁ、日車さんも男の子ですからね……興味ありますよね……」

「ちょ、ちょっと待って! 何もないよ! 何もないからね!」


 僕が慌てていると、みんな笑った。うう、どうしていつもこうなってしまうのか……。

 九十九さんのことは気になったが、みんな赤点もなく無事にテストを終えることができたので、よかったなと思った。

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