第88話「パソコン」

 日曜日、今日はバイトも休みをとって、僕はやりたいことがあった。そのために今駅前で人を待っている。誰を待っているのかというと――


「ひ、日車くんごめん、ま、待たせたかな」

「ううん、さっき来たところだから大丈夫。ごめんね休みの日に付き合わせて」

「う、ううん、大丈夫。で、電車来るみたいだから行こうか」


 そう、木下くんと待ち合わせをしていたのだ。なぜかというと、以前から気になっていたパソコンを一緒に見てもらおうと思ったからだ。バイトで貯めたお金があるので、パソコンが欲しいと思っていたが、いざ見てみると種類が多すぎてどれがいいのか分からなかった。そこで詳しい木下くんにアドバイスをしてもらうことにしたのだ。


「色々見てたんだけど、何がいいのかよく分からなくなってね……」

「そ、そうだね、けっこうピンキリだからね。と、都会に専門店があるからそこ行ってみようか」


 僕たちは電車に揺られて都会までやって来た。僕は修学旅行前に絵菜たちと来て以来だ。


「や、やっぱりいつ来ても人が多い……!」

「う、うん、駅前とはやっぱり違うよね。あ、専門店まで案内するよ」


 僕はとりあえず木下くんについて行くことにした。都会の駅から歩いて十分くらいだろうか、細い路地をいくつか行った先にパソコン専門店があった。僕一人ではたどり着けなかったかもしれない。


「お、おお……たくさんパソコンが並んでいる……!」

「う、うん、日車くんはデスクトップとノート、どちらがいいの?」

「うーん、どっちがいいのかなぁとそこでも悩んでいてね……何か差があるのかな?」

「そ、そっか、デスクトップは場所は限られるけど、その分高性能なんだ。ノートは若干性能は落ちるけど、持ち運べるっていう利点はあるね」

「なるほど……うーん、となると家の中で持ち運べるノートの方がいいのかなぁ」

「な、なるほど。げ、ゲームはする予定?」

「たぶんしないかなぁ。ゲームはゲーム機でいいかなって思ってて。ノートだとゲームしにくいのかな?」

「そ、そっか、グラフィックボードが必要になるから、ゲームするならデスクトップの方がいいんだけど、しないなら問題ないね。グラフィックボードを積んでるノートもあるけど、ちょっと高くてね」

「なるほど……うん、やっぱりノートにしようかな」


 二人で話しながら、ノートパソコンの売り場を見てみる。やはり種類が多くて迷いそうだった。


「うーん、たくさんあるね……」

「う、うん、あとは値段で見てもいいかもしれないね。お、同じくらいの値段でも性能差もあるから、そこは僕が見てあげるよ」


 なるほどと思いながら色々と見て回る。その中で値段的にちょうどいいものが二つあった。一つは黒いボディ、もう一つはシルバーのボディだった。


「この黒いやつと、シルバーのやつはどっちがいいんだろう?」

「そ、そうだね……メモリは一緒だね。CPUは黒い方が若干いいから演算能力は黒い方が上だけど、シルバーでも普段使いなら問題ないと思うよ。SSDはシルバーの方が少し大きいから、たくさん保存できるね」

「なるほど……うーん迷うな、木下くんはこの二つならどちらがいいと思う?」

「う、うーん、僕はシルバーかなぁ。このCPUなら問題ないし、それなら保存容量が大きい方を選ぶかな」

「なるほど、じゃあシルバーにしようかな、他に買っておくべきものある?」

「ま、マウスはあった方が便利だろうね。あ、後は必要になってから買う感じでいいんじゃないかな」

「そっか、じゃあマウスを見てみようかな」


 木下くんにおすすめのマウスを教えてもらって、パソコンと一緒に買うことにした。僕が自分のお金で買うものの中で一番高いものになった。大事に使おうと思った。


「木下くん本当にありがとう、一人で見てたら迷ってしまってね……」

「い、いえいえ、たくさん種類あるから迷うよね。でも、便利だからぜひパソコンも使ってほしいよ」

「そうだね、スマホよりも画面が大きいから、色々と便利そうだ。あ、お昼食べて行かない? 美味しい洋食屋さんがあるけど」

「う、うん、なんかお腹空いてきたよ」


 僕たちは以前絵菜たちと来た洋食屋に行く。お昼時で少し多かったがなんとか座れた。


「へ、へぇ、おしゃれなお店だね」

「うん、以前絵菜たちと来て美味しかったよ。木下くんも杉崎さんを連れて来てあげるといいかもしれないね」

「そ、そうだね、覚えておこう……ひ、日車くんたちは、普段デートの時ってどんなところ行ってる?」

「うーん、ショッピングモールとか、商業施設とか……あ、水族館に一度行ったことはあるよ。でも普段は買い物できる場所が多いね」

「そ、そっか、水族館よかった?」

「うん、チケットを母さんにもらって行ったんだけど、すごく見応えあってよかったよ。ちょっと遠いけど、木下くんもぜひ杉崎さんと一緒に行ってみて」

「そ、そうだね、な、なんか花音が連れて行ってくれることが多いから、ぼ、僕も男として引っ張ってあげたいというか……」


 そういえば僕も絵菜と付き合い始めた頃、絵菜にいつも引っ張ってもらっている気がしていたのを思い出した。何でも積極的な絵菜が主となっていて、男としてそれはどうなのかと思っていた。


「僕も同じようなこと思ってた時期があったよ。男としてリードしてあげたい気持ち、よく分かるよ。火野にも言われたんだけど、慌てなくていいって。木下くんも慌てずにね」

「な、なるほど……うん、慌てないようにするよ」


 今日は僕はハンバーグセット、木下くんはビーフシチューセットを食べた。うん、ハンバーグも美味しい。今日付き合ってもらったお礼に、お昼は僕がご馳走することにした。木下くんは「えぇ!? わ、悪いよ……」と言っていたが、木下くんのおかげでパソコンが買えたのだ、これくらいはさせてほしいと言った。

 その後、前にも来た大きな本屋に二人で行った。木下くんも来たことがあるらしく、「こ、ここはテンションが上がるよね」と言っていた。テンションが上がった僕たちは最近出た小説の話をしながら本を見ていた。

 いい買い物が出来て大満足だった。たまには男同士で出かけるのもありだなと思った。

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