第87話「おめでとう」
「あ! 今日は十一月十日だ! 絵菜の誕生日じゃん! 絵菜、おめでとー!」
昼休み、いつものように四人で昼ご飯を食べていると、高梨さんが急に言った。
「おお、そうだったな! 沢井おめでとう!」
「あ、ああ、ありがと……去年もそうだったけど、やっぱり恥ずかしいな……」
「ふっふっふ、急に思い出したように言ったけど、もちろん忘れてなかったからねー、今年はちゃんとプレゼントも持ってきたんだー、はい絵菜、誕生日プレゼントだよー」
高梨さんがそう言ってラッピングされた箱のようなものを絵菜に渡した。
「え、あ、ありがと……って、そんな、しなくてよかったのに……」
「去年は当日に持って来れなかったからねー、中は洋菓子の詰め合わせだよー、陽くんと二人で見に行って買ってきたんだー、チョコレートとかは入ってないから帰るまで大丈夫だと思うよー」
「そ、そうなのか、火野もごめん、ありがと……」
「いやいや、大したことはできねぇけどさ、これくらいはやらせてくれ」
絵菜が恥ずかしそうにちょっと下を向いた。
「絵菜、誕生日おめでとう」
僕が絵菜の目を見て言うと、絵菜は顔を赤くして、
「あ、ありがと……今年も祝ってもらえて嬉しい……」
と、恥ずかしそうに言った。
「たしか去年も言ったけど、やっぱり当日にこうして祝ってもらえるのは沢井の誕生日になるんだよなぁ」
「そだねぇ、私たちは夏休みだし、日車くんも休日だからねぇ、絵菜が羨ましいよー」
「うんうん、みんなに祝ってもらえるっていいよね。そうだ、絵菜、今日の帰りにうちに寄ってくれないかな? ま、まぁ、何があるかはだいたい分かると思うけど……」
「あ、う、うん、分かった」
ふと視線を感じて前を見ると、火野と高梨さんがニヤニヤしながら僕と絵菜を見ていた。
「な、なんだよ……」
「いや、今年も団吉のサプライズプレゼントがあるんだろうなーと思ってな」
「そそ、『絵菜、誕生日おめでとう、今年こそ僕がプレゼントだよ……』って言ってさー」
「なっ!? い、いや、それはないから……ま、まぁ、プレゼントはあるんだけど……」
うう、恥ずかしくなってきた。ふと絵菜を見ると恥ずかしそうにしていたが、ニコッと笑いかけてきた。うあぁ、この笑顔が可愛い……僕はドキドキしてしまった。
* * *
その日の放課後、僕と絵菜は一緒に家に帰っていた。外は風が少し冷たい。これから先もっと寒くなるんだろうなと思った。
「ただいまー」
「おかえりお兄ちゃん、あ、絵菜さんいらっしゃいませー」
先に帰って来ていた日向がパタパタとやって来た。
「こ、こんにちは、文化祭来てくれてありがと」
「いえいえ! 絵菜さんのクラスも楽しかったです! そして何よりお兄ちゃんが可愛くて!」
「うん、団吉めっちゃ可愛かった」
「あ、あのー、二人ともその話もうやめにしない? 恥ずかしすぎるんだが……」
僕がそう言うと、絵菜と日向が笑った。
「あ、どうぞ上がって、日向、ちょっと部屋に行ってくる」
「うん、後でジュース持って行くね」
「お、おじゃまします……」
絵菜が靴を揃えて上がると、僕は絵菜と一緒に僕の部屋に入った。鞄を置いて、机の上に置いてあったプレゼントを手に取った。
「はい、絵菜、だいたい想像ついたと思うけど、誕生日おめでとう、これ僕からのプレゼント。気に入ってもらえるといいけど」
「わっ、あ、ありがと……嬉しい、開けてみてもいいかな?」
「うん、ぜひぜひ、開けてみて」
僕がそう言うと、絵菜がゆっくりとプレゼントを開ける。
「……あ、ま、マフラー!?」
「うん、これからの時期必要だし、これなら学校行く時も使えるんじゃないかと思って。デザインも可愛かったから」
「か、可愛い……本当にありがと、毎日使う」
絵菜はそう言うと、マフラーを首にくるくると巻いた。なんだろう、絵菜がさらに可愛く見えた。
「あ、似合ってるね、よかったよ」
「う、うん、嬉しい……それと」
絵菜が僕の横にやって来て、ぎゅっと抱きついてきた。
「最近団吉にくっつけなかったから、寂しくて」
「あはは、そういえばそうだったね、ごめんね、寂しい思いさせて」
僕も絵菜の背中に手を回す。あははなんて笑っていたが、心臓の方はドキドキである。や、やばい、くっついていると絵菜に伝わってしまうのではないかと心配だった。
「……キス、しよ?」
耳元で絵菜がささやいた。その瞬間心臓のドキドキが三段階くらい上がった。あ、相変わらず破壊力が半端ない……。
僕は絵菜の目を見た後、目を閉じてそっと絵菜に……キスをした。そういえば去年の絵菜の誕生日に、初めてここでキスをしたことを思い出した。あの時もものすごく緊張していたな。ドキドキは変わらなかった。
「……ふふっ、嬉しい……団吉と初めてキスしたのも、去年の今日だったな……」
「そうだったね、あれからもう一年経つなんてビックリだけど、あの時と変わらず絵菜が大好きだよ」
「私も団吉が大好き、大好きすぎて、もうダメ……」
コンコン。
絵菜を抱きしめていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。僕と絵菜は慌てて離れる。「は、はい」と言うと、ジュースを持った日向が入ってきた。
「ジュース持って来ましたよー、はい、どうぞー、あ、絵菜さん、私からも誕生日プレゼントがあるんです! お誕生日おめでとうございます!」
日向がそう言って小さな包みを絵菜に渡した。
「え!? あ、ありがと、そんな、日向ちゃんからももらえるなんて……」
「いえいえ、中身は可愛い色のリップです。ごめんなさい、私のお小遣いだといいものが買えなくて……」
そう、この前日向とプレゼントを見に行った時に、日向も自分で絵菜へのプレゼントを買っていたのだ。「お金出そうか?」と言ったら、「ううん、これは自分で買いたいから!」と言っていた。
「ご、ごめん、もったいないことさせてしまった……でも嬉しい、大事に使う」
「はい! ぜひ使ってもらえると嬉しいです! 真菜ちゃんもプレゼントがあるって言ってましたよー、あ、まだ言わない方がよかったかな」
日向が「しまった!」という顔をしたので、僕も絵菜も笑った。うん、今年も絵菜が喜んでくれて、本当によかったなと思った。
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