第85話「その後」

 今年の文化祭も大成功で終わった。

 五組の大阪くいだおれ店もお客さんがたくさん入って、用意していた材料も全て使い切った。みんなで「よかったねー、頑張ったねー」と言い合った。去年と同じく、クラスが一つになって、そしてその中に僕も入っていて嬉しくなった。

 大緊張した『男装・女装コンテスト』も大盛り上がりで、たくさんの票が入ったと聞いた。本当に恥ずかしかったが、これも思い出ということで、出てよかったなと思った。

 そんな文化祭も終わり、現実に引き戻される。今日も午前中の授業が終わり、僕はいつものように弁当を持って学食へ向かった。奥に絵菜と火野と高梨さんが座っているのが見えた。


「おーっす、お疲れー、いやー文化祭は盛り上がったな!」

「お疲れさま、うん、いい思い出になった気がするよ」

「やっほー、お疲れー、うんうん、楽しかったねぇ、コンテストはみんな可愛いしカッコよかったよー」

「団吉お疲れさま、みんな可愛かったけど、私は団吉に一票入れた。あまりにも可愛くて、つい」

「あはは、ありがとう、あのまま女の子になるんじゃないかと、変な気分になった……」

「おっ、日車くん目覚めちゃった? 陽くんも日車くんも可愛かったねぇー、年下じゃなくても食べちゃいたいところだったよ……ふふふふふ」

「た、高梨さん心の声が……そういえば火野のイメージはやっぱり高梨さんだったんだよな?」

「ああ、一番近い人をそのまま表現しようと思ってな、口調も真似しちまったから、後で怒られるかとヒヤヒヤだったぜ」

「あはは、まぁ陽くん可愛かったから許してあげるよー、でも日車くんのアピールもなんかリアルだったねぇ」


 高梨さんに言われて、僕はギクッとした。そう、最後の方は絵菜のセリフを丸パクりしたのだ。さ、さすがにやりすぎたかな……。


「ああ、団吉もちょっと私の真似してた」

「え、絵菜!? 言っていいの!?」

「うん、すごく可愛かったから許してあげるって」

「あはは、そーなんだね、なるほど、二人きりの時に言ってるのか……お熱いんだからーこのこのー」


 火野と高梨さんがニヤニヤしながら僕と絵菜を見てくる。僕と絵菜は顔が赤くなった。


「た、高梨さんもめっちゃカッコよかったよね、ワルそうな雰囲気がよかったよ」

「ふふふ、ありがとー、意外と男の子も悪くないなーって思ったよねー、私も何かに目覚めたのかな」

「あはは、やっぱ背が高いと学ランも似合うよね、しかしあの衣装はどこから集めてきたんだろう……」

「なんか家庭クラブの人たちが集めてくれたらしいよー、どうやって集めたのかは分かんないんだけどさ」


 な、なるほど、そこでもその道のプロが関わっていたのか。


「あ、そういえば山崎くんにお礼言っておかないとなぁ、僕の代わりに司会してくれて、しかも完璧すぎて僕がやるよりよかったよ」

「ああ、そうだな、やっぱ放送部で鍛えてるだけあって、しゃべりはうまかったなぁ」


 出場した僕たちだけではコンテストは成り立たない。他にも頑張ってくれた人がたくさんいるのだ。本当に感謝だ。


「はーでも、せっかく楽しい文化祭だったのに、もう現実に引き戻されちゃったねぇ」

「うん、今月はテストもあるからね、みんな油断しないように」

「ぐあぁ、忘れてたぜ……なんだよーまた勉強しなきゃいけねぇのか……」

「うっ、日車くんそれは言わないで~、今は楽しい気分に浸っておきたい……」

「こ、今回も赤点とらないようにしないと……団吉また教えてくれないか?」

「うん、いいよ、また一緒に勉強しようか」


 楽しいことも大事だが、テストも大事だ。火野と高梨さんが「ううう……」と言いながらテーブルに突っ伏したので、僕と絵菜は笑った。



 * * *



「ふぅ、文化祭のまとめはこんなもんかしら、きちんと予算内に収まってくれたし、売り上げもけっこうあったみたいね」


 放課後、僕たち生徒会メンバーは生徒会室に集まって、文化祭の後処理を行っていた。各クラスの売り上げ等をまとめて、先生に報告しないといけないのだ。


「そうですね、文化祭も大成功ということで、よかったんじゃないでしょうか」

「うんうん、たくさんお客さんも来てくれたね、ま、まぁ、何かを失ったような気がするイベントもあったけど……」

「う、うん、私、今思い出しても恥ずかしい……」

「た、たしかに……今日クラスメイトに色々言われてしまいました……」

「ふふふ、みんな可愛いしカッコよかったわよ。日車くんと九十九さんは優勝したし、生徒会の力を十分に見せつけることができたわね」


 大島さんがニヤリとしたのは気のせいだっただろうか。


「お、大島さんもカッコよかったよね、あのキャラは最初から決めてたの?」

「いや、衣装を見ていた時にピンときたのよ。スーツも着てみたかったし、じゃあエリートっていう設定にしちゃえって思ったのよ」

「な、なるほど……九十九さんと天野くんはどうだったの?」

「わ、私は、学ランを着てみたいなと思って、せ、セリフはその場の思いつきで出ちゃった……は、恥ずかしい……」

「ぼ、僕もメイドさんってどんなのだろうかと思って……せ、セリフは九十九先輩と一緒でその場のノリです……うああ、思い出してしまった……」

「ご、ごめん、なんか思い出させてしまって……でも、二人ともよかったよ」

「日車くんも可愛かったわ、やっぱり普段から可愛いから似合うわね、脚も綺麗だったし……あれ? 私負けてる? って思ったわ」

「い、いや、それはないんじゃないかな……あはは」


 なんだろう、男として可愛いと言われるのは複雑な気分だった。まぁ、悪いことではないのでいいのだが。


「日車くん、ほんと可愛かった……私ドキドキしちゃった。女の子にドキドキしたの初めて……」


 九十九さんがそう言って僕の手をきゅっと握ってきた。


「え!? あ、ありがとう、いや、ありがとうって言うのも変なのかな……」

「つ、九十九さん!? どうして九十九さんはいつも日車くんの隣にいるのかしら……!」

「お、大島さん? なんでそんなに慌ててるの……?」


 慌てる大島さんに、きょとんとした顔の九十九さん、それを見て笑う天野くん、うん、いつもの光景だった。なんだかおかしくなって笑ってしまうと、みんな笑った。

 今年も文化祭はいい思い出になった。来年は受験生だからこんなに楽しめないかもしれないけど、またいい思い出を作りたいな。

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