第84話「結果発表」

「あー、やっと終わった……」


 控室に戻った僕は、ふーっと息を吐いた。あ、あれでよかったんだよな、女の子になりきれていたかな。どう思われているか気になったが、不思議と後悔はなかった。僕も何かに目覚めてしまったのかもしれない。


「おーっす、お疲れー、終わったなぁ、とりあえずやりきったぜ」

「お疲れさま! みんな可愛かったね! ドキドキしてしまったよ!」

「お、お疲れさまです……うう、何か大事なものを失った気がする……」

「お疲れさま、みんなよかったよ、か、可愛かった……」


 火野と中川くんと天野くんと健闘を称え合う。僕たちはこれまで以上の友情が生まれた気がする。


「……あ! 自分の顔見てみたいぞ! 鏡ねぇか!?」


 た、たしかに、まだ自分の顔を見ていないのだ。気になって仕方がない。鏡なんて持ってないしな……と思っていたら、


「やっほー、お疲れさまー、みんな可愛かったよー。陽くん、鏡をお探しかな?」


 と言って、女子四人が入ってきた。手にはみんな手鏡を持っている。


「おーっす、お疲れー、あ! 鏡貸してくれ!」


 火野は高梨さんから、中川くんは大島さんから、天野くんは東城さんから、僕は九十九さんから鏡を借りて自分の顔を見る。


「お、おお……こんな感じだったのか……」

「あ、ああ……俺、めっちゃギャルだな……」

「う、うう、この顔でみんなの前に出たんですね……」

「こ、これは……か、可愛いって言えるのか……?」


 男子四人が自分の顔を見てビビりまくってしまった。


「あはは、みんな可愛かったよー、キャーキャー言われてたもんねぇ」

「ひ、日車くん、可愛かった……わ、私はどうだったかな……?」


 九十九さんがそう言いながら僕の手をきゅっと握ってきた。


「え!? あ、九十九さんもカッコよかったよ、やっぱり美人さんだとカッコよくなるもんだね」

「……それはいいんだけど、あなたたちはなぜ手をつないでいるのかしら?」

「あ! 団吉さん、浮気ですか!? 絵菜さんに言いつけますよ?」


 ぐいぐいと大島さんと東城さんに迫られる僕だった。


「ええ!? い、いや、これは、何でもないよ……あはは」

「……ははーん、九十九さんは日車くんのことを狙ってるんだねぇ、絵菜どうするー?」


 ん? 高梨さんがまるで絵菜がここにいるかのように呼びかけたが……?


「……団吉のばか」


 僕の背後から声がしたので振り向くと、なんと絵菜が頬を膨らませてこちらを見ていた。


「ええ!? い、いつの間に!? あ、いや、何でもないよ! 何もないから!」

「……ふふっ、慌てる団吉も可愛い。後で一緒に回ってくれたら許してあげる」

「あ、う、うん、分かった……」

「あはは、団吉もモテるようになったなぁ、昔は女子に興味がないような感じだったのになぁ。中学の頃だったか、隣の席の女子に話しかけられても――」

「わ、わーっ! 火野! 掘り返すのはやめてくれ!」


 僕が慌てていると、みんな笑った。うう、どうしてこうなってしまうのか……。



 * * *



 その後着替えてメイクも落として、僕は絵菜と一緒に文化祭を見て回ることにした。

 今年も各クラスで色々な出し物があった。飲食店、作品の展示室、ゲームコーナー、迷路など、どれも楽しそうだった。


「ふふっ、団吉めちゃくちゃ可愛かったな」

「うう、そ、そうかな……天野くんと一緒で何か大事なものを失った気がする……あ、ごめん、絵菜のセリフ丸パクりしてしまって」

「ううん、可愛かったからいいよ、私ドキドキした……」

「あ、お兄ちゃん! 絵菜さん!」


 ふと前を見ると、日向と真菜ちゃんと長谷川くんがいた。


「ああ、みんなまだいたのか」

「当たり前だよー! もう、お兄ちゃん何でコンテストに出ること隠してたの!? めっちゃ可愛かったじゃん!」

「い、いや、自分で言うのは恥ずかしすぎるだろ……」

「お兄様、すごく可愛かったです! もうドキドキしっぱなしで……他のみなさんも可愛いしカッコよかったです!」

「お、お兄さん、高校生ってすごいんだなって思いました! 僕も青桜高校に通いたいな……!」

「あ、ありがとう、嬉しいような恥ずかしいような……」


 うう、もうどうにでもなれと思って頑張ったが、やっぱり近い人に見られるというのは恥ずかしすぎた。まぁでも、可愛いと言ってくれるだけまだマシか。


「ふっふっふー、バッチリ写真撮ったからね! お母さんにも見せてあげよーっと」


 日向がニヤニヤしながらスマホの画面を見せてきた。


「え!? や、やめろ! 恥ずかしすぎて死んでしまう……!」

「やだよーだ、いつも私に勉強勉強って言ってる罰だよー!」


 う、うう、母さんにまで見られてしまうのか。『あらあら、団吉可愛いじゃない! 女の子でもいけるんじゃない?』とか言いそうだな。


 ピンポンパンポーン。


 その時、校内放送が入った。ん? 何だろうと思っていたら……。


『文化祭をお楽しみのみなさま、放送部部長の山崎です。一時から行われた、男装・女装コンテストの投票結果をお知らせ致します。まず男装女子部門です。大接戦の結果、優勝は……二年八組、九十九伶香さんです! おめでとうございます!』


 お、おお、九十九さんが一番票を集めたのか。たしかにカッコよかったし、シンプルな告白系男子というのがみんなをドキドキさせたのかもしれないなと思った。


『次に、女装男子部門です。こちらも大接戦でした。その結果、優勝は……二年五組、日車団吉くんです! おめでとうございます!』


 あ、なるほど、女装男子は日車くんか……って、ええ!? ぼ、僕!?


「だ、団吉、よかったな!」

「やったー! お兄ちゃんすごい! 優勝だよ!」

「お兄様、おめでとうございます! 私もお兄様に一票入れました!」

「お兄さん、おめでとうございます! す、すごい、憧れます!」

「あ、ああ、ありがとう、なんだろう、嬉しいんだけど複雑な気分……」


 僕がそう言うと、みんな笑った。ま、まぁ、一番というのは悪い気分ではなかった。素直に喜ぶことにしよう。しかし僕の何がよかったのだろうか。九十九さんと同じくシンプルだったのがよかったのかな。

 その後、みんなで文化祭を楽しんだ。うん、今年も楽しい思い出が出来た気がする。

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