第83話「女装男子」

「さあさあ、休憩が終わりまして、続きましては女装男子部門! いつもカッコいいあの子が今日は可愛らしい女の子になって、男子も女子もときめいてしまうかもしれませんね! それではいってみましょうー!」


 やっぱり放送部の山崎くんの司会進行は完璧すぎた。僕はやらなくてよかったなと思った。その分ここに出ることになってしまったのだが。


「まずはエントリーナンバー一番! サッカー部期待の爽やかイケメンが、なんと女の子になってしまいます! イケメンがどんな女の子になったのか見ものです! さぁ火野さんどうぞー!」


 火野が颯爽と出てきた。火野は茶色の長い髪をポニーテールにしている。パッと見は高梨さんのようだった。セーラー服を着ていて、スカートも短いのでスラっと長い脚が見える。メイクもバッチリしているのでとても可愛い。


「それでは火野さん、一言アピールをどうぞー!」

「おーっす……じゃなかった、やっほー、火野だよー、なになに、何の話してたのー? 私にも教えてほしいなー、年下の可愛い女の子はみーんな食べちゃいたいねぇ……ふふふふふ」


 まさかの高梨さんスタイルだった。あ、投げキッスもしている。あ、後で怒られるのでは……と思って高梨さんを見たら、「あははは! 陽くんサイコー!」と言っていたので、まぁいいのだろう。「キャーキャー! 火野さん可愛いー!」「ひ、火野、マジで可愛いぜ!」という声が聞こえてきた。うん、イケメンの火野がメイクをするとこんなに可愛くなるのか、くそぅ、イケメンが羨ましい。


「おおっとー! 可愛らしい火野さんが出たぁー! なんかリアリティのある一言でしたが……可愛いから全部許しましょう! さぁそれでは次にいってみましょう! エントリーナンバー二番! またもやサッカー部から今度は部長自ら参戦! 茶髪のイケメンの彼がどんな女の子になってしまうのか! 中川さんの登場です!」


 中川くんが手を振りながら出てきた。シャツをゆるーい感じで着て、ブラウスか何かの上着を腰に巻いている。スカートも短く、ルーズソックスも履いている。髪はくるくると巻いたロングの茶髪だった。


「それでは中川さん、一言アピールをどうぞー!」

「えー、マジだるいっていうかぁー、ていうかあたしが一番になるのは決まってるーみたいなー、マジでみんなのこと好きになりそうみたいなー」


 まさかのギャルスタイルだった。あ、中川くんも投げキッスしている。「キャーキャー! 中川さん可愛いー!」「な、中川、ゆるーい感じがマジでギャルだな! 可愛いぜ!」という声が聞こえてきた。中川くんもイケメンなのでバッチリメイクが決まっている。そういえば高梨さんに「ちょっとメイクを派手めにしてくれないかな」と言っていたのを思い出した。なるほどギャルを貫くためか。


「おおっとー! ギャルっぽい中川さんが出たぁー! ちょーマジでこっちも口癖がうつっちゃうーみたいなー! 可愛いですね! さぁどんどんいきましょう! エントリーナンバー三番! 生徒会唯一の一年生、礼儀正しく丁寧な口調で先輩からの信頼も厚い彼が、今日は女の子になります! 天野さん行きましょう!」


 天野くんがトコトコと出てきた。九十九さんと同じようにちょっとビクビクしているような気がする。天野くんは黒のメイド服に身を包んでいた。胸のところがハートマークになっている。可愛らしい感じがよく出ている。


「それでは天野さん、一言アピールをどうぞー!」

「あ、あの……お、お帰りなさいませご主人様、今日は私の愛が伝わるといいな、あなたのハートいただいちゃうぞっ、も、萌え萌えキュン!」


 まさかの、いや、予想通りのメイドスタイルだった。顔を真っ赤にして手でハートを作っている。「キャー! 天野さん可愛いー!」「あ、天野……! 目覚めちゃったんだな!? こっちも目覚めそうだぜ!」という声が聞こえてきた。火野と中川くんは背が高いが、天野くんは僕よりも低いからか、どこかにこういうメイドさんがいそうだなと思った。ほんとに可愛かった。

 ……天野くんまで終わってしまった。次はついに僕だ。うう、緊張する……。


「おおっとー! メイドの天野さんが出たぁー! 顔を真っ赤にしているところが何とも可愛いですね! 萌え死んでしまいそう! さぁ次は最後となります! エントリーナンバー四番! 生徒会副会長も務める成績優秀の優等生が、今日ついにベールを脱ぐ! 女の子になった彼にドキドキしてしまうかも!? 日車さんどうぞー!」


 うう、呼ばれてしまった。仕方ない、もうどうにでもなれと思ってみんなの前に出る。僕はブレザーの可愛らしい制服を着て、髪の毛は茶色のセミロングにしている。ちょっと東城さんっぽいかな? と思った。イメージは清純派だ。自分で言うのもどうかと思うが。


「それでは日車さん、一言アピールをどうぞー!」

「あ、わ、私……あなたのことが好きになったみたい……胸がドキドキするの……私に一票入れてくれると嬉しいな……私、嬉しすぎておかしくなってしまいそう……」


 ちょっと高めの声でなんとか言い切った。最後の方はまさかの絵菜の言葉の丸パクりである。あ、後で絵菜に怒られても仕方ない。

 静かに僕の言葉を聞いていたみんなが、「キャー! 日車さん可愛いー!」「や、やべぇ、副会長めっちゃ可愛いじゃん! 俺と付き合って!」と、大盛り上がりで声を上げていた。うん、男と付き合うのはさすがにやめておこうと思う。


「はい、これで四人が登場しました! またしばらく見てもらって、同じようにみなさま投票の方をよろしくお願いします! 結果は三時頃発表予定です! ではコンテストに出た全員に再度登場してもらいましょう!」


 山崎くんの呼びかけで、女子、いや男子四人もステージ上に出てきた。八人が横に並ぶ。なんだろう、こんなにカオスな場所が他にあるのだろうか。


「みなさま! 今回コンテストに出てくれた八人に、今一度大きな拍手をお願いします!」


 パチパチパチと、大きな拍手が体育館を包んだ。うう、恥ずかしかったけど、なんとかやり切った。ここまで来れば順位はどうでもよかった。みんなの顔を見ると笑顔になっていた。まぁ、みんなの笑顔を見ていると、出てよかったなと思った。

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