第82話「男装女子」

「さあさあ、この男装・女装コンテストですが、最初は男装女子部門! いつも可愛らしいあの子が今日は男の子になって、カッコいい一面が見えてドキドキしてしまうかもしれませんね! それではいってみましょうー!」


 放送部の山崎くんの司会進行は完璧だった。さすが普段話すことを鍛えているだけある。僕ではこうはいかないなと思った。


「まずはエントリーナンバー一番! 女子バスケ部の部長がここに降臨! 密かにファンクラブがあると聞く、長身で美人の彼女はどんな男の子に生まれ変わったのか! 高梨くんの登場だぁー!」


 山崎くんが言い終わると、高梨さんが颯爽と出てきた。あ、金髪になってる。あれは長ラン? すごく長い学ランを着ていて、手にはなぜか金属バットを持っている。


「それでは高梨くん、一言アピールをどうぞー!」

「やっほー……あ、違った、オラオラぁ! 俺に文句がある奴はかかってきやがれぇー! 俺はこの高校で一番のワルだぜー、みんなまとめてぶっ飛ばしてやるぜー!」


 まさかのヤンキー設定だった。でも「キャー! 高梨くんカッコいいー!」「お、おい、ワルい高梨くんめっちゃカッコよくねぇか!?」という声が聞こえてきた。たしかに軽くメイクもしているのだろうか、美人の高梨さんがキリっとしていてカッコよく見えた。背も高いので学ランも似合っている。


「あはは、優子の奴ノリノリだなぁ」

「う、うん、めっちゃカッコいい、さすが高梨さん、レベルが高い……」


 火野がニコニコしながら高梨さんを見つめていた。


「おおっとー! いきなりワルい高梨くんが出たぁー! これはいつもの美人さんとはイメージが違うのではないでしょうか! さてさて、次にいってみましょう! エントリーナンバー二番! アイドルグループ『メロディスターズ』の『まりりん』が今日は男の子に! いつもの可愛らしい彼女がどんな変身をしたのか注目です! 東城くんどうぞー!」


 高梨さんの登場でざわざわしている中、東城さんが出てきた。ブレザーの制服を着ていて、髪は後ろで一つに結んでいた。手にはなぜか分厚い本を持っている。ちょっと髪の長い男の子としてどこかにいそうな雰囲気だった。


「それでは東城くん、一言アピールをどうぞー!」

「ふっふっふー、こう見えてボクは魔法使いなのさ、ボクの究極魔法でみんなを虜にしちゃうぞっ! エターナルスペシャルラブリーアターック!!」


 そう言って東城さんはくるんと回った。まさかの魔法使い設定だった。「キャー! 東城くん可愛いー!」「や、やばい、弟にしたい!」という声が聞こえてきた。でもやっぱりカッコいいというより可愛い印象が抜けきれない東城さんだった。弟にしたいという気持ちはよく分かる。


「と、東城さんノリノリですね……あ、あれくらい思い切ってやった方がいいのか……」

「う、うん、可愛らしい感じはそのままで、男の子って感じだね」


 天野くんがちょっと顔を赤くして東城さんを見つめていた。


「おおっとー! 魔法使い東城くんが出たぁー! 可愛らしい男の子っていう感じがたまりませんね! さてさて、次に行ってみましょう! エントリーナンバー三番! いつもは生徒会の書記で知的なメガネ美人、実はひっそりとファンもいるとかなんとか! 今日はどんな姿を見せてくれるのか! 大島くんだぁー!」


 またざわざわしている中、大島さんが出てきた。スーツにネクタイという姿で、手には鞄を持っている。長い髪を隠して茶色のウィッグをつけている。メガネはとっているので、大島さんの綺麗な目がよく見える。


「それでは大島くん、一言アピールをどうぞー!」

「ふふふふふ、僕の手にかかれば、どんな難しい商談でもちゃんと契約してみせるさ! そう、僕はスーパーエリートだからね!」


 まさかのエリートサラリーマン設定だった。「キャー! 大島くんカッコいいー!」「な、なんかめっちゃ仕事ができる男に見えるな!」という声が聞こえてきた。たしかに知的な大人の男性というイメージだった。美人で真面目な大島さんにぴったりなのではないかと思った。


「おお、大島さん、いつもの知的なイメージをさらに生かしてきたね!」

「う、うん、さすが大島さん、自分のキャラが分かっているのかも」


 中川くんがうんうんと頷きながら大島さんを見つめていた。


「おおっとー! エリートサラリーマン大島くんが出たぁー! 大島くんの会社は業績も上がりまくってウハウハなのではないでしょうか! さてさて、次はラストです! エントリーナンバー四番! みんなが愛する生徒会長がここに現る! 切れ長の目で妖艶な彼女は男性になってもきっと素敵なのでしょう! 最後は九十九くんです!」


 最後の九十九さんが出てきた。灰色というめずらしい学ランを着ていて、髪は後ろで一つに結んでいた。手には鞄を持っている。他の三人と違ってちょっとビクビクしているようにも見えるが、顔は間違いなくカッコよかった。


「それでは九十九くん、一言アピールをどうぞー!」

「え、あ、ぼ、ボク……あなたのことが好きです! 一緒のクラスになってから、ずっとあなたを見ていました! 付き合ってください!」


 まさかの告白系男子の設定だった。いやそんなジャンルの男子がいるのか分からないが。「キャー! 九十九くんカッコいいー!」「や、やばい、生徒会長と今すぐ付き合いたい!」という声が聞こえてきた。緊張しているのかちょっとビクビクしている姿が逆に惹かれるものがあった。たしかに付き合いたいと思う気持ちも分かる気がする。あ、僕は男だった。


「つ、九十九先輩、恥ずかしかったのかもしれませんね」

「う、うん、でも逆にそれがいい雰囲気を出しているというか、九十九さんの人気が高まりそう」


 天野くんがニコニコしながら九十九さんを見つめていた。


「はい、これで四人が登場しました! みなさんもうしばらくじっくり四人を見てください! そして一番いいと思った人に、生徒の方は生徒用ホームページから、それ以外の方はお渡ししている投票用紙で、ぜひ投票をよろしくお願いします! 五分の休憩の後、今度は女装男子部門にいきたいと思います! お楽しみにー!」


 休憩が入る。この後はついに僕たちの出番だ。僕はドキドキしていた。


「おっ、団吉緊張してるのか? よっしゃ、次は俺らの番だな、頑張ろうぜ」


 火野がそう言って右手を出してきたので、四人で右手を出してグータッチをした。少し緊張がほぐれた気がする。うん、ここまで来たら頑張っていい思い出にしようと強く思った。

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