第81話「メイク」
お昼を食べた後、僕と絵菜は体育館へ向かった。もちろん男装・女装コンテストのためだ。ついにこの時が来てしまう。僕はドキドキを通り越して変なテンションになっていた。
僕たちは男子の控室コーナーへと行く。すでに火野と中川くんと天野くんがいて、高梨さんと東城さんもいた。おそらくメイクをしに来たのだろう。
「おーっす、団吉お疲れー、ついにこの時が来てしまったな!」
「お疲れさま、ほ、ほんとにやるのかとドキドキしてきた……」
「日車くんお疲れさま! たしかになんかドキドキするね!」
「日車先輩、お疲れさまです! で、でも、やらなきゃいけないんですかねこれ……」
「あはは、ついに来てしまったねぇ、もう後戻りはできないからね、みんな覚悟を決めるように!」
高梨さんに言われて、みんな「は、はい……」と答えた。
「とりあえず着替えるか、こんなに衣装あるんだな、どこから集めたんだろ?」
「ほんとだな、なんか色々あって迷ってしまうよ」
火野と中川くんが衣装を色々と見ている。うちの高校ではない女子の制服や、ナース服、メイド服、スーツ、バニーガールの服など、本当にどこから集めたのか気になるくらいたくさんの衣装が並んでいた。
「た、たしかに、どこから集めたのか気になるけど、好きなもの選んで着替えようか」
僕はとりあえずブレザーの可愛らしい制服を選んだ。女子たちから離れて隅っこで着替える。あ、絵菜がこっち見ようとしてくる。僕は慌てて前を隠した。
「お、おお、スカートってこんなにスースーするのか、なんか不思議な気分だぜ」
「ほんとだな! 女の子はみんなこんな感じなのか!」
「う、うう、これでみんなの前に出るのか……は、恥ずかしいです……」
「天野くん、もう覚悟を決めよう、天野くんも言っていたように、僕たちは運命を共にするんだよ」
みんなそれぞれ衣装に着替えた。何の衣装にしたのかはまだ内緒にしておこう。火野や中川くんは背が高いから脚が長くてスラっと見える。くそぅ、イケメンはほんと羨ましい……って、あれ? これは本当に羨ましいのだろうか。
「みんな着替えたねー、じゃあ陽くんと中川くんはそこ座ってー、メイクするよー」
高梨さんに言われて、二人が「はーい」と答えて座る。高梨さんがメイクを始めた。
「だ、団吉さんが女の子になってる……! そんな団吉さんもいいですね……あ、天野くんも座って! メイクするよ!」
「ほ、ほんとにメイクしちゃうの……!?」
「そうだよー、みんなするんだから! ほらー男の子なら文句言わない! あ、今は女の子か」
東城さんに無理矢理座らされる天野くんだった。
「団吉もメイクしよっか、そこに座って」
「あ、う、うん、そういえばウィッグとか鞄とか、小物もたくさん用意されてるんだね……」
「そだよー、自分のキャラに合う小物を持って行っていいんだよー、あ、やばっ、陽くん可愛くなってる!」
高梨さんが火野にメイクをしている。やはり火野は顔が整っているから似合いそうだよな……。
「は、初めてスカート履いたけど、なんかスースーするね、スカートってこんな感じなのか……」
「ふふっ、団吉脚綺麗だな……私負けてるかも……」
「え!? い、いや、それはないと思うよ……」
「ふふっ、あ、団吉脚閉じておいて。女の子なんだから」
そ、そっか、ついクセで脚を開いてしまった。今はスカートなのだ。
そして絵菜が僕の顔にメイクをしていく……うう、くすぐったくなってきた。頬や唇はそうでもないけど、アイラインとか目の近くはすごく怖いのだが、女性はこんなことをやっているのか、すごいなと思った。
しばらく目をつぶったり開けたり、絵菜に言われるがままになっていると、
「できた……だ、団吉可愛い……!」
「絵菜できたー? どれどれ……ああ! 日車くん可愛いー!」
「わぁ! 団吉さん、すごく可愛いです! ほ、惚れそう……」
と、女子三人の声が聞こえて来た。
「え、あ、どんな感じなんだろう? 鏡ない?」
「あ、団吉ダメ、終わるまで見ないで。みんなそうしてるから」
「ええ!? あ、分かった……」
なんだろう、見るなと言われるとすごく気になってしまう。その代わり他の人の顔は見える。火野も中川くんもイケメンなのでさらに輝いて見えた。天野くんも可愛らしい感じがして、こういう女の子いるよなと思った。
と、とりあえずあとはウィッグを選んだ方がいいよな、僕はどうしようかな、シンプルに茶色のセミロングのウィッグをつけることにした。
「あ、やばい、私たちも着替えなきゃー! 東城さん行こう!」
「あ、はい! それではみなさんまた後で!」
「じゃあ私も出て行く、団吉、応援してるから」
バタバタと女子三人が出て行った。残ったのは男子四人……いや、今は女子四人だった。
「お、おお……みんな雰囲気変わったな……こんなに変わるもんなんだな」
「あ、ああ、火野も日車くんも天野くんも可愛い……」
「み、みなさんこんな感じなんですね……こういう子いる……」
「う、うん、このまま女子としてやっていけそうだよね……」
男子、いや女子四人がお互いを見て感想を言い合う。変な友情が生まれた気がした。
他の小物もあった方がいいかなと思って選んでいると、時間となった。僕の代わりに司会となってくれた放送部の男子がステージに上がる。
「レディース、アーンド、ジェントルメーン! さあさあ、ついにやって来ました! 今年の文化祭の一大イベント、『男装・女装コンテスト』、ここに開幕でーす! 司会はワタクシ、放送部の二年三組、
会場からパチパチパチと拍手が起こる。僕たちはもちろん外に出ることができないので、控室からこっそりとステージを見る。先日放送部部長の山崎くんに司会をお願いに行ったところ、「オーケーオーケー、任せておいて! 素晴らしいコンテストにしてみせるよ!」と、なぜかやる気を見せていた。まぁ僕の噛み噛みの危なっかしい司会進行よりも、その道のプロに任せておけば大丈夫だろう。
ついに始まるのだ。き、緊張する……けど、ここまで来たらその場のノリに任せて思いっきりやろうと思った僕だった。
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