第80話「二年目の」

 文化祭の日になった。

 青桜高校の文化祭は毎年サブタイトルがついている。今年は『青桜祭 ~ここから未来へ羽ばたく~』という、またよく分からないものだった。先生たちに言われて決まったので、誰が決めているのかは僕たち生徒会メンバーも知らないのだった。

 最初に体育館に集まり、九十九さんの挨拶があった後、それぞれクラスに戻り始まった。最初は「大阪くいだおれ店ってなんだ?」という声も聞こえていたが、説明を書いたボードも出していたので、「ああ、お好み焼きとたこ焼きか」とお客さんが理解するのは早かった。ちなみにその説明も大島さんが熱心に書いていた。

 最初はぽつぽつとお客さんが来るくらいだったが、十時を過ぎたあたりからだんだんとお客さんも増えて忙しくなってきた。僕はクラスメイトと力を合わせてお好み焼きとたこ焼きを焼く。まぁそんなに難しくないのでどんどん出来ていた。


「……日車くん、大島さん、お疲れ、けっこう忙しいね」


 ウェイターをやっていた相原くんが厨房スペースにやって来た。今年は去年のようなメイド服や制服はなく、みんなエプロンをつけてシンプルだ。代わりに通天閣の置物や、太陽の塔の絵など、ちょいちょい大阪の雰囲気をクラス内に出していた。


「お疲れさま、うん、けっこう忙しいね」

「お疲れさま、相原くんもエプロン姿似合ってるわね、カッコいいわよ」

「……そ、そうかな、まぁ、去年はサボったから今年はちゃんとクラスの役に立とうと思って」

「うんうん、よく言ってるけど、相原くんが学校来てくれて僕は嬉しいよ」

「そうよ、勉強も頑張ってるみたいだし、相原くんも変わったのね。私も嬉しいわ」


 僕と大島さんが褒めると、相原くんは「……そ、そっか」と言いながら顔をポリポリとかいた。少し赤くなっている。


「みなさんお疲れさまです……! あ、日車さん、彼女さんと妹さんたちが来てますよ」


 相原くんと同じようにウェイトレスをやっている富岡さんがやって来た。え? と思ってクラスの中を見ると、絵菜と日向と真菜ちゃんと長谷川くんが一緒に座っていた。僕はみんなの元へ行く。


「なんだ、みんな一緒だったのか」

「あ、団吉、エプロン姿もいいな……」

「あ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは今年もエプロン姿なんだね」

「お兄様こんにちは! すごくカッコよくてドキドキしてしまいます」

「お兄さんこんにちは! せ、青桜高校の文化祭ってこんな感じなんですね! 憧れます!」

「あはは、ありがとう、みんなせっかく来てくれたんだし、ぜひ食べて行って」

「あ、じゃあ、私はお好み焼きにしようかな……」

「私はたこ焼きかなー! 真菜ちゃんと健斗くんは何にする?」

「私もたこ焼きかなぁ、お兄様が作るんですね!」

「あ、じゃあ僕はお好み焼きにしようかな、お願いします!」

「あ、そうだ、日向ちゃんも真菜も長谷川くんも、一時になったら体育館に来て。絶対楽しいから」


 急に絵菜がそんなことを言った。一時? 何かあったっけ……って、も、もしかして……!


「あ、ああ、それは行かなくてもいいんじゃないかな……あはは」

「あ、お兄ちゃん、何か隠してるって顔してる。絵菜さん、何があるんですか?」

「まあまあ、お兄様隠し事はよくないですよ」

「ぼ、僕も隠し事はよくないと思います! ……はっ!? す、すいません偉そうに」

「ふふっ、団吉、一時になってからのお楽しみにしておこうか」

「え!? い、いや、まぁ……あ、作って来るね、ちょっと待ってて」


 慌てて厨房に戻る僕だった。あ、アレをみんなに見られてしまうのか? いや、まだどんな風になるのか自分でも分からないけど、特に身内である日向に見られるのはかなり恥ずかしいものがある。どうにかして見られない方法はないか……と思ったが、そんなものはなかった。


「沢井さんたち来てたのね、あ、あれが妹さんかしら? へぇ、本当に沢井さんには似てないのね」


 厨房に戻ると、クラスの中を見ていた大島さんが僕に話しかけてきた。


「あ、うん、みんなで一緒に来たみたい。大島さんお好み焼き二つ焼いてくれる? 僕はたこ焼き作るんで」

「まかせなさい、ねぇ、日車くんの妹さんに今日のこと話したの?」

「え、い、いや、恥ずかしすぎて何も言ってない……でも、見られることになるかも……」

「そっか、身内の人に見られるのは恥ずかしいかもしれないわね、でも大丈夫、日車くん可愛いから」


 ぜ、全然大丈夫じゃないと思ってしまったが、口に出すのはやめた。

 お好み焼きとたこ焼きができて、相原くんと富岡さんが持って行ってくれた。四人は美味しいと大満足の様子だった。

 その後、木下くんと杉崎さん、火野と高梨さん、天野くんと東城さん、中川くんと知らない女の子が遊びに来た。くそぅ、みんなカップルで来やがって……! あ、天野くんと東城さんはまだ違ったか、中川くんと一緒にいた可愛い女の子は誰だろう?

 十一時半になる頃に、「日車くん交代するよ」とクラスメイトが言ってくれたので、交代して僕は隣の六組へと行った。ミニゲームで盛り上がる教室の中に、絵菜の姿があった。


「あ、団吉、自由時間か?」

「うん、交代してもらったから絵菜のところに遊びに行こうと思って。色々なミニゲームがあるんだね」

「うん、ぜひ遊んで行って。景品もあるから」


 せっかくなので楽しんでいくことにした。あ、これは射的か、割り箸で作られた銃で輪ゴムを撃って的を倒すものだった。割り箸の銃って昔作った覚えがあるな。

 僕は射的をやってみることにした。三回チャレンジできるらしい。僕は狙いを定めて十点の的を……あ、倒すことができた。次は少し小さい三十点の的を……あ、これも倒すことができた。けっこうできるのか? じゃあ一番小さい五十点の的を……あ、わずかにそれて倒せなかった。でも四十点か、なかなかいいのではないだろうか。


「あ、団吉四十点だな、じゃあ……これを」


 絵菜が景品を渡してきた。あ、トラゾーのぬいぐるみだ! 可愛い!


「あ、ありがとう! 嬉しいよ!」

「ふふっ、やっぱりトラゾーが好きなんだな」

「あ! 沢井さんの彼氏さんだ!」

「ウソ!? 副会長って沢井さんの彼氏だったの!?」


 急に六組の女子たちに囲まれてしまった。絵菜は「あ、ああ……」と、ちょっと恥ずかしそうにしていた。そんな絵菜も可愛かった。

 さて、お昼を挟んでこの後大変なイベントが待っている。僕はひっそりと気合いを入れ直していた。

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