第79話「前日」
文化祭が明日となった。今日は最後の準備でみんな大忙しだ。
僕は当日の調理担当だが、「……日車くんごめん、こっち手伝ってくれない?」と相原くんに言われて、飾り付けの手伝いをしている。去年もこういうことがあった気がする。頼まれると断れない性格なのは相変わらずだった。
教室の入り口のところに「大阪くいだおれ店」と大きな看板が掲げられた。うん、目立ってていいのではないかと思う。「なんだそれ?」と思われるかもしれないが、それでお客が入ってくれればバンザイだ。
「……いい感じになってきたね、もう明日なんだなって思うよ」
相原くんがやって来てぽつりとつぶやいた。みんなでこれまで準備を頑張ってきたのだ。絶対に成功させたいと思った。
「うん、あっという間だね。お客さんがたくさん来てくれることを祈るよ」
「……うん。去年は俺文化祭もサボったけど、こうして参加してみるといいものだなって思うよ」
「そっかそっか、みんなで何かをやるのも悪くないよね。僕も昔はどうせ一人だしめんどくさいなって思っていたけど、みんなのおかげで楽しめるようになってきたよ」
「お疲れさま、買い出しに行って来たわ、今年もたくさん材料があるから、全部なくなるといいわね」
「お疲れさまです……! いっぱい買ってきました……重かった……」
大島さんと富岡さんとクラスメイトが両手に荷物をいっぱい持ってやって来た。
「あ、お疲れさま、大変だったね、こっちの準備もだいぶできてきたよ」
「ほんとね、いい感じだわ、大阪を感じるわ。そう、明日はここは大阪になるのよ。みんな関西弁でしゃべらないとね。『もうかりまっかー、ぼちぼちでんなー』ってね」
「え!? そ、そこまでやるの? しかもセリフがなんかおかしい気がするけど……ま、まぁいいや、とにかくたくさん人が来てくれるといいね」
「……うん。それにしてもあいつまた偉そうだね。やっぱり嫌いだ」
相原くんの視線の先には、クラスメイトに色々と指示を出す野球部のクラスメイトがいた。
「そ、そうだね、きっと彼も成功させたい気持ちが大きいんじゃないかな」
「……そうだとしてもあんなに命令しなくてもいいのに。日車くんの謙虚さを見習ってほしいよ」
「そうね、日車くんの爪の垢を煎じて飲ませようかしら」
「ほんとですね、日車さんの方が好かれると思います……」
「え、ま、まぁ、彼も彼なりに頑張っているからさ、そっと見守っておこうよ」
うーん、でもたしかにクラスメイトに対して命令口調なのはよくないよなぁと思った。もう少し言い方を変えてもらうことはできないものか……。
「……あ、日車くん、彼女がこっち見てるけど、行かなくていい?」
相原くんの言葉に、え? と思って廊下を見ると、絵菜がじーっとこちらを見ていた。
「あ、ごめん、ちょっと行ってくるよ」
「私たちも荷物置きにいかないとね、富岡さん行きましょ」
「あ、そうですね、行きましょう……!」
相原くんたちと別れて、僕は廊下にいた絵菜の元へ向かう。よく見ると火野と高梨さんと中川くんもいた。
「お疲れさま、みんな順調?」
「おーっす、お疲れ、だいぶ準備できたぜ。あとは明日を待つのみだな」
「日車くんお疲れさま! 五組は飲食店か、時間を見つけて遊びに行くよ!」
「やっほー、お疲れさまー、うちもほとんど終わったよー、明日が楽しみだねぇ」
「団吉、お疲れさま、うちもだいぶ終わった。なぁ、今年も時間があったら一緒に回らないか?」
「うん、いいよ、一緒に回ろう。あ、でもそういえば男装・女装コンテストに出ないといけないんだった……思い出してしまった……」
そう、すっかり忘れるところだったが、男装・女装コンテストに僕も出ないといけないのだ。たしか午後一時から行われることになっている。
「あはは、そういえば日車くんも出るんだねぇ、面白くなってきたぁー!」
「おう、団吉には負けねぇぜ!」
「ああ、俺も日車くんには負けない!」
なぜかやる気を出す火野と高梨さんと中川くんだった。
「そ、そういえば、九十九さんと大島さんが出ることになったのって、もしかして……」
「そそ、私たちが推薦しておいたよー、二人とも美人じゃん? きっと男装したら似合うだろうなーって思ってねー」
や、やはりこの三人の仕業だったか。きっとそうなんだろうなと思っていたが、大島さんもやる気を出していたし、まぁいいか。
「ほんとは絵菜も推薦するつもりだったんだけどねー、本人が絶対嫌だって言ってきかなかったからねー、見たかったなぁ絵菜の男装姿、絶対カッコいいと思うのにー」
「絶対嫌だ。去年も無理矢理メイドにさせられたし……!」
まだ根に持っている絵菜だった。いや、絵菜のメイド姿は本当に可愛かった。顔を真っ赤にして接客している姿を今でも思い出す。
「しかし、男装女子メンバーには東城さんもいるんだねぇ、現役アイドルに勝てるかなぁ」
「たしかに東城さんは人気を集めそうだよなぁ、でもカッコいいというより可愛いが抜けないんじゃねぇか?」
「たしかに……東城さん可愛いからなぁ……はっ!?」
つい東城さん可愛いと口にしたところ、絵菜が面白くなさそうな顔で僕を見ていた。
「あ、そ、その、つい口に出てしまったというか……」
「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。そうだ、団吉女装するなら、私がメイクしてあげようか?」
「ええ!? そ、そこまでやらないといけないの……!?」
「あはは、いいんじゃないかなぁ、絵菜にしてもらいなよー、私も陽くんと中川くんのメイクしてあげるつもりだからさー」
「そ、そうなんだね、そこまでやるのか……じゃ、じゃあ絵菜にお願いしようかな」
「ふふっ、団吉可愛いから、絶対女子になっても可愛いと思う」
「たしかに、団吉は可愛い雰囲気あるよな、やべぇ、負けられねぇ!」
「ああ、たしかに日車くんは女子になっても可愛らしさはそのままのような気がするよ!」
「え!? そ、そうかな、自分ではよく分からないけど……」
な、なんかみんな上手いこと言って僕をのせようとしてない? と思ったが、口に出すのはやめた。うう、本当に女装するのか……ええい、もうどうにでもなれと思った僕だった。
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