第77話「推薦」

「ええ!? な、なんでこんなことになってんの……!?」


 生徒会室で大島さんが大きな声を出した。ある日の放課後、生徒会メンバーが集まって来月行われる文化祭のまとめを行っていた。生徒会がそのまま文化祭実行委員になっているため、各クラスの出し物やイベントの収集を行うのだ。


「ん? 大島さんどうかした?」

「い、いや……文化祭で行われる『男装・女装コンテスト』に私が出ることになっているのよ……なぜ? も、もちろん立候補した覚えはないんだけど……」


 大島さんがプルプルと震えている。そう、今年は体育館でのイベントの一つとして、『男装・女装コンテスト』が行われることになっている。内容はそのままで、男子が女装をして、女子が男装をして、一番可愛い、カッコいい人を決めるというイベントだ。


「あ、そうなんだね、誰かが推薦したのかもしれないね」

「い、一体誰が……うーん……さては日車くんの仕業ね!?」

「え!? い、いや、僕は何もしてないよ!」

「大島さん、すごいじゃない! 誰か大島さんのファンがいるのかもしれないね! 頑張ってね!」

「九十九さん、頑張ってねって言ってる場合じゃないわよ、あなたも出ることになっているのよ」

「……ええ!? ど、どうして……!? わ、私ももちろん立候補なんてしてないけど……」

「さ、さぁ……ま、まさか生徒会に恨みがある人がいるとか……?」

「あはは、考えすぎですよ、いいじゃないですか、九十九先輩も大島先輩も美人なんだし、男装も似合いそうですよね」

「天野くん、あははって笑ってる場合じゃないわよ、あなたも出ることになっているのよ」

「あはは、そうそう僕も……って、ええ!? な、なんで!? ぼ、僕もりりり立候補なんてしてないですけど!?」

「大島さん、ちょっとコンテスト出場者一覧を見せてくれない?」


 僕は大島さんから紙を受け取って一覧を見てみる。な、なるほど、たしかに男装女子のところに九十九さん、大島さん、女装男子のところに天野くんの名前がある。こ、これは本当に生徒会に恨みがある人が勝手に推薦したと疑ってもおかしくなかった。


「ほ、ほんとだね、うーん、生徒会に恨みがある人がいるっていうのは考えすぎかもしれないけど、そう思ってもおかしくないかも……」

「そ、そうよね……わ、私たちなら生徒会だし文化祭実行委員だし、断れないと思われているのかもしれないわね……」

「ど、どうしよう……わ、私男装なんてしたことないし……」

「ぼ、僕もですよ、じょ、女装なんてしたことないですよ……なんでこんなことになってしまったんだ……」


 九十九さんも天野くんもプルプルと震え出した。


「ふ、二人とも落ち着いて……ん? 男装女子のメンバーに東城さんがいる……!?」

「……あ! そ、そういえば東城さん、『天野くん、一緒にコンテスト出ない?』って言ってたような……ま、まさか東城さんが僕を推薦したのでは……!?」

「な、なるほど、東城さん自身は立候補で、天野くんを道連れにしたということか……ん? さらに見ると男装女子に高梨さん、女装男子に火野と中川くんがいる……!?」

「……ま、まさか私と九十九さんが推薦されたのは、その三人の仕業では……!? た、高梨さんならやりかねない気がしてきたわ……」


 そ、そういえば高梨さんが、『私コンテストに出るかもしれないんだー、でもお楽しみはそれだけじゃないんだよねぇ、ふふふふふ』と言っていたのを思い出した。何のことだろうかと思ったがその時はあまり気にしていなかった。火野と中川くんと組んで、こっそり九十九さんと大島さんを推薦したというのもあり得る話だ。


「そ、そういえば高梨さんがそれらしきことを言っていたような……でもよかったね、生徒会に恨みがある人がいるっていうわけでもなくて」

「それはそうなんだけど、私だって男装なんてしたことないわよ……あ、あれ? でもちょっと楽しみかもしれないわね」

「え!? お、大島さん急にどうしたの?」

「い、いや、男装なんてする機会がないから、私が男の子になったらどうなるんだろうっていう、一種の興味というかなんというか」

「そ、そっか、まぁ、大島さんも美人だし、きっとカッコいい男の子になれるんじゃないかな」

「ふふふ、日車くんがそう言うなら仕方ないわね、出てやるわよ! 私が絶対に勝つんだから……」

「お、大島さん出るの!? わ、私は自信ないというか……」

「何言ってるのよ、こうなったら九十九さんも出ましょ、私たちでワンツーフィニッシュして生徒会の力を見せつけるわよ!」


 急に燃え始めた大島さんだった。さ、さっきまでプルプル震えていたのに、この変わりようである。


「なるほど……じゃあ、男装女子メンバーが九十九さん、大島さん、高梨さん、東城さんで、女装男子メンバーが火野、中川くん、天野くんということになるのか」

「そうね、でも、ちょっと納得いかないことがあるわね……」

「う、うん、私も大島さんと同じこと思った……」

「たしかに、このままじゃ納得いかないですね……」


 三人が納得いかないという顔でメンバー一覧を見ていた。ん? 何のことだろうか?


「ん? みんなどうしたの? 生徒会に恨みがある人もいなかったし、コンテストのメンバーも決まったし、めでたしめでたしという感じなんだけど」

「……みんなの思惑は一致したようね、そうよ、日車くんだけ出ないなんておかしいのよ! というわけで、日車くんもメンバーに追加ね」

「あはは、そうだよね僕も……って、ええ!? そ、それはよくないよ! だ、誰が司会進行するの!? 文化祭実行委員は僕たちだし、僕は副会長だから司会進行もあるから……あはは」

「そんなのは私たちの権限で代役を立てればなんとでもなるわよ、九十九さん、天野くん、抑えて!」


 大島さんの声とともに、僕の両腕は九十九さんと天野くんに抑えられてしまった。そして大島さんがメンバー一覧に何かを書き込んでいる。


「え、え!? ま、まさか……」

「ふふふふふ、バッチリ日車くんの名前も書いておいたわ、これで逃げられないわよ」

「ええ!? ぼ、僕も!? な、なんでこんなことに……」

「日車くんだけ逃げるなんて、ずるい」

「そうですよ、僕たちは運命を共にするんですよ」


 九十九さんと天野くんがニコニコしている。と、とんでもないことになってしまった。ぼ、僕が女装する!? ああ、なんだかクラクラしてきた。保健室行った方がいいのかな……。

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