第76話「大阪推し」
模試から数日後、結果が出た。
全国順位、偏差値の他に、学校内の順位も載っていた。僕は学年で四位だったらしい。うっ、夏休み明けのテストからは一つ落ちてしまった。でも数学は満点だし、他も割といい成績を残せたと思う。
志望校としていくつか書いておいた理学部系の大学の判定も、ほぼAとかなりいいものだった。大西先生は「日車ならもっと上の大学を目指してみてもいいんじゃないか」と言っていた。なるほど、今の自分の実力がどんなものか試せたのは大きかったと思う。
「日車くんは四位なのね……また勝てなかったわ……」
隣から覗き込んできた大島さんが、ガックリと肩を落とした。
「え、あ、大島さんは何位だった?」
「私は八位よ……うう、どうして日車くんに勝てないのかしら……自分が嫌になるわ」
「ま、まぁ落ち着いて……今回は順位よりも大学の判定を見ておいた方がいいのかもしれないね」
「そうね、私も理学部系と情報工学部系をいくつか書いておいたけど、今のところ判定はよかったわ」
「そっか、まぁ大島さんなら大丈夫だと思うよ」
「……はーい、日車くん、大島さん、話し合いに参加してー」
突然名前を呼ばれて、僕と大島さんは同じようにビクッとしてしまう。そうだった、今は来月行われる文化祭の出し物についての話し合いが行われているのだった。つい大島さんと模試の話をしてしまった。
「……はーい、ここに書いてあるものの他に何かあったら言ってくださーい」
学級委員が間延びした声で言う。な、なんかやる気があまり感じられない子だなと思った。もしかしたら僕と大島さんの代わりに学級委員になったのが不満なのかもしれない。
「な、なんかあの子やる気なさそうなしゃべり方するわね……」
「う、うーん、僕たちの代わりに学級委員になったのが嫌だったのかなぁ……」
「……日車くんたち、あの中からどれにするか決めた?」
後ろの席から相原くんが話しかけてきた。今何が候補として挙がっているのだろうかと見てみたら、演劇、展示物、カフェ、お化け屋敷、ミニゲーム、大阪くいだおれ店があった。
「……ん? 最後の『大阪くいだおれ店』って、何だろう?」
「ふふふふふ、私が出しておいたのよ、お好み焼きとたこ焼きをこれでもかっていうくらい振る舞うのよ。そう、ここは大阪。商人の街。来た人みんなに大阪を感じてもらうのよ」
「ああ、単純にお好み焼きとたこ焼きを出す飲食店ってことか」
「な、なんでそんな簡単にしちゃうのよ、あ、あの中ならわりといい方なんじゃないかしら」
「大阪くいだおれ店、私は賛成です……! ソースの香りって食欲が湧いてきますよね……!」
後ろの席から富岡さんがニコニコしながら言った。え、富岡さんは賛成しちゃうのか。でもよく考えるとあの中だったらわりといい方なのかもしれないなと思った。去年はカフェだったので、今年もカフェっていうのもどうかなと思うし、演劇は恥ずかしいし、お化け屋敷は設営が大変そうだと思ったからだ。
「なんか、ネーミングセンスは別として、大阪くいだおれ店がまともに見えてきた……」
「……うん、俺も日車くんと同じこと思ってた」
「まぁたしかに、ネーミングはちょっと不思議な感じがしますね……」
「な、なんでネーミングセンスを疑うのよ、いいじゃない、じゃあ四人で大阪くいだおれ店に手を挙げましょ」
「……はーい、他にないみたいなので、この中から決めちゃいまーす、手を挙げてくださーい、演劇がいい人ー?」
それぞれの候補にみんなが手を挙げる。パッと見た感じカフェと大阪くいだおれ店が同じくらいで多いのかなというところだった。
「……はーい、結果は……あ、カフェと大阪くいだおれ店が同じ票でトップだ、めんどくさいな、もう一度聞くのでこの二つでどちらかいい方に手を挙げてくださーい、カフェがいい人ー」
め、めんどくさいって言っちゃった。みんなワイワイと話しながらそれぞれに手を挙げる。僕たち四人はここでも大阪くいだおれ店に手を挙げた。
「……はーい、結果は、大阪くいだおれ店になりましたー、じゃあめんどくさいのでこのまま役割も決めていきまーす」
パチパチパチと拍手が起こる。本当に大阪くいだおれ店になってしまった。め、めんどくさいを連発しているのが気になるけど、そのまま役割分担を決めていく五組だった。
* * *
その日の放課後、僕と絵菜はいつものように一緒に帰っていた。
「団吉のとこは文化祭で何やるか決まった?」
「うん、大阪くいだおれ店っていう、まぁお好み焼きとたこ焼きを出す店になったよ。絵菜のところは決まった?」
「うん、ミニゲームになった。去年中川のクラスがやってたようなやつかな」
「ああ、あれも面白かったよね。ぜひ遊びに行きたいな」
「うん。団吉のとこは飲食店か、また団吉は調理するのか?」
「そうだね、一応当日の調理担当になったから、また作る側だね」
「そっか、さすが団吉だな、私も色々料理できるようになりたいな……」
「まぁ、お好み焼きとたこ焼きだったらそんなに難しくはないよ。本当は冷凍のを使う手もあったんだけど、大島さんが大反対してね……よく分からないけど」
「……大島、何考えてるかたまに分かんないよな」
うーん、たしかに大島さんの考えていることは謎だった。作るところから大阪を表現したいのだろうか。大島さんは自ら率先して調理担当になっていた。ていうかなぜそんなに大阪にこだわるのだろうか。
「ま、まぁ、大島さんも大阪に対する憧れみたいなものがあるのかもしれないね」
「そっか、私もお好み焼きとかたこ焼きとか作ってみたいな……」
「あ、じゃあ、今度うちでたこ焼きパーティーでもする? うちにあるホットプレートにたこ焼きのプレートもあったから、できるよ」
「そうなのか、うん、楽しそうだな、やってみたいかも」
「うんうん、日向や真菜ちゃんも一緒に。あ、火野や高梨さんを呼んでもいいかもしれないね」
「うん、あのくるって回すの、やってみたい」
絵菜がニコッと笑って左腕に抱きついて来た。うん、たこ焼きパーティーも面白そうだ。まぁ文化祭は頑張るとして、絵菜と一緒にいることばかり考えている僕だった。
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