第72話「写真」

 オーストラリアから帰ってきた次の日、金曜日だったが僕たちは学校が休みだった。母さんは仕事、日向は学校だったので、僕は一人で家でのんびりしていた。

 短い間だったが、オーストラリアではたくさんの思い出が出来た。たくさんの自然も見ることができたし、日本の街並みとは違うケアンズの街並みも十分に楽しんだ。そしてファームステイで素敵な出会いがあった。僕は修学旅行のしおりを見ながらひとつひとつを思い出していた。

 昨日帰ってから日向と母さんにおみやげを渡した。紅茶とクッキーで、さっそくいただいた二人は「美味しいね」と言っていた。僕もクッキーを食べてみたが、たしかに美味しかった。他にも天野くんや東城さん、バイト先のおばちゃんたちの分もある。今度持って行こうと思った。

 そして今日の朝、ジェシカさんからメールが届いた。もちろん全部英語だが、こんな文章が書いてあった。


『ハイ! ジェシカです。ダンキチとシュンはもう日本に帰ったのかな? 二人とも本当にありがとう。とっても楽しかった。私ね、頑張ってお金を貯めて日本に行きたいと思っているんだ。日本に行ったら二人が案内してくれると嬉しいな。それと、来年は修学旅行生を受け入れないことにしたんだ。二人のことをずっと大切にしたいし、こんなに寂しい思いをするのは一度だけでいいと思ったから。そうだ、二人がこの通話アプリを使ってくれたら、遠く離れていても会話できるから、今度またお話したいな。リンク送るね。それじゃあまたメール送るね。あ、ダンキチはガールフレンドの写真送ってくれると嬉しいな。またね!』


 全部読み終わって、美人でとても明るいジェシカさんを思い出していた。そっか、修学旅行生はもう受け入れないのか。たしかにお別れは寂しいものがあるよなと思った。

 ジェシカさんにメールをしようとスマホでポチポチ打つのだが、日本語と違って英語はなかなか打ちにくいことが分かった。うーん、パソコンだったらもっとスムーズに打てるかもしれない。やっぱりパソコンを買おうと思った。

 苦戦しながらメールを書いていると、RINEが届いた。送り主は相原くんだった。


『日車くん、お疲れ。通話したいんだけど、いいかな?』


 あ、相原くんもジェシカさんのメール読んだのかな? と思って、『うん、いいよ』と送ると、すぐに通話がかかってきた。


「……もしもし、日車くんお疲れ」

「もしもし、お疲れさま、そういえばジェシカさんからメール来てたね、読んだ?」

「……うん、一生懸命単語を調べて、なんとか読めたよ。ジェシカさん、もう修学旅行生を受け入れないんだね」

「そうみたいだね、やっぱりかなり寂しかったんだと思う。二人のことをずっと大切にしたいって書いてあったね」

「……うん、俺、やっぱりジェシカさんが好きだ。遠く離れているけど、この想いはどうしても諦められない」


 相原くんから力強い言葉を聞いた。僕はとても嬉しくなった。


「うん、相原くん、気持ちをメールで伝えてみようよ。きっとジェシカさんも分かってくれると思う」

「……うん、頑張って書いてみる。日車くんにも英語間違ってないか見てもらえるとありがたい」

「うん、分かった、任せておいて。あ、それとアプリを教えてくれたね、これがあればRINEみたいに通話できるみたい」

「……なるほど、うん、これを入れてみよう。これから頑張って返事書いてみるよ」


 その時、インターホンが鳴った。あれ? 誰だろう?


「うん、僕も書こうと思うよ。あ、ごめん、誰か来たみたい」

「……あ、うん、ごめん急に電話して、それじゃあまた」

「うん、じゃあまた、学校で」


 通話を切って慌てて玄関へ急ぐと、なんと絵菜が一人で来ていた。


「いらっしゃい……って、あ、あれ? 何かあった?」

「う、ううん、家に一人で寂しくなったから団吉のとこ行ってみようと思って」

「そっか、上がって上がって」


 絵菜をリビングへ案内すると、絵菜がぎゅっと僕に抱きついて来た。


「え、絵菜……?」

「ごめん、急に寂しくなって……団吉としばらく会えない時間があったからかな」

「そ、そっか、あ、そうだ、二人で写真撮らない? ファームステイ先のお父さんと娘さんに『ダンキチのガールフレンドを見てみたいな』って言われたんだけど、そういえば絵菜の写真って持ってなかったなと思って」

「そ、そっか、分かった、でも恥ずかしいな……」

「うん、僕もちょっと恥ずかしい……あ、ソファーに座ろうか」


 ソファーに座って、二人で顔を近づけてスマホを構えて、「はい、チーズ」と言って写真を撮った。どことなくぎこちない二人の姿があった。


「あ、団吉、これダメ、撮り直そう」

「え!? い、いや、絵菜が可愛いと思うけど、ダメ?」

「うん、顔が引きつってる。撮り直しで」


 それから僕たちは何枚か写真を撮った。ぴったりくっついてくる絵菜にドキドキしてしまった。


「うーん、これが一番いいかな……あ、私にも送ってくれないか?」

「あ、うん、いいよ、RINEで送るね」


 僕はスマホを操作して、絵菜に写真を送った。絵菜がそのままスマホを操作している。何をしているんだろうかと思ったら、


「ま、待ち受けにしてみた。これでいつでも一緒」


 と言って、スマホの画面を僕に見せて来た。二人の写真が画面に映っている。


「そ、そっか、なんだか恥ずかしいな……でも、僕も待ち受けにしようかな、絵菜とお揃いにしたい」


 僕もスマホを操作して、二人の写真を待ち受けにしてみた。うん、恥ずかしいけど絵菜とお揃いというのが嬉しかった。


「ふふっ、嬉しい……そういえば写真って撮ったことなかったな」

「うん、ガールフレンド見てみたいって言われた時に、二人で撮るのもいいなって思って。よし、これをジェシカさんに送るか」

「……ん? そういえばさっきファームステイ先に娘さんがいたって……」

「あ、い、いや、たしかに年上の女性はいたけど、な、何もないからね!?」

「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。そっか、ファームステイ楽しかったんだな」

「うん、とても楽しかったよ。相原くんはその人に恋をしたみたいで、英語でメール送るって気合い入ってたよ」

「そっか、恋をするってやっぱりいいものだな、私も団吉のこと大好きになってよかった……」

「う、うん、僕も絵菜のこと大好きになってよかったよ……」

「……はーい、そこのお熱いお二人、帰ってきましたよー」


 僕と絵菜が同じようにビクッとする。いつの間にか日向が帰って来ていて、ニヤニヤしながら僕と絵菜を見ていた。た、ただいまって言わなかったなこいつ……。

 それからしばらく三人で色々話していた。相原くんは今頃頑張って返事を書いているだろうか。僕も後で続きを書いてみようと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る