第68話「ファミリー」

 ファームステイのファミリーが迎えに来る場所に移動した僕たちは、呼ばれるまで待機となった。

 五組は大西先生が次々とグループを呼んでいく。ファミリーと対面して恥ずかしそうに英語で挨拶するクラスメイトの姿があった。


「次は、日車と相原ー、ファミリーの方が迎えに来てるぞー」


 僕と相原くんが呼ばれたので、大西先生の元へと行く。大西先生の横に背の高い金髪の綺麗な女性がいた。この方がお世話になるファミリーだろうか。


『こんにちは! はじめまして! 私はジェシカよ。よろしくね!』


 お、おお、当たり前なのだが英語だ、僕も英語で挨拶をする。


『は、はじめまして、僕は日車団吉です。団吉と呼んでください』

『オー! ダンキチ! よろしくね!』


 ジェシカさんは僕の手をとって、そのままスッと僕を抱き寄せた。あ、あわわわ、これが海外流のスキンシップなのだろうか。ジェシカさんは僕と同じくらいの背で、目鼻立ちがシュッと整っていて美人だった。僕は思わず恥ずかしくなってしまう。


『キミは何て名前?』

「……あ、名前か、お、俺は……」

「相原くん、英語、英語……!」

『……あ、お、俺は、相原駿です。しゅ、駿と呼んでください……』

『オー! シュン! よろしくね!』


 ジェシカさんは相原くんの手をとり、僕と同じように相原くんを抱き寄せた。相原くんの顔が真っ赤になっている。


『じゃあ行こうか、車で来ているから、二人とも乗って出発しましょう』

『あ、は、はい、よろしくお願いします』


 ジェシカさんの車に乗って、しばらく移動する。これはどのあたりに向かっているのだろうか、だんだんと街中から住宅が目立つようになってきた。僕と相原くんは同じようにキョロキョロする。


『着いたよ、ここが私の家だよ~』


 ジェシカさんがそう言うのでふと見ると、ものすごく大きな二階建ての家があった。す、すごい、うちよりもはるかに大きい……! 車を停めるガレージも大きい。僕と相原くんはその大きさに圧倒されていた。


『さぁ、入って入って、ゆっくりしていってね~』

『お、おじゃまします……!』

「ワンワンワン!!」


 二人でビビりながら家に入ると、大きな犬がしっぽを振りながら僕に飛びかかってきた。


「お、おわっ!!」

『あっ、ジョン! ダメじゃない、お客さんだよ、ごめんねダンキチ、ジョンはお客さん大好きだから』

『あ、い、いえ、大丈夫です』

『やあやあ、いらっしゃい、二人が来るのを待っていたよ』

『ふふふ、いらっしゃい、何もないところだけど、ゆっくりしていってね』


 広いリビングに案内されると、ジェシカさんのお父さんとお母さんだろうか、ダンディーな男性と、ジェシカさんに負けないくらい綺麗な女性がいた。


『ダンキチ、シュン、こっちは私のパパとママだよ!』

『あ、は、はじめまして、日車団吉です。団吉と呼んでください』

『……あ、お、俺は相原駿です。駿と呼んでください』

『オー、ダンキチとシュンだね! よろしく!』

『ふふふ、ダンキチ、シュン、よろしくね、二人とも可愛いわね、うちの子にしたいわ』


 お父さんとお母さんと挨拶を交わす。僕たちはガチガチに緊張していた。お父さんは火野よりも背が高いだろうか、がっしりした体格の人で、お母さんもジェシカさんよりも背が高く、スラっとしていて美人だった。


「……ひ、日車くん、今何て言ったの……?」

「あ、お母さんが、僕たちをうちの子にしたいって言ってた」


 しばらくリビングで話をしていた。ジェシカさんもお父さんもお母さんも、たぶんゆっくりめに英語を話してくれているのだろう。僕でも聞き取りやすく、何とか会話出来ていた。言いたい単語が出てくるか心配だったが、なんとかなっている。いざとなったらスマホのアプリで翻訳すればいいのだ。


『ねえねえ、二人は何歳なの?』

『あ、僕は十七歳です。日本の高校二年生です』

『……あ、お、俺は十六歳です』

『へぇ~、二人とも若いねー! あ、私いくつだと思う?』


 ジェシカさんがニコニコしながら年齢を当てるように聞いてきた。や、ヤバい、こういう時あまり上過ぎると失礼になるのではないだろうか。


『あ、え、えっと……十八歳くらいですか?』

『ワオ! ありがとー! でももうちょっと上だね、二十一歳だよー!』


 そう言ってジェシカさんは僕に抱きついてきた。あ、あわわわ、スキンシップがすごい。大島さんや杉崎さんも近いが、それ以上だ。絵菜が見たら嫉妬しそうな勢いだ。


『ふふふ、ジェシカもすっかり二人を気に入ったようね、そろそろご飯ですよ』


 テーブルに豪華な料理がずらずらと並んだ。これはチキン丸ごとだろうか、大きなチキンをお父さんが取り分けてくれた。他にもバゲット、シチュー、ローストビーフなど、たくさん並んでいた。


『さあ、二人ともたくさん食べてくれ!』

『い、いただきます……あ、すごく美味しいです』

『……お、美味しいです』

『そう、よかったわー、二人が美味しいって言ってくれて嬉しいわ』

『そうだ、二人はガールフレンドはいるのかい?』


 急にお父さんがガールフレンドについて聞いてきた。僕は危うく食べていたシチューを吹き出すところだった。


『あ、はい、僕はいます……って、は、恥ずかしいですね……』

『そうか! ダンキチはガールフレンドがいるのか! シュンはどうだい?』

『……あ、お、俺はいません』

『そうか! じゃあうちのジェシカなんてどうだい? 美人でいい子だと思うんだけどな』

『ぱ、パパ何言ってるの!? ご、ごめんねシュン……あはは』

「……ひ、日車くん、今お父さん何て言ったの?」

「じぇ、ジェシカさんを相原くんの彼女にどうかなって言ってたよ」

「……え、えぇ!? あ、いや、その、あの……」


 相原くんとジェシカさんが顔を真っ赤にして俯いてしまった。お父さんとお母さんはケラケラと笑っている。


『だ、ダンキチ、シュン、明日はうちを案内するね、庭が広いんだ。そしてその後買い物に付き合ってくれるかな?』

『あ、はい、よろしくお願いします』

『……よ、よろしくお願いします』


 夕食をいただいた後も、色々な話をしていた。僕は何とか英語を聞き取れるし、簡単な単語を使って話すことも出来ていると思う。日頃から英語の勉強もしていてよかったなと思った。相原くんも分からなくなったら僕に聞いたり、スマホの翻訳アプリを使ったりして何とか会話していた。

 ジェシカさんは日本に興味があるみたいだ。こちらでも日本のアニメを放送しているらしい。いつか日本に行きたいと言っていた。うん、日本も楽しいところだからぜひ来てもらいたいな。

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