第67話「観光」

 ふと目が覚めると、いつもと違う景色に少しびっくりした。そうだ、今飛行機の中だった。眠れるか心配だったが、どうやらちゃんと眠っていたみたいだ。

 ふと時計を見ると四時になろうとしていた。ケアンズ国際空港に着くまであと一時間ちょっとくらいある。周りの人は起きて小声で話している人もいれば、まだ寝ている人もいる。相原くんも大島さんも富岡さんも寝ていた。

 僕は座席にあったイヤホンで何か聞いてみることにした。チャンネルを合わせると英語の歌が流れていたり、ニュースだろうか、英語が流れていた。うーん、単語は聞き取れて分かるんだけど、全てを聞き取れるかというとそうでもなかった。自分の英語力は大丈夫だろうかとちょっと心配になった。


「……あれ、日車くん起きてたのか」


 しばらく英語を聞いていたら、隣で相原くんが声を出した。


「あ、ごめん、起こしたかな」

「……ううん、自然と目が覚めたよ、何か聞いてたの?」

「あ、うん、英語がどんなものか聞いてみたけど、さすがに全部は分からないかな……所々知らない単語があるよ」

「……そっか、俺は英語は自信ないから、日車くんに助けてもらうことになりそう」

「……あら、二人とも早いのね、おはよう……」

「……あ、おはようございます……いつの間にか寝ちゃってた……」


 大島さんと富岡さんも起きたみたいだ。でも二人とも眠そうな目をしている。


「……おはよ」

「おはよう、大島さんは英語自信ある?」

「うーん、九十九さんほどは話せないと思うけど、リスニングなら少し自信があるかも。日車くんは?」

「僕も大島さんと同じかなぁ、とっさに単語が出てくるか心配だよ」

「お二人ともすごいです……! 自由行動の時もお二人がいれば安心ですね……!」


 みんな起き出して、しばらく四人で話していると、「シートベルトの着用をお願い致します」というアナウンスが流れた。そうか、もうすぐ到着するんだな。

 飛行機はそのままケアンズの街を飛んで、ケアンズ国際空港へと着陸していく。地面に着く時だろうか、一瞬ふわっとしてドキッとしてしまった。

 飛行機が着いてしばらくして、みんなでぞろぞろと降りていく。まだ辺りは暗かったが、オーストラリアという見知らぬ土地に着いたのだ。僕は一歩一歩踏みしめるように歩いた。

 ロビーに集合して、ここからバスで移動となる。「ジャプカイ・アボリジニ・カルチャーパーク」というところで朝食と、アボリジニーの文化を体験するというものだった。


「……アボリジニーって、オーストラリアの先住民族なんだよね?」

「うん、元々はアジア方面からやって来た人たちだったらしいよ」

「……へぇ、じゃあ日本人の先祖もどこかで会っていたのかもしれないね」


 だんだんと空が明るくなって、周りの景色も楽しめるようになった。本当に日本とは違う。僕たちは持ってきたスマホでパシャパシャと写真を撮っていた。スマホの通信自体はさすがに使えないけど、写真が撮れるから持って来ていたのだ。

 カルチャーパークに着き、朝食をいただいた。たまたま北川先生と席が近くなって、「日車くん、あのスタッフの人カッコよくない……? ふふふふふ」と、どこか高梨さんのような雰囲気を出す北川先生がいた。あ、あまり気にしないでおこう。

 朝食の後、アボリジニーのみなさんの踊りや演奏を生で見た。あの方々は本当にアボリジニーの血を受け継ぐ人たちなのだろうか。体に模様が描いてあったり、腰にみののようなものをつけていた。

 僕たちを代表して、生徒会長の九十九さんが英語で現地のみなさんに向けて挨拶をしていた。英語もスラスラと話せる九十九さんはやはりすごい人だ。

 帰る時にアボリジニーの方々と握手をした。さすが海外の人だけあって、背も高いし手も大きい。迫力に圧倒されていた。

 その後バスはキュランダ方面へと移動し、キュランダ高原列車にみんなで乗った。す、すごい景色だ、山を列車が走っていく。滝があるのも見えた。僕たちはまたパシャパシャと写真を撮った。


「すごいわね、こんなところを列車が走るなんて……って、あれ? 日車くんどうしたの?」

「あ、ああ、ちょっと高くてビビるというか……ゆ、遊園地の高いところを思い出してしまった……」

「……日車くん、高いところダメだったのか、遠くを見てると落ち着くと思うよ」

「う、うん、あまり足元は見ないようにする……」


 うう、せっかくのこの絶景だ、楽しまないと損だと思って、僕はまた写真を撮った。

 その後集合写真を撮った後、ケアンズ方面へと戻り、自由時間となった。ここから夕方にファームステイのファミリーが迎えに来るまで自由行動となる。


「自由行動になったわね、おみやげを見に行かないかしら?」

「うん、お店が色々あるね、見に行こうか」

「だ、団吉……!」


 急に名前を呼ばれたので振り向くと、絵菜たちがいた。


「あ、絵菜、ついにオーストラリアで会えたね」

「う、うん、よかったら一緒に見て回らないか……?」

「うん、いいけど、あれ? 絵菜たちの班一人少なくない?」

「日車お疲れー、ギャルの友達はギャル仲間の方に行っちゃったよー、あたしは姐さんと大悟と一緒にいたいからなー」

「ひ、日車くんお疲れさま、か、花音がめっちゃ近くてちょっと恥ずかしいけど……」


 あ、いつの間にか木下くんと杉崎さんが下の名前で呼び合っている。僕はなんだか嬉しくなった。


「あら? 沢井さんじゃない、ちょっと日車くんにくっつきすぎじゃないかしら?」


 そう言って大島さんが僕の右手を握ってくる。絵菜は僕の左手を握って離さない。


「……そんなことない、大島は離れろよ……」

「あ、あのー、オーストラリアに来てまでケンカするのはやめてくれないかな……あはは」

「……日車くん、いつも大変そうだね」

「本当に、日車さんはモテモテですね……!」

「あ、相原くん、富岡さん、助けて……」


 結局絵菜と大島さんに引っ張られるようにして、昼食を食べたりおみやげを見たりしてケアンズの街の観光を楽しんだ。しゃ、写真撮りたいから手を離してほしいんだけどな……全然聞いてくれない二人だった。

 そんな感じで見て回っていると時間になったので、僕たちはファミリーが迎えに来る場所に移動した。僕と相原くんがお世話になるファミリーは一体どんな方々なのだろうか。とても楽しみだった。

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