第66話「出発」

 修学旅行に出発する日となった。

 今日は四時に学校に集合となっている。そこからバスで一時間半かけて国際空港へ行き、飛行機に乗る。僕は初めて飛行機に乗るのでそこも楽しみだった。

 ついに海外へと旅立つのか、やはりワクワクとドキドキが入り混じった不思議な感覚になっていた。


「お兄ちゃん、準備できたの?」

「うん、大丈夫だと思う。あ、腕時計つけておかないと」

「いいなー、海外だなんて羨ましいよ、あ、おみやげよろしくね!」

「日向も青桜高校に入ったら行けるから、ちゃんと勉強しておくんだぞ。母さんにお小遣いもらったから、おみやげはちゃんと買ってくるよ」

「ううー、お兄ちゃんが出発する直前まで勉強のこと言うー、アホー」


 日向がぶーぶー文句を言っていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜がスーツケースを持って立っていた。


「こ、こんにちは、ちょっと遅かったかな」

「こんにちは、ううん、大丈夫だよ、じゃあ行こうか」


 日向と母さんに「行ってらっしゃーい」と見送られ、僕たちは学校へと向かう。同じようにスーツケースを引いて学校へ行く同級生の姿が見かけられた。


「くそ、荷物があると団吉と手つなげないな……」

「あはは、まぁ今日は仕方ないね、また朝一緒に登校しようよ」


 学校に着くと、バスがずらりと並んでいるのが見えた。僕たちはグラウンドへ行くと、みんなが集まっていた。僕は絵菜と別れて自分のクラスへ行く。相原くんと大島さんと富岡さんがいるのが見えた。


「あら、日車くん来たわね、自由行動の時はよろしくね」

「こんにちは……って挨拶するのもなんだか慣れないね、うん、こちらこそよろしく」

「……日車くんお疲れ、バスと飛行機で隣座っていいかな?」

「うん、もちろん。相原くんとはずっと一緒になりそうだね、よろしく」

「日車さん、こんにちは……! ついに来ましたねこの日が、私楽しみにしてました……!」

「こんにちは、うん、僕も楽しみにしてたよ、みんなで楽しもうね」

「おーい、揃ったらバスに乗り込んでくれー、出発するぞー」


 大西先生の呼びかけで、みんながバスへと乗り込んでいく。あれ? 五組のバスの乗降口に北川先生がいる。


「あら、日車くんこんにちは」

「あ、こんにちは、あれ? 今日は日曜で学校も休みなのでは……?」

「何言ってるのよ、私も一緒に行くのよ。体調が悪い子がいたらいけないからね、五組のバスに乗らせてもらうわ」

「あ、そうなんですね、よろしくお願いします」

「ふふふ、日車くんも気分が悪くなったらいつでも言いなさいね。そして向こうでカッコいい人見つけようかしら……ブツブツ」

「あ、は、はい、ありがとうございます」


 き、聞いてはいけないことを聞いた気がした。そっか、北川先生も一緒に行くのか。たしかに長旅にもなるし、慣れない土地で体調が悪くなることもあるかもしれない。気をつけておかねばと思った。

 北川先生に挨拶をして、バスに乗り込む。隣に相原くんが座った。ここから一時間半バスで移動する。みんな色々と楽しみなのか、楽しそうに話す声が聞こえてくる。


「……日車くんは飛行機乗ったことある?」

「ううん、僕は初めて乗るよ。相原くんは?」

「……俺も初めてなんだ。あんな鉄の塊が空飛ぶって信じられないけど、大丈夫なのだろうか……」

「ま、まぁ、すごい技術で造られているはずだから、大丈夫だよ……たぶん」


 な、なんかそう聞くと、急に不安になってきた。飛行機にトラブルが起きたとかなったら大変だよな……って、何も起こらないはずだけど。

 相原くんと色々話していると、バスが国際空港へ着いた。初めて来たがかなり大きい。僕たちはロビーに集合する。


「……ケアンズまでどれくらいかかるんだっけ?」

「えっと、夜八時過ぎに飛び立って、ケアンズ国際空港に着くのが明日の五時ごろね。約八時間と時差の一時間といったところかしら」

「けっこうかかるよね、飛行機内で寝れるかな……」

「たしかに……飛行機で寝れるか不安ですよね……すごい音とかしてないのかな……」

「まぁ、音はしてるけど、暗くなるだろうし大丈夫じゃないかしら、寝ておかないと明日が辛いわよ」


 しばらくみんなで話しながら待っていると、搭乗の時間となった。僕たちはずらずらと並んで飛行機に乗り込んでいく。あ、キャビンアテンダントのお姉さんたちが「こんばんはー」って挨拶してくれる。すごく綺麗な人たちだ……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。

 僕と相原くんは並んで席に座る。真ん中くらいだろうか、通路を挟んで隣には大島さんと富岡さんが座った。


「……あ、あれ? 靴脱がなくていいの? 飛行機に乗ったら靴脱ぐって誰かが言ってたような……」

「え!? そうなの? 思いっきり土足で来たよ……」

「二人とも何言ってるの、そんなの嘘に決まってるでしょ」


 大島さんに真実を言われて、恥ずかしくなった僕と相原くんだった。

 シートベルトをしっかりと締めて待っていると、ゆっくりと飛行機が動き出した……と思ったら、いきなりキュイイイーーンとすごい音を立てて一気にスピードが上がっていく。


「……ひ、日車くん、これ大丈夫!? な、なんかすごい音なってるけど!?」

「だ、だだだ大丈夫だよ、うん、いや、落ちたりしないよね!? 大丈夫だよね!?」

「二人とも何慌ててるの、落ちるわけないでしょ。恥ずかしいから静かにしてよね」

「あはは、日車さんも相原さんも可愛いですね、そういえばお二人はずっと一緒……一夜を共にした二人は……はっ!? わ、私何考えてるんだろう」


 慌てる僕と相原くんをクスクスと笑う大島さんと富岡さんだった。な、なんかまた富岡さんがトリップしそうになっていたが、気にしないでおこう。

 すごいスピードで飛び立った飛行機は、しばらくしてシートベルトを外しても大丈夫な状態になった。そうか、空の上ではずっとつけているわけではないのか。飛び立つ時よりも音も少し静かになり、僕と相原くんはほっとする。

 それからしばらくして、機内食が出てきた。なるほど、「ビーフ? or フィッシュ?」とは聞かれないのか。そりゃそうか、どうでもいいことを考えていた僕だった。

 機内では映画が流れていて、みんなそれを観たり自由に話をしたりしている。しばらく経ってから機長さんから「ただ今当機はグアム上空を飛行中です」というアナウンスが流れて、さすがに暗くて見えないけど、おおーと思った。そうか、本当に海外へ飛んでいるのだ。

 その後機内が暗くなり、みんなそれぞれ眠りにつく。飛行機の中で寝るというのが新鮮で僕はしばらく寝つけなかった。初めての経験が多すぎて興奮しているのかもしれない。明日も早くから動くので早く寝てしまおうと思った。修学旅行はまだまだ始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る