第65話「報告」
修学旅行の前日の夜、僕は部屋で荷物の確認をしていた。
制服は着ていくからいいとして、部屋着として使用するジャージ、替えの下着、財布、筆記用具、しおり……あ、危ない、パスポートも忘れないようにしないと。なんといってもオーストラリアだ、近所に買い物に行って「あ、ちょっと忘れ物した」では済まされないのだ。スーツケースの中を何度も確認する自分がいた。
ピロローン。
しばらく荷物の確認をしていると、スマホが鳴った。RINEが来たようだ。送り主は絵菜だった。
『団吉お疲れさま、今何してる?』
『お疲れさま、明日の準備してたよ』
『そっか、私もさっきまでしてた。ついにオーストラリアか、なんか緊張する』
『そうだね、国内でも旅行だったら嬉しいのに、海外なんて想像ができないよ』
『そうだな、あ、でも英語が……団吉は大丈夫?』
『うーん、それなりに聞き取れるし話せるとは思うんだけど、実際話してみると違うんだろうね』
そう、もちろん言葉だって日本語は通じないのだ。少し不安だが、日頃の勉強の成果を出せたらいけるのではないかと思っていた。
『そっか、さすがだな、団吉と一緒に全部回りたかった……団吉は誰と一緒なんだ?』
『あ、自由行動の班は相原くん、大島さん、富岡さんで、ホテルの部屋とファームステイは相原くんと一緒だよ』
僕たち四人はいつものように自由行動で一緒の班になった。さらに相原くんとはホテルの部屋もファームステイも一緒だった。ファームステイは二、三人のグループで現地に住んでいるファミリーと交流するのだ。二日目の午後から四日目の朝まで行われる。
『お、大島がいるのか、くそ、大島と代わりたい……』
『え、絵菜、落ち着いて……絵菜は誰と一緒なの?』
『杉崎と木下と、杉崎のギャルの友達と一緒。ホテルの部屋とファームステイは杉崎と一緒。ギャルの友達にも最近よく絡まれるようになった……』
『な、なるほど、山登りと一緒か、木下くん大丈夫かな……』
絵菜とRINEで話していると、他の人からRINEが来た。送り主は杉崎さんだった。
『日車お疲れー、今何してるー?』
『お疲れさま、明日の準備しながら絵菜とRINEしてたよ』
『そっかー、ついに明日だもんなー、あ、そうだ、また日車と姐さんと通話できないかな?』
『ん? 分かった、絵菜にも聞いてみるよ』
絵菜に杉崎さんがグループ通話したいと言っていることを伝えると、大丈夫と返事が来たので、僕はグループ通話をかけた。
「も、もしもし、お疲れさま」
「もしもしー、日車、姐さん、お疲れさまです!」
「もしもし、お疲れさま、杉崎さん何かあった?」
「そーそー、聞いてくれよー、昨日木下とデートしたら、木下があたしのこと好きだって言ってくれたんだけど! マジ嬉しくてヤバい、あたし本当に空飛べるかも!」
杉崎さんが興奮気味に話す。なんと、木下くんが告白したのか、杉崎さんが嬉しそうに話すのもよく分かる。
「そっか、木下くんが杉崎さんを……杉崎さんはなんて返事したの?」
「ああ、あたしも好きです、付き合ってくださいって。木下も付き合ってくださいって言ってくれた―! ひゃーヤバい、今思い出しても顔が熱くなるんだけど!」
「そっか、杉崎、よかったな、木下も今頃思い出してるかも」
「姐さ~ん、マジで嬉しいですー! 日車にも姐さんにも色々聞いてもらってほんと感謝してます!」
「いえいえ、あ、杉崎さんいるなら、木下くんも修学旅行で男一人の班でも大丈夫そうだね」
「ああ、ちゃんとあたしがいるから大丈夫だよー、あー木下と一緒に回れる修学旅行も楽しみだー! 姐さんも思いっきり楽しみましょうね!」
「う、うん……でもいいな、杉崎と木下、一緒で……私も団吉と一緒がよかった……」
「あー、そうですよねー、日車は五組だもんなー、あ、でも五組から八組までは一緒に移動だから、会える機会もあるかもしれないですね!」
杉崎さんの言う通り、一組から四組、五組から八組と、飛行機やその他移動は文系と理系で分かれていた。全員一緒となるとけっこう多いから仕方ないとはいえ、火野や高梨さんや中川くんとは修学旅行中は会う機会が少ないかもしれないと思うとちょっと寂しかった。
「うんうん、自由行動中に会うことがあるかもしれないね」
「うん……絶対に大島の好きにはさせないんだから……」
「あははっ、大島今頃くしゃみしてないかなー、あ、日車、木下の下の名前って何だったっけ?」
「ん? たしか『大悟』だよ」
「大悟かー、いや、あたしも姐さんが日車呼ぶ時みたいに、下の名前で呼んでもいいかなーって思って。『大悟』って……ひゃー恥ずかしいんだけど!」
「あはは、そしたら木下くんも杉崎さんのこと『花音』って呼んでくれるかもしれないね」
「マジ!? ちょーヤバい、顔真っ赤になりそうー! 日車と姐さんが下の名前で呼び合ってるのいいなーって思ってたんだよねー」
「う、うん、改めて言われると恥ずかしいけど、杉崎さんがそっと『大悟』って呼んであげたら、木下くんも特別感があって嬉しいんじゃないかな」
僕はそう言って、絵菜に初めて下の名前で呼ばれた時のことを思い出していた。まだ付き合ってはいなかったけど、特別感があって嬉しかったことを覚えている。
「そっかー、そうだな、あたしが呼んでみるよー。日車と姐さんはどうやって下の名前で呼ぶようになったんだー?」
「あ、わ、私が団吉って呼びたいって、初デートの時に言った……私のことも絵菜って呼んでほしいって」
「ひゃー! マジですか! うわー熱いなー! くそー日車め、姐さんの愛を独り占めしやがってー!」
「え、そ、そうなのかな、最初はすごく恥ずかしかったけどね、でもすぐに慣れたよ」
「そっかー、いいないいなー、あ、遅い時間に話し込んじゃってごめんなさいー、姐さん明日から楽しみましょうね!」
「う、うん、みんなで楽しめるといいな……それじゃあ、おやすみ」
「うんうん、せっかくだし思いっきり楽しんでいこうね。それじゃあまた、おやすみ」
「はーい、おやすみなさーい」
通話を終了して、ふと木下くんと杉崎さんが初デート前に二人とも話してきたのを思い出していた。そっか、ついに二人は付き合うのか。本当によかった。
そして明日から修学旅行だ、二人に話した通り、僕も思いっきり楽しもうと思った。
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