第64話「木下の想い」
修学旅行まであと二日となった。今日は祝日で学校は休みだ。
僕は今日、杉崎さんと二度目のでででデートの約束をしていた。杉崎さんがRINEで『また遊びにいかないかー?』と言っていたからだ。
初めてデートをした後も、杉崎さんはこんな僕にも気さくに話しかけてくれた。僕は女の子と話すのが少し苦手なのだが、杉崎さんとはいつの間にか普通に話せるようになっていた……と思う。なぜかは分からないが、杉崎さんは話しやすかった。それがとても嬉しかった。
今日も駅前で待ち合わせをしていた。遅れないように行くと、杉崎さんがすでに来ていたようで、僕に気づいて手を振っていた。
「ご、ごめん、ま、待たせたかな?」
「ううん、大丈夫だぞー、あたしもさっき来たばかりだからさ」
杉崎さんはベージュのブラウスに、小さな花柄のロングスカート、足元は黒のパンプスを履いていた。前もそうだったが、ギャルっぽくなくて大人な感じの服装に僕はドキッとしてしまう。
「きょ、今日はどこ行こうか?」
「ああ、ショッピングモールの横に大きな公園あっただろ? 風も気持ちいいしさーちょっとのんびりしない? その後またカラオケでも行かないか?」
「あ、う、うん、いいよ、じゃあ行こうか」
僕たちは駅の中へと歩いて行く。そうだ、また手をつなごうかなと思っていると、杉崎さんが僕の左手をそっと握ってきた。びっくりして杉崎さんの方を見ると、杉崎さんは顔を真っ赤にして、
「きょ、今日も手つないでいたいなーなんて……ダメか?」
と、恥ずかしそうに言った。
「う、うん、大丈夫だよ、ぼ、僕もそうしたいなって思ったから……」
「そ、そっかー……あ、電車来るな、乗ろっか」
手をつないで電車に乗って移動して、ショッピングモールの横の大きな公園にやって来た。み、見た感じカップルで仲良くベンチに座っている人たちもいたりして……僕たちも空いていたベンチに並んで座った。他の人から見ると、僕たちもかかかカップルに見えるのだろうか。
「今日もいい天気になったなー、暖かくて気持ちいいよなー」
「う、うん、そうだね、外でお弁当食べるのもなんかよさそうだね」
「あ、しまったな、お弁当作ってくればよかった。しゃーない、近くで買ってここでお昼食べるのもありだな」
「う、うん、そうしようか」
そこまで話して、しばらく無言の時間が続いた。な、何か話さなきゃ……と思って杉崎さんの方を見ると、なぜかじっとこちらを見ていたようだった。
「あ、あれ? 僕の顔に何かついてる?」
「あ、い、いや、横顔も可愛いなーって思って見てた……ごめん」
「う、ううん、あ、謝らなくていいよ、は、恥ずかしいけど……」
可愛いのは僕じゃない、ギャルっぽくない杉崎さんの方だ。ギャルの格好の時も可愛いけど、今の大人な雰囲気も悪くない。僕は胸がドキドキした。
ずっと杉崎さんのことは気になっていた。話しやすいからなのかと思っていたが、今の可愛い杉崎さんを見るとそれだけじゃないということが分かった。ど、どうしよう、ここで自分の気持ちを話してしまおうか。でも僕の一方的な想いだったら雰囲気を悪くしてしまうかもしれない。せっかくこんなに普通に話せるようになったのに。
ふと杉崎さんの方を見ると、目が合ってニコッと笑いかけてきた。その笑顔を見た僕は――
「す、す、杉崎さん」
「ん?」
「ぼ、僕、胸がドキドキするんだ……どうしてだろうって思ったけど、す、杉崎さんが可愛くてドキドキしてるんだって……ぼ、僕、す、杉崎さんのことが好きみたいで……あ、いや、好きです……あれ? な、なんか変だな……ご、ごめん」
し、しまった、自分の気持ちを言うつもりが、なんだか変な言葉になってしまった気がする。誰かに好きだなんて言ったことがなくて緊張していたのかもしれない。こんな変な告白、笑われるだろうなと思った。女の子に笑われていた昔をふと思い出してしまった。
おそるおそる杉崎さんの方を見ると、顔を真っ赤にしてちょっと俯いていた。ああ、やっぱり言わなければよかった……と思っていたら、
「嬉しい……あたしが一方的に好きなんだって思ってたから、まさか木下があたしのこと好きって言ってくれるなんて……あたしも木下が好きだ、ううん、好きです。よかったら付き合ってくれませんか?」
と、僕の目を見て言った。え、えぇ!? す、杉崎さんも、僕のことが、す、好き……? ほ、本当に? 嘘じゃないよね?
「……どした?」
「あ、ご、ごめん、なんか、夢を見てるのかなって思ってしまって……あ、うん、僕なんかでよければ、付き合ってください……って、あれ? 現実だよね……?」
「あははっ、もち現実だよー、木下めっちゃ好き、マジで大好きすぎてあたし空飛びそうだもん」
そう言って杉崎さんは僕の左腕にぴったりとくっついてきた。
「……あたしさ、木下のことからかってたじゃん? そんな時ふとメガネとって髪型整えた木下見たら可愛くてさ、それからどんどん木下のこと好きになっていってさ……もう木下見るたびにドキドキしてヤバかったよ」
「そ、そっか……なんだか恥ずかしいな……きょ、今日もコンタクトにしてきてよかった……のかな」
「あははっ、まぁメガネしてても可愛いんだけどなー、あ、そうだ、今日の記念に二人で写真撮らないか?」
そう言って杉崎さんはスマホを取り出して、僕に顔を近づけてきて「はい、チーズ」と言ってパシャっと写真を撮った。あ、あまりの早さに僕は変な顔になっていたような気がする。ギャルの行動力は半端なかった。
「あ、い、今の変な顔になってないかな……?」
「ううん、めっちゃカッコいいよー、ヤバい、宝物ができたー、これ待ち受けにしよっと。あ、木下にも送るよー」
杉崎さんがポチポチとスマホを操作して、今撮った写真を本当に待ち受け画像にして、僕に写真を送ってきた。は、恥ずかしい……けど、嬉しかった。
「……木下、あたしとだったら普通に話せてるよな、嬉しいよ」
「う、うん、やっぱり杉崎さんのことが好きだったからなのかな……」
「そっか……ヤバい、めっちゃ嬉しい。あ、ちょっとお腹空いてきたかも、なんか買ってきてここで食べよっか」
「あ、うん、そうだね、ショッピングモールで何か買ってこようか」
二人で手をつないでショッピングモールへ歩いて行く。夢みたいだけど、現実なんだな……僕は杉崎さんの手の温もりを感じて嬉しくなっていた。
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