第63話「都会再び」

 週末の土曜日、僕と絵菜はパスポートを受け取るためにまた都会に行く約束をしていた。実はこの前絵菜と一緒に都会に行った時、パスポートの申請を行っていたのだ。

 なぜパスポートかというと、もちろん修学旅行でオーストラリアに行く時に必要になるからだ。今月末に修学旅行で行くことになる。僕はやはりワクワクとドキドキが入り混じったような不思議な感覚になっていた。


「持って行くものはこれでいいかな……受け取りだから身分証とかはいらなそうだけど、一応持って行くか……」


 荷物の確認をしていると、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。「はい」と言うと日向が入ってきた。


「お兄ちゃん、準備できた?」

「うん、たぶん大丈夫だと思う。日向は準備できたか?」

「うん、大丈夫。都会の方行くなんてなかなかないから、楽しみだよー」

「そっか、じゃあそろそろ行こうか」


 そう、今日は絵菜だけでなく、日向と真菜ちゃんも一緒に行くことになっていた。で、デートはできなかったか……と思うが仕方がない。日向も真菜ちゃんも都会の方に行くことはなかなかないだろう。

 今日も駅前に待ち合わせにしていたので、日向と二人で歩いて行く。九月になったが外はまだまだ暑い日が多かった。今日もよく晴れている。

 駅前に着くと絵菜と真菜ちゃんが先に来ていたようで、僕たちを見つけて手を振っていた。


「おはよう、ごめん、待たせたかな?」

「おはよ、ううん、私たちもさっき着いたとこ」

「絵菜さん、真菜ちゃん、おはようございます!」

「お兄様、日向ちゃん、おはようございます! 今日は呼んでくださってありがとうございます」

「いえいえ、それじゃあ行こうか、電車にしばらく乗ることになるけど」


 電車に乗り、数駅行ったところで四人席が空いたので、向かい合うようにして四人で座ることにした。


「お兄様、誕生日プレゼントありがとうございました! お姉ちゃんだけでなく、お兄様からももらえるなんて……私嬉しくてもうこのまま天国に行ってもいいです」

「あ、いえいえ……って、だ、ダメだよ真菜ちゃん、真菜ちゃんがいなくなったらみんな悲しんじゃうよ」

「ふふっ、真菜、ポーチを大事そうに枕元に置いて寝てたもんな」

「お、お姉ちゃん! それは言っちゃダメ……!」


 あわあわと慌てる真菜ちゃんを見て、みんな笑った。

 しばらく電車に揺られて、目的地に着いた。降りる人が多く、改札を抜けてもやはり人が多い。日向と真菜ちゃんはキョロキョロしているようだ。


「す、すごい……! お兄ちゃん、こんなに人がいるんだね」

「ああ、人が多いから迷子になるなよ、手つないでおこうか」


 僕は日向の手をとり、絵菜は真菜ちゃんの手をとった……って、中学三年生に対して過保護すぎるだろうか。まぁ迷子になるよりいいか。僕と手をつないだことで日向がニコニコになった。

 まずはパスポート交付センターへ向かう。駅から歩いて十分のところにあるビルの中にあった。僕と絵菜が整理券を取ってしばらく待っていると、僕と絵菜の番号が呼ばれた。無事にパスポートを受け取ることができた。初めて手にしたが、なんだか大人になった気分だ。


「へぇー、これがパスポートかぁ、あ、お兄ちゃん写真が緊張している顔だ」

「どれどれ? あ、ほんとだ、でもお兄様カッコいいですね」

「あ、ありがとう、証明写真だったからなんか緊張してしまったよ」

「ふふっ、私も緊張している顔だった。あ、もうすぐお昼だな、ちょっと早いけどどこかで食べる?」

「あ、そうだね、じゃあせっかく都会まで来たし、またあの洋食屋さんに行ってみる?」

「ああ、そうだな、あそこ美味しそうなものがいっぱいあったから」


 四人で来た道を戻り、洋食屋まで歩いて行く。やはり外装も中もおしゃれなお店だ。中に入ると四人席に案内された。


「へぇー、なんだかおしゃれだね! なんか大人になった気分!」

「うん、色々あるみたいだから、好きなの選ぶといいよ」


 僕はビーフシチューセット、絵菜はオムライス、日向はこの前僕が食べていた明太クリームパスタ、真菜ちゃんはハンバーグセットを注文した。しばらく待っているとそれぞれ料理が運ばれてきた。


「じゃあ、いただきます……あ、ビーフシチューめっちゃ美味しい」

「オムライスすごい、卵がふわふわでとろとろだ。私が作ってもこうはならない……」

「ふふふ、お姉ちゃん、また料理の練習しようね! お兄様や日向ちゃんにまた食べてもらわないといけないからね」

「あ、う、うん、オムライスの他にも作れるようになりたい……」


 洋食屋でみんな大満足のお昼を食べた後、都会を見て回ろうということで、商業施設に入った。ここでも日向と真菜ちゃんがキョロキョロしている。


「す、すごい、中もおしゃれだ! 色々なお店があるー!」

「うん、せっかくだし見て回ろうか、迷子にならないようにな」


 四人で色々と見て回っていると、僕の目に家電量販店が飛び込んできた。そういえばと思ってみんなに話す。


「あ、ちょっとあそこ見ていいかな? 実はパソコンがほしいと思っていて、見てみたかったので」

「ああ、いいよ、じゃあ行ってみようか」


 四人で家電量販店に入ると、パソコンのコーナーを見てみた。なるほど、デスクトップパソコンやノートパソコンなど、色々と種類があるのか。こうたくさん並んでいるとどれがいいのか迷ってしまいそうだ。


「うーん、色々ありすぎてどれがいいのか分からないな……スペックによって値段もピンキリだし。パソコンもこんなに種類があるのか」

「そうだな、私も全然分からない……あ、そういえば木下ならけっこう詳しいんじゃないか?」

「ああ、そうだね、木下くんなら知ってそうだ。今度聞いてみようかな」


 その後も僕たちは違う商業施設に行き、色々と見て回った。トラゾーのグッズコーナーがあって、僕と真菜ちゃんはテンションが上がってグッズをそれぞれ買ってしまった。日向は「二人とも好きだねぇ……」とちょっと呆れていた。い、いいじゃないか、可愛いんだから。

 しばらく都会を楽しんだ後、僕たちは帰ることにした。帰りの電車でも四人で座ることができた。


「いいなー、お兄ちゃんたちオーストラリアに行くんだよねー」

「うん、今からドキドキしているよ」

「日向ちゃん、私たちも合格したら行けるよ、頑張ろうね!」

「うん、そうだね! そのためには勉強頑張らないとなぁ、しんどいけど……」


 日向も真菜ちゃんも、都会を楽しんでいたようだ。ま、まぁ絵菜とデートはいつでもできるしな、二人を連れて来てよかったな。

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