第62話「部長会議」

「それでは、部活動部長会議を始めます。本日は最初に生徒会長の九十九さんから挨拶の後、会計の天野くんから今年度の予算、費用等の説明をしてもらいます」


 第一理科室に僕の声が響き渡る。今日は初めての部活動部長会議の日だ。各部活動の部長が集まっている。僕は副会長として司会進行を任されていた。ちょいちょい噛みそうになって危なかったが、なんとか言い切ることができた。

 九十九さんが挨拶を行う。僕とは違って落ち着いていてしっかりと話すことができている。本当にすごい。

 九十九さんの挨拶が終わり、天野くんが各部活動の予算、費用等の説明に入る。たぶん今日一番話さないといけないのは天野くんだろう。その天野くんも落ち着いた様子で資料を見ながら話すことが出来ている。僕も二人を見習わなければいけないなと思った。


「――運動部、文化部、それぞれの説明は以上になります。日車先輩、あとはお願いします」


 天野くんの説明が終わった。あ、今度は僕が話す番だ。ゴクリと唾を飲み込んでから話す。


「あ、天野くん、ありがとうございます。説明は以上ですが、何が質問等ありましたら挙手をお願いします」


 危ない、また噛むところだった。もっと話す練習をしておかねば……。

 静かに説明を聞いていた各部活動の部長たちが、少しお互い話し始めてざわざわする。でも手は挙がらないな……と思っていたら、


「はーい、日車、ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」


 と、大きな声が上がった。見ると野球部のクラスメイトが挙手しているではないか。あ、君野球部の部長になったんだね、知らなかったよ。


「は、はい、何でしょう……?」

「なーんかこれ見てるとさー、部活動に差があり過ぎじゃねぇ? 特にサッカー部とバスケ部、予算が多すぎじゃねぇ? それならうちの野球部にももっとほしいんだけど、どうなってんの?」


 野球部のクラスメイトがバンバンと机を叩きながら言った。部活動に差がある? まぁたしかに全く同じとはいかないけど、運動部は文化部よりも道具などで色々と費用がかかるだろうから、予算も多めにしてあるはずなのだが。


「え、えっと……まぁ全く同じにするのは無理だけど、差があり過ぎまではないんじゃないかな……」

「そーかなぁ、これ見てるとなーんか生徒会がサッカー部とバスケ部を贔屓してるんじゃないかなーって思うんだよねー」

「い、いや、それはないよ、ちゃんと大会の成績や日頃の活動内容や、去年かかった費用等も見て決めているから……」

「それじゃあさ、うちの野球部にももっとくれよ、ボールとかバットとかネットとか消耗品も色々あるんだよねぇー」

「い、いや、もっとくれよと言われても、さっきも言ったように野球部も去年かかった費用を見ているから……」

「えー、なんか融通の利かない生徒会だなー、日車が副会長で大丈夫かよー」


 第一理科室がしんと静まり返る。こ、こいつ……と思ったが、ここで感情的になってはダメだ。天野くんも同じ思いみたいで、立ち上がろうとしたその時だった。


「……君は何を言っているんだい?」


 静まり返った第一理科室内に声が響いた。見ると声を出していたのは中川くんだった。


「あ? なんだお前?」

「サッカー部部長の中川だ。日車くんも言っていただろう、大会の成績や日頃の活動内容や去年の費用も見ていると」

「あ? だから何だよ?」

「サッカー部と野球部はグラウンドを使っているから、よく野球部も見ることがあるけど、真面目に練習しているとは思えないのだが。なんか変な笑い声も聞こえてくるし、練習らしきものが終わるのも妙に早いし」

「な、そ、そんなことねぇよ!」

「それに、我がサッカー部は夏の県大会で準々決勝まで進んだ。バスケ部も男女ともにいい成績だったと聞いた。それに比べて野球部はどうだ? いつも一回戦負けではないか。何度でも言うが、真面目に練習しているとは思えないのだが」

「そだよー、あ、女子バスケ部部長の高梨です。って、去年一緒のクラスだったから知ってるか。野球部もさ、これ見ると多い方に入るから、文句言わないでうまくやりくりするのも大事なんじゃないかなぁ」

「え、あ、その、あの……」


 また第一理科室がざわつき始めた。中川くんと高梨さんに言われて、野球部のクラスメイトは何も言い返せないでいた。


「――意見のある方は挙手をお願いします」


 ざわついた室内に、九十九さんの大きな声が響き渡る。またしんと静まり返り、誰も手を挙げる人はいなかった。


「……日車くん、お願い」


 小声で九十九さんがそう言ってきた。そ、そっか、終わらないといけない。


「で、では、これで今日の部活動部長会議を終了します。来月もありますので、よろしくお願いします」


 僕の一言でこの場は解散となった。野球部のクラスメイトは逃げるようにして第一理科室から出て行った。

 ふーっと息を吐いていると、中川くんと高梨さんが僕の方へやって来た。


「日車くんお疲れさま! 災難だったね」

「やっほー、なーんかあの人日車くんに突っかかってくるよねぇ」

「ごめん、二人ともありがとう。僕がもっとしっかりしていればよかったんだけど……」

「いやいや! 俺はいつも野球部が気になっていたので、思ったことを口にしたまでだよ。しかしあんな言い方しなくてもいいと思うけど」

「うんうん、サッカー部やバスケ部が贔屓されてるって、そんなのあるわけないのにねぇ。野球部もけっこう多かったのにー」

「うーん、まぁたしかに野球部も消耗品等が多そうだからなぁ、でも去年もなんとかやれてるから、申し訳ないけど与えられた範囲で頑張ってもらうしかないかなぁ」

「あはは、そうだね、やっぱり日車くんは誰にでも優しいな! あいつは日車くんが副会長で大丈夫かとか言っていたが、俺は適任だと思うよ!」

「そだねー、私も日車くんが適任だと思うな。感情的にならずみんなに優しくできるからねぇ」

「そ、そうかな、ありがとう、なんか恥ずかしくなってきた……」


 僕が恥ずかしそうにするので、中川くんと高梨さんがケラケラと笑った。


「二人とも火野から聞いているかもしれないが、サッカー部も頑張ってるからね! 新人戦と冬の大会は何としてもいい成績を残したいよ!」

「ああ、陽くんからよく聞くよー、サッカー部も強いんだねぇ、バスケ部も負けないようにしないとなー」

「うんうん、中川くんと高梨さんが部長なら、きっといい成績を残せると思うよ、頑張ってね」

「日車くんもね! 生徒会は大変だと思うが、日車くんなら大丈夫だよ!」


 中川くんと高梨さんがグータッチしようと右手を出してきたので、僕も右手を出してグータッチをした。部活動も日々の練習、大会と大変だと思うが、みんな頑張ってほしいなと思った。

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