第61話「過密日程」

 二学期の二日目、予定通りテストが始まった。

 去年と同じく、朝から夕方までみっちりとテストで埋まっている。今回は理系は現代文、古文、数学、物理、生物または化学、世界史、英語が一日で全て行われる。去年も思ったが生徒としては非常にきつい。まぁ、先生たちも準備などできついのかもしれないけど。

 テスト範囲も去年と同じく夏休みの課題を中心に、一学期に習った内容も含まれる。僕は今年も夏休みの課題はもちろん、復習もしてしっかりと準備してきた。今回もいい点をとりたいものだ。


「ぐああー、やっと午前中が終わった……めちゃくちゃしんどくて倒れそうだぜ……」

「私ももう無理だよ……私の屍は超えて行って……」


 昼休みになり、火野と高梨さんが弱々しい声を出した。去年もこの二人は同じようなことを言っていたような気がする。


「おーい二人とも、あと三教科残ってるよ」

「そうなんだけどさ、マジでしんどくねぇか? 誰だよこれ考えたの……」

「ほんとだよー、なんとか夏休みの課題が終わったと思ったら、テストだもんねぇ、先人たちを恨むよ……」

「う、うーん、たぶん先生たちが決めたんだろうけど、なんかずっと前からあるみたいだしなぁ、もう決めた先生はこの学校にいないかも」

「くそっ、決めるだけ決めて逃げやがったな、ちくしょう。とりあえず昼飯で回復だ」

「い、いや、逃げたわけではないと思うけど……絵菜は午前中どうだった?」

「うーん、あまり自信ないけど、数学だけはちゃんとできた気がする。団吉に教えてもらったところが出てたし」

「そっか、うんうん、あの時復習しておいてよかったかもしれないね」


 絵菜もだいぶ数学が出来てきたようだ。一番最初は数と式の基本的な問題も躓いていたもんな。それに比べるとすごい進歩だと思う。僕も嬉しくなった。


「いいなー沢井は、団吉先生がいるもんなー。俺も理系にしとけばよかったかと思っちまうぜ」

「そだねー、でも苦手な数学をとって、日車先生の愛と根性の厳しい講習に耐えられるのか、自信がないよー」

「な、なにそれ……まぁ、理系科目なら文系の範囲も教えられるし、また聞いてもらえれば」

「頼りにしてます、団吉先生!」

「私もー、分からないところは日車先生に聞きまくろーっと」

「うん。そういえばテスト終わってしばらくしたら部活動の部長会議があったな……忘れるとこだった」

「おう、うちはもちろん中川が出るぜ、団吉がいるって言ったら『日車くんがいるのか! それは安心だ!』って、なぜかやる気を出してたけど」

「うちは私が出るよー、日車くんよろしくねぇ。第一理科室であるんだよね?」

「うん、生徒会室もそこそこ広いとはいえ、部長全員は入らないからね」

「……みんなすごいな、私なんて何もしてない……」


 絵菜が寂しそうにぽつりとつぶやいた。


「そんなことないよー、絵菜はちゃんと日車くんを支えてあげないと。膝枕して『団吉、今日もお疲れさま』ってさー」

「なっ!? そ、それはどうかと思うけど、うん、団吉を支えてあげたい……」


 絵菜がそう言って僕の左手をきゅっと握ってきた。


「あ、う、うん、絵菜がいつもそばにいてくれるから、何でも頑張れるというか……はっ!?」


 ふと顔を上げると、火野と高梨さんがニヤニヤしながら僕と絵菜を見ていた。うっ、は、恥ずかしい……でも、絵菜がいてくれるから頑張れるというのは本当だった。これからもお互い支え合っていきたい。



 * * *



 数日後、いつものようにテストの結果が全部出揃った。

 僕は学年で三位だった。一学期の定期テストと同じ順位だ。成績上位者が貼り出されているのを見たが、今回も九十九さんが一位だった。さすがだなと思った。

 九十九さんには勝てなかったけど、数学も百点をとったし、個人的には満足できる結果だ。欲を言えばもう少し古文の点数が欲しかったが、仕方ない。次頑張ればいいと思う。それにしても大西先生が「また百点か……」と言いながら涙目だったのはなぜだろうか。


「ひ、日車くんは三位なのね……ま、また負けたわ……どうして私は日車くんに勝てないのかしら……」


 隣の席で大島さんが悲しそうな声を出した。たしか大島さんは八位だった。いや、それでも十分立派だと思うのだが、ここで慰めの言葉を言っても届かないのは今までの経験上分かっている。


「うん、大島さん、今回も勝たせてもらったよ。でも九十九さんはさらに上だった。すごいなぁ」

「九十九さんもすごいわね、やっぱり勉強量が違うのかしら。でも九十九さんが勉強している姿って一度も見たことないかも……」

「たしかに、生徒会室に集まる時は勉強しないしなぁ、家でかなりやってるのかもしれないね」

「日車さんが三位で、大島さんが八位ですか……すごいです……! やはり二人はライバルなだけありますね……!」


 後ろの席から富岡さんが話しかけてきた。富岡さんの中で僕たちがずっとライバル関係なのがちょっと気になるけど、まぁいいか。


「あ、富岡さんはどうだった?」

「私は百四位でした……ちょっと下がりました。やっぱりそううまくはいかないんだなって……」

「そっか……あ、でも数学は平均点よりもだいぶ上なんじゃない?」

「はい、一学期に日車さんや大島さんに教えてもらったところも出てたから、それで頑張れたんだと思います……!」

「よかったわね富岡さん、理系科目はちゃんと出来ておきたいところよね」

「……みんなやっぱりすごいな、俺なんか全然届かないや」


 三人で話していると、相原くんがちょっと寂しそうな声を出した。


「相原くんはどうだった?」

「……俺は百九十位だった。一学期よりは下がったけど、数学と物理はそこそこできたからいいかな」

「そっか、うんうん、みんな理系科目はよく出来てたみたいだね。よかったよ」

「そういえば日車くん、今回の望みは何……? 胸? お尻? それともぎゅっと抱きついてほしいのかしら……」

「え!? ちょ、ちょっと待って、何もないよ!」

「……日車くん、赤くなってる」

「まぁ、日車さんも美人の大島さんにはくっつきたいですよね……」

「い、いや、待って! 何もないからね!」


 僕が慌てていると、みんな笑った。うう、なぜ毎回こうなってしまうのか。

 後から聞いたら、絵菜は少し順位が上がっていて、火野と高梨さんは一学期とあまり変わらない結果だったそうだ。二年はやっぱり難しいなぁと嘆いていたが、僕も油断してはいけない。九十九さんを目標にこれからも頑張っていきたいところだ。

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