第60話「二学期」

 夏休みが終わり、二学期が始まった。

 今年の夏休みもいい思い出がたくさんできた。遊園地に行ったり、花火大会に行ったり、絵菜の家に泊まりに行ったり……本当に数年前からは考えられないような楽しさで、僕は自分にびっくりしていた。

 久しぶりの制服……と思わせて、夏休み終盤に何日か生徒会のメンバーで学校に集まっていたため、そんなに久しぶりというわけでもなかった。でも今日からまた学校が始まるのだ、ちょっとだけ身が引き締まる思いがした。

 今日は絵菜が朝一緒に行こうとRINEで言っていたので、絵菜が来るまでしばらく待つことにした。『今から行く』とRINEが来て二十分くらい経った頃にインターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。


「お、おはよ」

「おはよう、じゃあ行こうか、行ってきます」


 日向に「行ってらっしゃーい」と見送られ、僕たちは一緒に学校へ行く。僕はそっと絵菜の手を握った。いつも絵菜から手を握られていたので、たまには自分からつなぎたいと思ったのだ。絵菜はニコニコした顔で、


「朝一緒に行くのもいいな、なんか一日頑張れそう」


 と、言った。


「そうだね、が、学校が近くなるとちょっと恥ずかしいけど……」


 そう、学校が近くなると当然登校している人が多いのだ。絵菜はずっと手を離してくれなかった。なんだろう、みんなに見られているような気がする……。

 そんな感じで色々な人に見られながら登校し、自分の席に座る。教室に来るのは久しぶりだったので少し新鮮な気がした。


「日車さん、おはようございます……! 夏休み楽しかったですか?」


 隣の席から富岡さんが話しかけてきた。富岡さんとはたまにグループRINEで話すことはあったが、こうして会うのは久しぶりだ。


「おはよう、うん、けっこう充実してたかもしれないよ」

「そうですか……! 私は課題に苦戦していました……今年もたくさんあって」

「ああ、たしかに今年も多かったよね、そして明日はテストもあるし……」

「そうですよね……また大変な毎日になるのかな……」

「……日車くん、富岡さん、おはよ」


 声をかけられたので見ると、相原くんがいた。


「相原さん、おはようございます……!」

「おはよう、相原くんと会うのも久しぶりだね、グループRINEでは話してたけど」

「……うん、でもなんか久しぶりのような気がしないよ。グループRINEで話してたからかな」

「あら、みんなおはよう、早いわね」


 また声をかけられたので見ると、大島さんが笑顔でこちらを見ていた。


「……おはよ」

「大島さん、おはようございます……!」

「おはよう、大島さんは夏休みもよく会ってたからなぁ」

「な、何よ、その新鮮味が感じられないみたいな言葉は……そうだ、明日はテストね、日車くん負けないわよ!」

「えぇ、また言ってるの……と言いたいところだけど、うん、僕も負けないよ」

「な、なんかこの前から日車くんやる気出して来たわね……でも、そうこなくっちゃ。絶対に日車くんに勝ってやる……」

「す、すごいです、やはり二人はライバルなのですね……!」

「おーい、そろそろ始業式があるから体育館に移動してくれー」


 大西先生の一言でみんなが動き出す。うん、テストは誰にも負けたくない。その気持ちは変わらなかった。



 * * *



「よーし、二学期も始まったことだし、席替えでもやるかー!」


 始業式後のホームルームで、大西先生がそう言った。そうだ、新しく学校が始まると席替えをやりたがるのが大西先生だ。二年生でも変わらないらしい。


「あ……日車さんと離れてしまうかもしれませんね……」


 隣の席で富岡さんが寂しそうな声を出した。たしかにいつものくじ引きなら富岡さんと離れてしまうこともあるかもしれない。


「そうだね……せっかく本の話ができてたのになぁ」

「日車さんには勉強も教えてもらって、感謝でいっぱいです……! 本当にありがとうございました」

「いえいえ、もしかしたらまた近い席になるかもしれないから、そうなるように祈っておこうか」


 僕が予想した通り、席替えはいつものくじ引き方式で、出席番号順に引いていくものだった。となると僕の順番は後の方だ。うちのクラスは四十人で、一列六人ずつ座って、一番端の廊下側が四人だ。なんとか話せる人が近くにいてくれると嬉しいのだが……。

 出席番号順に引いていき、僕の順番がやって来た。あまり他の人の結果は聞いていなかったが、いい席になるといいなと思いながらくじを引く。


「日車は十六番だなー、よし次ー」


 僕は窓側から三列目の前から四番目になった。まぁ、前過ぎず後ろ過ぎず、ちょうどいいのではないだろうか。


「あっ! 今度は日車さんの後ろだ……! やった近いですね……!」


 富岡さんが嬉しそうな声を出した。あ、本当だ、先にくじを引いていた富岡さんは僕の後ろだった。あれ? よく見ると僕の右隣は大島さん、そして大島さんの後ろは相原くんになっているではないか。みんな僕より先にくじを引いていて、結果を知らなかったのでこんなに固まっているとは思わなかった。


「みんな決まったなー、じゃあ移動してくれー」


 大西先生の一言で、みんなワイワイと移動する。話せる人が近くにいてくれると嬉しかったが、まさかこの四人が固まるとは思わなかった。あれ? 前にもこんなことがあった気がする。


「日車くん隣になったわね、よろしくね」

「うん、よろしく。まさか四人がこんなにうまいこと集まるとは思わなかったよ」

「……みんな近くなったね。こんなこともあるんだね」

「日車さんだけじゃなくて、大島さんも相原さんも近い……! よろしくお願いします……!」

「うん、でも前にもこんなことがあったような気がするんだよなぁ、なぜだろう……?」

「さぁ……みんな日頃の行いがいいんじゃないかしら」


 みんな嬉しそうな顔をしている。よかった、この四人が一緒なら二学期も楽しくなりそうな気がした。

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