第59話「お出かけ」

 みんなで勉強をした次の日、夏休み最後の日曜日に、僕と絵菜は一緒に出かける約束をしていた。

 絵菜が「たまには駅前で待ち合わせしないか?」と言っていたので、僕は約束の時間に遅れないように家を出た。そういえば初めてデートをした日も今日のような暑い日だった。駅前への道のりもドキドキしていたのを思い出す。

 歩いて駅前に着く。もう汗をかいている。僕は持っていたハンドタオルで汗を拭う。絵菜が先に来ていたようで、僕を見つけて駆け寄って来た。


「団吉、おはよ」

「おはよう、今日も暑いね……って、今日の服装、か、可愛いね」


 絵菜はペールグリーンのシャツと、水玉模様の入ったフレアスカート、足元はブラウンのサンダルを履いていた。やはりいつもと違ってちょっと大人っぽい絵菜に僕はドキドキしてしまった。ぼ、僕のファッションは大丈夫だろうかと心配になった。


「ありがと、団吉に褒めてもらうのが一番嬉しい」

「うん、絵菜が可愛くてドキドキしてる……そして自分は大丈夫だろうかと心配になる……」

「ふふっ、大丈夫だよ、団吉もカッコいい」


 絵菜がそう言って僕の手を握ってきた。


「じゃあ行こうか、電車にしばらく乗ることになるけど」


 都会までは駅前から電車で四十分くらいかかる。僕たちはちょうど空いていた席に並んで座った。


「久しぶりに待ち合わせした気がするけど、初めてデートした時を思い出してた」

「あ、僕も思い出してたよ、あの時も絵菜が大人っぽくてすごくドキドキしたなぁ」

「ふふっ、団吉もすごくカッコよくてドキドキした……夢みたいだった」


 二人で色々話していると、電車が目的地に着いた。二人で改札を抜けると、人の多さにびっくりした。


「す、すごいね、駅前も人が多いけど、比べ物にならない……」

「あ、ああ、周りも建物がいっぱいで、どこ行けばいいのか……」


 二人で田舎者感を出してしまった。とりあえず僕たちは駅の近くにある商業施設に入った。


「な、なんか中もすごいおしゃれだね……そういえば、真菜ちゃんの誕生日プレゼント何にしようか?」

「うーん、何にしようか迷ってるんだよな……」

「何か真菜ちゃんがハマっていることとか、ものとかない?」

「トラゾーは好きだけど、そのグッズもプレゼントには向かないかなと思って……」

「そっか、とりあえず色々あるから見てみようか」


 二人で商業施設の中を一緒に見て回ることにした。隣町の商業施設よりも大きく、色々なお店がある。見て回るだけでも楽しいなと思った。


「あ、これどうかな……?」


 絵菜が指差した方にあったのは、青い花がプリントされたポーチだった。なるほど、女の子なら小物を入れるのに役に立つかもしれない。


「なるほど、女の子ならあると便利そうだね、めっちゃ高いわけでもないしいいんじゃないかな」

「うん、あとせっかくだし中身も買っていこうかな、リップとか、手鏡とか」

「あ、そうだね、じゃあさ、ポーチは絵菜が買って、中身は僕が買うっていうのはどうだろう?」

「え、い、いや、それは申し訳ないというか……」

「ううん、僕からも真菜ちゃんにプレゼントしたいから。でもリップとか僕はよく分からないから、絵菜が選んだものを買わせてもらってもいいかな?」

「ありがと、うん、私が選んでみるよ」


 とりあえずそのお店でポーチを絵菜が買って、その後絵菜がリップと手鏡とハンカチを選んで、僕が買った。ラッピングも必要だろうということで、可愛らしい袋とリボンも買った。


「よかったね、真菜ちゃんも喜んでくれるといいね」

「うん、団吉からもプレゼントって知ったら、真菜嬉しすぎて空飛ぶかも」

「あはは、なんだか杉崎さんみたいだね。あ、この後どうしようか?」

「さっきちらっと見たんだけど、この近くにかなり大きな本屋があるみたい。団吉行きたくないか?」

「あ、そうなんだね、うん、行ってみたいかも。じゃあ昼ご飯食べた後に行ってもいいかな」


 せっかく都会に来たからということで、いつものハンバーガーではなく、洋食のお店に入ってパスタを食べることにした。絵菜はきのこの和風パスタ、僕は明太クリームパスタを選んだ。うん、とても美味しい。おしゃれなお店で食べているのがちょっと大人っぽく感じた。

 その後、僕たちは先程の商業施設の近くにあった大きな本屋へ行った。建物一つが全部本屋になっていて、各階で売り場が分かれていて、色々な本があるようだ。


「す、すごい、さすが都会だ、こんなに大きな本屋があるなんて」

「ふふっ、団吉嬉しそうだな、自由に見ていいよ。あ、私にもおすすめの本あったら教えてほしい」

「うん、ありがとう、色々見てみることにするよ」


 二人で本屋を見て回った。小説、漫画、参考書、専門書、雑誌、どれも色々と揃っている。かなりマニアックな本もあって、僕はテンションが上がっていた。


「団吉、その本は何なんだ?」

「ああ、これは『魔法科大学の優等生』っていう、元々『小説を書こう』っていう小説サイトから出た本で、魔法が現実となった現代で何でもできる優等生の主人公が魔法科大学に入学するんだけど、そこにはとんでもない同級生や先輩がいて、波乱の展開が繰り広げられていく学園モノだよ……はっ!?」


 しまった、また本や小説のことになると饒舌になる僕の癖が出てしまった。絵菜はクスクスと笑いながら、


「団吉が本の話している時、すごく生き生きしてるから好きだ。それ私も読めるかな?」


 と、本に興味を持った様子だった。


「あ、うん、ちょっと科学的な言葉が難しいかもしれないけど、学園モノで設定は分かりやすいと思うよ。言葉も説明があるから読んでいくと分かると思うよ」

「そっか、じゃあ私も読んでみたい。団吉から本を借りるようになって、真菜も最初はびっくりしていたけど、本読むのが楽しくなってきた」

「うんうん、僕も絵菜が本読めるようになって嬉しいよ、また貸してあげるね」


 それからしばらく一緒に本を見たり、違う商業施設で服を見たりしてデートを楽しんだ。絵菜はずっと手をつないで楽しそうにしていた。たまにはこうして遠出するのもいいものだなと思った。

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