第58話「終わらない」

 夏休みも終盤になった。

 今日は夏休み最後の土曜日で、昨日までずっとバイトに入っていたので休みをとって勉強をすることにしている。夏休みの課題は全て終わったのだが、夏休み明けには今年もテストがある。そのために一学期の復習をしておきたいと思っていた。

 今回のテストも誰にも負けたくない、その思いは強かった。学年一位は九十九さんだが、僕も負けないようにしっかりと頑張りたい。九十九さんと話すようになって、いい目標が出来たような気がする。

 しばらく勉強をしていると、スマホが鳴った。見ると火野たちのグループRINEにメッセージが来ているようだ。


『団吉ぃ~、数学が難しすぎて課題が終わらねぇよ~』

『あー私も! 数学難しいよー、日車くん助けて~』


 火野と高梨さんの心の叫びが聞こえたような気がした。そうか二人とも課題が終わっていないのか。夏休みはあと数日しかないのにそれはピンチだ。


『そうか、二人とも終わってないのか、それはヤバいな、今日なら教えてあげてもいいけど』

『おお、ほんとか!?』

『ああ、母さんも日向もいるけど、うちでやろうか?』

『日車くんありがとー! 行く行くー!』

『サンキュー、じゃあ、俺と優子は一緒に行くぜー』


 あれ? 絵菜が何も話してないなと思ったので、聞いてみることにした。


『絵菜は課題終わった?』

『あ、うん、私は一応終わったから、行っていいのかなと思って』

『うん、テストもあるし勉強しておかない? 教えるよ』

『うん、そしたら後で行く』


 結局今年もみんなで勉強することになるのか、少しおかしくてふふふっと笑ってしまった。



 * * *



 しばらくまた勉強していると、インターホンが鳴った。出ると絵菜が一人で来ていた。


「こ、こんにちは」

「いらっしゃい、さあ上がって」


 絵菜をリビングに案内すると、母さんと日向がニコニコしながら迎えた。


「いらっしゃい絵菜ちゃん、この前は団吉と日向がお世話になりました」

「あ、いえ、うちも母がランチでお世話になったみたいで……」

「ああ、すっごく楽しかったわー、話がはずんじゃった。絵菜ちゃんのお母さん優しくていい人ねー」

「絵菜さんこんにちは! どうぞジュース飲んでください」

「あ、ありがとう」


 しばらくみんなで話していると、またインターホンが鳴った。出ると火野と高梨さんが来ていた。


「おーっす、すまんな、お世話になります」

「やっほー、外は相変わらず暑いねぇ、私もお世話になります」

「いらっしゃい、いえいえ、何とか終わるといいけど。さあ上がって」


 火野と高梨さんをリビングに案内すると、また母さんと日向がニコニコしながら迎えた。


「いらっしゃい、夏休みなのに勉強大変ねー」

「こんにちは! すいません急に押しかけてしまって。そうなんですよ数学がわけわかんねぇ状態で」

「こんにちは! クッキー買ってきたのであとで食べませんか?」

「あら、駅前の美味しいやつねー、じゃあみんなであとでいただきましょうか」

「こんにちは! みなさん頑張ってください! 私応援してます!」

「応援してますじゃないのよ、日向も勉強するんだぞ」

「えぇ!? わ、私はみなさんの邪魔になったらいけないから見守るよー……あはは」

「大丈夫だ、日向にも教えるから早く準備しろ」

「ううー、お兄ちゃんのドケチー、アンポンターン」


 ぶーぶー文句を言う日向を見て、みんな笑った。

 その後、火野と高梨さんは数学の課題を、絵菜と日向は数学の復習をしていた。僕は課題も終わっていたのでみんなの質問に答えることに徹していた。うん、火野と高梨さんは躓きながらも順調に課題を進めることが出来ているのではないか。


「ふー、ちょっと休憩するか、団吉のおかげでだいぶ進んだぜ。このままいけば今日中に終わりそうだ」

「そだねー、あーもー数学難しいよー。そういえばみんな夏休みは楽しんでるー? 私は部活が多くて大変だったよー」

「おう、俺も部活で忙しかったぜ、中川部長が次は県大会優勝を目指すと言って熱が入っているからな」

「あはは、さすが中川くんだね。僕はバイトと勉強をしっかりと頑張ったよ」

「ふふふー、私とお兄ちゃんは絵菜さんの家に泊まりに行きました! 楽しかったー!」

「えぇ!? なになに、いいないいなー楽しそうだなー、日向ちゃんと真菜ちゃんと一緒にいれるとか……食べ放題じゃない……ふふふふふ」

「た、高梨さん落ち着いて……絵菜はちゃんと課題終わったんだね」

「うん、この前団吉にも教えてもらったし、なんとか頑張った。あ、団吉明日用事ある?」

「ん? 明日はバイトも人が多いらしくて休みにしているけど、何かあった?」

「よかったら一緒に出かけないかなと思って。真菜の誕生日プレゼントも買いたいし」

「ああ、そうだったね、じゃあせっかくだし都会の方へ行ってみようか」


 絵菜と話していると、火野と高梨さんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「な、なんだよ……」

「いやいや、二人でデートかーいいなーと思ってな」

「そだねー、『絵菜、僕がエスコートしてあげるよ』って言ってさー」

「なっ!? ま、まぁ、そうかもしれないけど……」


 僕と絵菜が恥ずかしそうにするので、火野と高梨さんが笑った。


「……はいはい、課題を終わらせるのも大事だけど、夏休み明けにはテストがあるからな、みんな忘れないように」

「ぐはっ、そうだった……なんでこんなに勉強しねぇといけないんだ……」

「うっ、日車くんそれは言わないで~、今は忘れておきたい……」


 火野と高梨さんが同じように落ち込むので、今度は僕と絵菜が笑った。

 高梨さんが持ってきたクッキーをみんなでいただいた後、僕たちはまた勉強をした。火野と高梨さんは無事に課題をほぼ終わらせることができたようだ。よかったよかった。

 絵菜と日向も数学の復習を進めていたが、日向が「うーん、うーん……もうダメだぁ! お兄ちゃんギブアップ!」とを上げてしまった。本当にこいつは大丈夫かと心配になってしまう。これからもしばらく日向の勉強を見てあげた方がいいのかもしれない。

 そして、僕と絵菜は明日都会へ出かける約束をした。勉強をしながらちょっと楽しみな自分がいた。

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