第69話「交流」

 次の日、目が覚めると見慣れない景色にまたびっくりしてしまった。そうだ、ファームステイに来ているのだ。自分の家ではないのだ。

 お客さん用の部屋だとジェシカさんが案内してくれた部屋は、僕の家のリビングかと思うくらい広かった。ベッドが二つあったので、僕と相原くんは使わせてもらった。


「……あ、日車くんおはよ、目が覚めた?」


 ゆっくり起き上がると、相原くんが先に起きていたようで声をかけて来た。


「あ、おはよう、うん、いつの間にか寝ちゃってた、さすがに疲れてたのかな」

「……俺もだよ、初めてのことが多すぎてビビりまくってる」

「そうだね、あ、着替えたらリビングに行ってみようか」


 二人で着替えてリビングへと向かう。みんな起きていたようで、お母さんとジェシカさんが朝食の準備をしていた。


『ダンキチ、シュン、おはよー! よく眠れた?』

『おはようございます、はい、よく眠れたみたいです』

『……おはようございます、俺も眠れました』

『おはよう! よく眠れたなら何よりだ、二人とも座って待ってるといいよ』


 お父さんに促されて、僕たちもテーブルに座る。お母さんとジェシカさんが朝食を運んできた。パン、シリアル、サラダ、スープなどが並ぶ。


『いただきまーす、さあさあ、二人とも食べてー』

『い、いただきます……あ、シリアル美味しい、日本とはまた味が違います』

『そうなんだね! いいなー、日本で日本食を食べるのが夢なんだー。日本食ってどんなのが美味しいかな?』

『え、えっと、お寿司とか、ラーメンとか? お米も美味しいですよ』

『そっかー、いいないいなー、あ、ご飯食べ終わったら、うちを案内するねー』


 朝食をいただいた後、僕たちはジェシカさんの案内で庭に出た……のだが、想像をはるかに超えていた。日本の一般的な一軒家の庭なんてこれを見ると小さすぎて「庭?」と疑問符がついてしまう。それくらい広かった。公園? いや草原? そんなレベルだ。隣家がずっと遠くに見える。


「す、すごい……めちゃくちゃ広い」

「……な、なんか、日本の庭ってくそ狭いんだなって思うね」

『あれ? 二人とも日本語で何か話してるね』

『あ、とても広い庭だなって話してました。日本ではまずないので……』

『あはは、そうなんだね、牛や羊もいるんだよ、あとジョンがここで走り回ってるよ』


 そう言ってジェシカさんは牛や羊を見せてくれた。こ、こんなに近くで見ることがなくて、すごく大きいなと思った。

 二人で牛や羊に圧倒されていると、ジェシカさんが小さなボールを僕に手渡した。『向こうに投げて』と言うので、軽く投げると、犬のジョンくんが猛スピードで追いかけてくわえて戻ってきた。


『す、すごい! ジョンくん戻ってきた!』

『あはは、こんな感じで遊んでるんだよ。シュンももう少し遠くまで投げてみて』

『……あ、投げるのか、はい』


 相原くんがちょっと強めに投げるが、ジョンくんはまた猛ダッシュで追いかけて、あっという間に帰って来た。


『……す、すごい、僕より足速いかも』

『あれ? シュンは足が速いの?』

『……あ、はい、足は速いと思う……』

『あはは、そうなんだね、スポーツができる男の子ってカッコいいなー』

「……ひ、日車くん、今ジェシカさん何て言ったの? スポーツは聞こえたけど」

「あ、スポーツができる男の子はカッコいいなって言ってたよ」


 僕がそう言うと、相原くんは「……そ、そっか」と、ちょっと赤くなっていた。


『……あ、もうこんな時間か、お昼食べたら二人ともちょっと買い物に付き合ってくれる? 買い物と言っても日用品だけどね』

『あ、はい、大丈夫です』


 しばらくジョンくんと遊んでいたら、お昼になり、ジェシカさんがオージービーフを使ったハンバーガーを作ってくれた。とても美味しかった。

 その後ジェシカさんの車で、スーパーマーケットらしきところへ行く。駐車場も広くて建物も大きく、こちらではこれが一般的なのだろうかと思った。

 僕がカートを押した。もちろん商品も英語で書かれているため、じっくり読まないと分からないが、ジェシカさんはお肉やパスタやトマトの缶詰などをどんどんと入れていく。


『うーん、こんなものでいいかな、ごめんね、ダンキチとシュンにも荷物持ってもらうかも』

『あ、はい、大丈夫です』


 結局ジェシカさんも僕も相原くんも両手に荷物を持つことになった。こ、こんなに買うのか……なんだろう、日本とはスケールが違うというか。

 買い物を終えて帰ると、ジェシカさんとお母さんがちょっと早めに夕飯の準備を始めた。僕たちはリビングに座って帰ってきたお父さんと話す。


『ジェシカは今大学生だが、お金を貯めて日本に行きたいみたいなんだ。親としては少し不安だが、ダンキチやシュンのようないい子が案内してくれると嬉しいと思っている。ジェシカが日本に行ったら、よろしく頼むよ』

『あ、は、はい、僕たちでよければ、ぜひ』

「……ひ、日車くん、今お父さん何て言ったの?」

「ああ、ジェシカさんが日本に行きたがっているから、その時は二人が案内してくれると嬉しいって」

「……あ、な、なるほど……」

『そうだ、ダンキチのガールフレンドはどんな子なんだい? 可愛いのか?』

『えぇ!? あ、は、はい、金髪で、可愛い子です……』

『あっはっは、そうかそうか、ぜひ見てみたいものだな』


 そ、そういえば絵菜の写真を持っていないなと思った。今度一緒に撮るのもありかもしれない。

 しばらくお父さんと話していると、ジェシカさんとお母さんが夕飯を並べた。あ、これはフィッシュ&チップスってやつかな? これはパイだろうか? あまり日本では見かけない食べ物だった。


『ジェシカさん、これは何ですか?』

『これはミートパイだよ! こっちではよく食べるんだ。トマトソースをかけると美味しいよ! さぁ食べてー』

『あ、なるほど、いただきます……あ、すごく美味しいです』

『……ほんとだ、すごく美味しいです』

『そう? よかったー! 私が作ったんだー、二人が美味しいって言ってくれて嬉しい……でも』


 嬉しそうにしていたジェシカさんだが、急に声のトーンが落ちた。悲しそうな顔もしている。


『……二人とも、明日帰っちゃうんだよね……』

『あ、は、はい……』

『……寂しいけど、仕方ないよね。あ、そうだ、二人とも後でメールアドレス教えてくれない? メール送りたいから!』

『あ、はい、ぜひお願いします』


 美味しい夕食をいただいた後、ジェシカさんとメールアドレスを交換した。まさか海外の人とメールをするなんてびっくりしてしまう。英語の勉強をもっとしておかねばと思った。

 その後、僕と相原くんが三人に日本語を教えた。挨拶とかありがとうとか、簡単なものだったが、ジェシカさんはとても嬉しそうだった。その日は夜遅くまでみんなで話し込んでいた。

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