第56話「オムライス」

 次の日の朝、目を覚ますと、隣で絵菜がすやすやと眠っていた。

 あれから眠るまで見つめ合ったり抱きしめたりキスをしたり、僕は平常心を装っていたが、男の大事な部分が反応してしまってそれを隠すのに必死だった。よくバレなかったなと思う。いや、もしかしたら絵菜も気がついていたのかもしれないけど。

 ふと時計を見ると六時だった。まだ起きるには早いか。しかも動いたら絵菜を起こしてしまうかもしれない。僕は絵菜の可愛い寝顔を見ながら、そっと綺麗な金色の髪をなでた。

 少し経ってから、


「……ん、あれ、団吉起きてる……?」


 と、絵菜が目を半分くらい開けてつぶやいた。


「あ、ごめん、起こしたかな、絵菜の寝顔が可愛くてなでてたよ」

「……もう、恥ずかしいな……でも嬉しい、起きたら目の前に団吉がいるなんて」


 絵菜がそう言ってまた僕にぴったりと抱きついて来た。や、ヤバい、全身で絵菜を抱きしめてまた反応してきた。うう、僕も男なんだな。


「団吉のにおい、落ち着く……」

「そ、そっか、絵菜もいいにおいがするよ……って、これは変態くさいな」

「ふふっ、団吉なら全然かまわないよ」


 しばらく抱き合った後、二人で起き上がって着替えることにした。お互い見ないようにしていたが、絵菜がやっぱり見ようとしてくるので、僕は必死に隠しながら着替えた。え、絵菜のいたずら心なのだろうか。

 二人でリビングに行くと、みんな起きていてお母さんと真菜ちゃんが朝食の準備をしていた。


「二人ともおはよう、よく眠れましたか?」

「あ、おはようございます、はい、ぐっすり寝てたみたいで」

「まあまあ、それはよかったです。絵菜が団吉くんを寝かせてあげないんじゃないかと心配でした」

「なっ!? そ、それはない……」

「二人ともおはよー、お兄ちゃんまた襲ったりしてないでしょうね?」

「お兄様、お姉ちゃん、おはようございます、お兄様がまた襲ったのではないかと思ってしまいました」

「おはよう、ま、またって何……?」


 やはりずっとくっついて寝ていたとは口が裂けても言えなかった。

 しばらくそわそわしながら待っていると、テーブルにパン、ベーコンエッグ、サラダ、スープが並んだ。


「ごめんなさい、ご飯炊くの忘れてしまって、今日はパンになってしまいました。たくさん食べてくださいね」

「あ、いえ、うちもパンが多いので……すみません、いただきます」

「お兄様、ご飯食べて一息ついたら、また勉強教えてくれませんか? 理科で電流とか運動とかがちょっと苦手で」

「あ、団吉、私も物理が残ってるから教えてほしい」

「あ、うん、いいよ、それじゃあまた日向も勉強な」

「えぇ!? わ、私はお腹がいっぱいになって動けないからなー……あはは」

「嘘をつくんじゃないよ、そんなことでは青桜高校に合格できないぞ」

「ううー、お兄ちゃんのオニー、アホー」


 ぶーぶー文句を言う日向を見て、またみんな笑った。



 * * *



 朝食を食べてしばらく経って、僕たちはまた勉強会となった。絵菜は物理、真菜ちゃんは理科、日向は数学を進める。僕は昨日の続きで物理を進めながら、三人の質問に答えていた。


「お兄様、ここが分からないのですが……」

「ああ、ここはこうして、こうやって……」

「ああ! なるほど、分かりました。お兄様は昔から勉強ができるのですか?」

「う、うーん、まぁたしかに小学生の頃から勉強で困ったことはないなぁ」

「そうですか、お兄様の小学生時代……きっと可愛かったんでしょうね」

「うん、お兄ちゃん今よりも背が低くて、可愛かったよ!」

「そっか、団吉の小学生時代か……見てみたいかも」

「あ、ああ、家にたしか写真があったはずだから、今度見せてあげてもいいけど……って、恥ずかしいのだが」


 僕がそう言うと、みんな笑った。

 しばらくみんなで勉強をしていると、


「みんなー、私はそろそろ団吉くんたちのお母さんとランチ行ってきますね、団吉くん、日向ちゃん、ゆっくりしていってくださいね」


 と、お母さんがニコニコしながらそう言った。


「あ、はい、すみません色々とありがとうございました」

「お母さん行ってらっしゃい、あ、もうすぐお昼ですね、お姉ちゃん、アレの準備しよっか」

「あ、そうだな、団吉ごめん、勉強はここまでで」

「あ、うん、分かった」


 アレとは何だろうか? でも詳しくは聞かないことにしようと思っていたら、絵菜と真菜ちゃんがエプロンをつけた。ん? ということは……。


「あ、あれ? もしかして……」

「うん、今日のお昼は私が作るから」

「ふふふ、お姉ちゃん、頑張ろうね!」


 真菜ちゃんがぐっと拳を握った。え!? 絵菜が作るのか、でも料理は苦手だと言っていたが……。

 絵菜と真菜ちゃんが話しながら何かを作っている音が聞こえる。なんだろう、何を作っているのだろうか。

 しばらく日向と待っていると、お皿が運ばれてきた。


「で、できた……」


 そう言って絵菜が出してきたのは、オムライスだった。真ん中にケチャップでハートマークが書かれている。見た目はとても綺麗だった。


「え!? こ、これ絵菜が作ったの?」

「う、うん、実は以前練習してたんだ。団吉に食べさせてあげたいなと思って。さぁ食べようか」

「あ、そうなんだね、うん、じゃあいただこうかな」


 みんなで「いただきます」を言って、絵菜が作ったオムライスと、真菜ちゃんが作ったコンソメスープをいただく。あ、どちらも美味しい。チキンライスも味がしっかりしていて、卵も固すぎず柔らかすぎず、ちょうどよかった。


「ど、どう……?」

「うん、どちらもすごく美味しいよ、絵菜、料理できるようになったんだね」

「あ、いや、まだオムライスしか挑戦してなくて……」

「うんうん、絵菜さん、真菜ちゃん、美味しいです!」

「ふふふ、よかったねお姉ちゃん、お兄様と日向ちゃんに食べてほしかったもんね」

「あ、ああ……また他の料理作れるようになりたい」


 美味しい昼食をいただいた後、僕たちは談笑したりUNOをして楽しんだ。今度こそ僕が一番になってやる……と思っていたが、またここでも僕は一番最後になってしまった。本当に勝負事は弱いんだな僕は。

 みんなで過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎていく。絵菜も真菜ちゃんも楽しそうでよかった。色々あったけど、二人の笑顔をこれからもたくさん見たいなと思った。

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