第53話「花火大会」
花火大会の日になった。
僕と日向は去年と同じように浴衣を着る。やはり不思議な感じがするのは去年と変わらなかった。
「うんうん、二人とも似合ってるわよー」
「お兄ちゃん、やっぱりカッコいいね!」
「そ、そうかな、ありがとう、日向も可愛いよ」
僕がそう言うと、日向は「えへへー」と笑顔を見せた。このやりとり去年もしていた気がする。
「あ、ねえねえ、せっかくだから二人の写真撮らせてよ~、そこに並んで」
「え!? い、いいよ母さん、恥ずかしい……」
「えー、撮ってもらおうよー、ほらほら、お兄ちゃんこっち!」
日向に無理矢理引っ張られて、母さんがスマホで写真を撮った。うう、恥ずかしい……。
そんなことをやっているとインターホンが鳴った。出ると浴衣姿の絵菜と真菜ちゃんが立っていた。
「こ、こんにちは」
「お兄様、日向ちゃん、お母さん、こんにちは!」
「こんにちはー、あらー二人とも可愛いわね、ちょっと四人で並んで写真撮らせて~」
「え!? ま、また撮るの!?」
結局四人で並んで、母さんがスマホで写真を撮った。うう、二度も恥ずかしい思いした……。
き、気を取り直して、四人で家を出て川沿いまで歩いて行く。川沿いには今年もたくさんの人が花火を見に来ていた。
「やっぱり人が多いなぁ、火野と高梨さんはどこだろ……?」
「あ、あそこにいるんじゃないか?」
絵菜が指差した方向を見ると、火野と高梨さんがこちらを見て手を振っている。この二人もまた浴衣姿でバッチリと決まっていた。くそぅ、これだからイケメンと美人は困る……。
「おーっす、お疲れー、今年も人多いなー」
「やっほー、みんな揃ったねー、そして日向ちゃんと真菜ちゃんは今年も可愛いねぇー!」
「こんにちは! 高梨さんもすごく綺麗です!」
「火野さん、優子さん、こんにちは! 二人ともすごく似合ってます」
「あはは、ありがとー、さぁさぁ、またお姉さんと一緒に出店巡りしないかい!? 行こ行こーふふふふふ」
「あ、高梨さん、あまりお金出しちゃダメ――」
僕が言い切る前に、高梨さんは日向と真菜ちゃんを連れて出店の方へ行ってしまった。
「ふふっ、優子は相変わらずだな」
「そうだね、あまり買い与えるのもよくないけど、まぁ楽しそうだしいいか……」
「――あれ? 日車くん?」
急に呼ばれたので振り返ると、なんと九十九さんが浴衣姿で立っていた。
「あ、あれ!? 九十九さん!?」
「やっぱり日車くんだ、来てたんだね」
紺色の浴衣に身を包んだ九十九さんは、バッチリ決まっていてとても可愛かった。
「あ、う、うん、友達や妹と一緒に……あれ? 九十九さんは一人?」
「ううん、弟と一緒なんだ……って、あれ?
九十九さんの後ろに隠れるように、男の子がいるのが見えた。背は九十九さんより少しだけ低いくらいだろうか、九十九さんと顔が似ていて切れ長の目で可愛らしいというかカッコいい男の子だった。
「……お前、何者だ?」
康介と呼ばれた男の子が僕にそう言ってきた。
「え、あ、その……何て言えばいいのかな、学校の生徒会で一緒の者で……」
「……お前に姉ちゃんはやらないからな!」
「ちょっ、康介、何言ってるの!? ご、ごめん日車くん、悪い子じゃないんだけど、変なこと言ってる……」
「あ、いや、大丈夫だよ……」
康介くんはじっと僕のことを見てくる。な、なんだろう、お姉ちゃんがとられるとでも思っているのだろうか。
「あれ、生徒会長だ、おーっす、はじめましてだな、俺は一組の火野です」
「あ、は、はじめまして……九十九です」
火野と九十九さんが挨拶を交わす……のだが、絵菜は僕の左手をきゅっと握ってきて何も言わない。じっと九十九さんを見ているような気もする。
「日車くん、そちらの方は……?」
「あ、ああ、こちらは六組の沢井さんだよ」
「……どうも、沢井です」
「あ、ど、どうも……九十九です」
ぎこちなく二人が挨拶を交わす。二人ともそれ以上何を話していいのか分からない感じだった。
「あ、よかったら、九十九さんたちも一緒に花火見ない? みんなで見ると楽しいよね」
「あ、う、うん、お邪魔でなければ……」
「やっほー、色々見て回ってきたよー……って、あれ? 生徒会長がいる!」
出店巡りをしていた高梨さんたちが戻って来た。日向と真菜ちゃんはまた両手に色々と持っている。
「ま、まさかこれ高梨さんが買ったの……?」
「そそ、二人のためならねー、ああ、気にしないで、私が好きでやってるからさー」
「ほ、ほんとごめん、日向、お礼言ったか?」
「うん、言ったよー、高梨さんありがとうございます!」
「いいのいいのー、美味しくいただくためだからねーふふふふふ……って、生徒会長も来てたんだねー、はじめましてかな、私は二組の高梨です」
「あ、はじめまして、日車日向と言います」
「はじめまして、沢井真菜と申します。姉がお世話になっております」
「あ、は、はじめまして……九十九です」
ドーン、ドーン――
みんなが挨拶を交わしていると、花火が打ち上がり始めた。今年も色とりどりの花火が夜空を照らす。
「おー、綺麗だなー」
「そうだな、去年の火野は今頃ガチガチだったけどな」
「うん、火野、ガチガチだった」
「あ、そ、そうだな、あれは仕方ないんだよ、俺の人生一番の大勝負だったんだから……」
慌てる火野がおかしくてつい笑ってしまうと、絵菜も火野も笑った。
ドーン、ドーン――
「綺麗だね……」
右隣で九十九さんがぽつりとつぶやいた。横顔も美人で僕はドキッとしてしまった。うう、絵菜もいるのに何を考えているんだ僕は。
「……団吉が九十九ばかり見てる」
左隣にいた絵菜が面白くなさそうな顔をしている。
「え!? い、いや、そんなことないよ!」
僕が慌てていると、絵菜がクスクスと笑って左手をきゅっと握った。うう、何でこうなってしまうのだろうか。
綺麗な花火が、しばらく夜空を照らしていた。僕たちはみんなで花火をじっくりと楽しんでいた。
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