第52話「楽しみ」

 次の日、僕はバイトが休みだったので、朝から夏休みの課題をこなして、その後日向の勉強を見てあげていた。

 朝、絵菜からRINEが来ていた。あれからお母さんが一応警察に連絡をしたとのこと。また何かあったら警察にすぐ連絡してくださいと言われたそうだ。

 そして、絵菜がこのことは誰にも話さないでほしいと言っていた。うん、絵菜と真菜ちゃんのこととはいえ、人の家のことを勝手に話すのはよくない。僕は『分かった』と返事をして、日向にも伝えた。


「――ここは、こうしてこっちに代入して……」

「あー、なるほど! さすがお兄ちゃん……なんだけど、絵菜さんと真菜ちゃん、大丈夫かな……」


 日向も二人のことが心配になっているようだ。


「そうだね……すぐに元通りとはならないかもしれないけど、大丈夫だよ。後でビデオ通話でもしてみようか」

「うん、そうだね、そのためにはこの数学をやっつけないと、むむむ……難しい……」


 日向がうんうんと唸っているその時、スマホが鳴った。火野たちのグループRINEにメッセージが来たみたいだ。


『おーっす、みんなすまん、今から通話できるかー?』

『やっほー、大丈夫だよー』

『こんにちは、うん、僕も大丈夫だよ、日向もいるけど』

『あ、私も大丈夫』


 どうやらグループで通話がしたいみたいだ。絵菜からもRINEが来たことに少しホッとした。


「お兄ちゃんどうしたの? RINE?」

「ああ、火野がなんかみんなで話したいらしい。スピーカーにしてみようか」


 しばらくしてまたスマホが鳴った。僕は通話に出てスピーカーにする。


「おーっす、お疲れー、すまんなみんな忙しかったか?」

「やっほー、私は夏休みの課題やってたよー、多すぎて大変だよー」

「あ、私も課題やろうかなって思ってたとこだった」

「お疲れさま、今日向の勉強を見てたとこだったよ」

「あー、そうだよな、日向ちゃんも受験生だもんな、これ日向ちゃんにも聞こえてるのかな?」

「こんにちは! はい、聞こえてます! お兄ちゃんに勉強教えてもらっています!」

「あはは、日車くんの家庭教師なら怖いものなしだねぇー」

「そういや火野、何か用事があったのか?」

「ああ、明日花火大会があるだろ? またみんなで一緒に行かねぇかなと思ってさ」


 そういえばそうだった、明日は花火大会がある。去年もみんなで一緒に行ったなと思い出した。


「あーいいねぇ、行く行くー! また浴衣着て行こうかなぁー」

「あ、そうだったね、日向どうする? 行く?」

「うん、行く! 私もまた浴衣着ようかなぁー」

「あ、去年の日向ちゃんも真菜ちゃんも可愛かったよねぇー、また見れるのか……ふふふふふ」

「た、高梨さんちょっと怖い……」


 そこまで話して、絵菜と真菜ちゃんはさすがに無理かな? と思った。昨日の今日だし、もしかしたら遊びに行く気分ではないかもしれない。


「絵菜と真菜ちゃんは、大丈夫? 無理しなくていいからね」

「……ううん、行く。真菜にも話しておく」


 絵菜の言葉を聞いて、僕は少しホッとした。まだいつも通りの元気はないかもしれないが、いい気分転換になればいいなと思った。


「……絵菜? どうかした?」


 高梨さんの言葉を聞いて、僕と日向は同じようにドキッとして目を合わせた。さすが高梨さん、いつもの絵菜と様子が違うと思ったのだろうか。


「ううん、何でもない、明日楽しみにしてる」

「そっかー、ちょっと元気なさそうだなって思ってね、何かあったら遠慮なく言ってね」

「うん、ありがと」

「よっしゃ、じゃあまたみんなで行こうぜ、俺もまた浴衣着て行こうかな」


 それから少し話して通話を終了した。僕と日向が同じようにふーっと息を吐いた。火野と高梨さんに隠し事というか、ちょっとだけ後ろめたい気持ちにもなった。

 しばらく日向の勉強の続きを見て、少し休憩になり、絵菜と真菜ちゃんと話せないかと思ってRINEを送ってみた。すぐに『うん、いいよ』と返事が来たので、僕はビデオ通話をかけた。


「も、もしもし」

「もしもし、あ、映ってるね、こんにちは」

「お兄様、日向ちゃん、こんにちは!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは! 勉強のしすぎで私はもうダメです……骨は拾ってください……」

「おーい、このくらいでくたばってたら高校に合格できないぞ」


 僕と日向のやりとりを見て、絵菜と真菜ちゃんは笑っていた。


「二人とも大丈夫? 無理してない?」

「うん、大丈夫、ありがと」

「はい、私も大丈夫です。そういえばさっきお姉ちゃんから聞きました、花火大会私も行きたいです!」

「そっか、よかった、ちょっとでも気分転換になるかもしれないね」

「うん、色々ありがと、ちょっと優子にはバレそうだったけど……」

「ああ、さすが高梨さんだね、いつもと様子が違うと感じたのかな……」

「優子は昔から私のこと見ているからな……あ、そうだ、話変わるんだけど、今度の土日、団吉と日向ちゃん二人でうちに泊まりに来てくれないか? 母さんがどうしても昨日のお礼がしたいって言ってて」


 絵菜がそう言うので、僕と日向はびっくりして目を合わせた。


「え、そ、それは……い、いいのかな……」

「うん、私も真菜も母さんも、ぜひ来てほしいって思ってるから」

「お兄様、遠慮しないでください、私もまたみんなで一緒に過ごしたいです! あ、ついでに私にも勉強を教えてもらえると嬉しいです」

「あ、そうだ、私も夏休みの課題、団吉に聞きたいところあった……」

「そ、そっか、じゃあ……お邪魔しようかな、日向も行けるか?」

「うん、みんなで勉強会っていうのも面白そうだね! なんか頑張れそうな気がしてきた!」


 日向が力こぶを作って見せた。本当にそのポーズ気に入っているな。


「じゃあ、うちの母さんにも話しておくよ。もしかしたら絵菜と真菜ちゃんのお母さんとまたお話させてもらうかも」

「うん、分かった、明日も土日も楽しみにしてる」

「私も楽しみにしてます! まずは明日ですね、私もまた浴衣着ようかなぁ」

「よし、私も浴衣着よう! お兄ちゃんも着るよね?」

「うん、僕も着ようかな、なんだか去年を思い出すね」


 しばらく四人で話してから、通話を終了した。日向が「二人とも元気そうでよかったね」と言っていた。うん、本当によかった。一緒に過ごすことで、少しでも二人の気持ちが軽くなるといいな。

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