第50話「見学」

 暑い毎日が続いている。

 今日は学校でオープンスクールが行われる。中学生に学校を見てもらって、高校がどんなものなのか体感してもらうイベントだ。

 基本的に生徒会はこのオープンスクールまで前年度の役員が中心となって動くのだが、新生徒会長の九十九さんも挨拶があるし、僕や大島さんや天野くんも雰囲気がどんな感じなのか見ておく必要があった。

 あと、一時間だけ授業があった後、部活動もあり、生徒は全員登校することになっている。中学生に授業や部活動を見てもらうのだ。


「お兄ちゃん、絵菜さんと真菜ちゃん来るの?」

「ああ、一緒に行こうって連絡あったから、もうすぐ来ると思うよ」


 中学三年生の日向と真菜ちゃんも、今回のオープンスクールに参加することになっている。二人とも高校が見れるとのことで楽しみにしていたようだ。

 日向と話していると、インターホンが鳴った。出ると絵菜と真菜ちゃんが来ていた。


「お、おはよ」

「お兄様、日向ちゃん、おはようございます!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、おはようございます!」

「おはよう、じゃあ行こうか」


 四人で高校まで歩いて行く。なんかいつもと違って不思議な感じがした。


「青桜高校に通うことになったら、こうしてお兄ちゃんと登校できるのかー!」

「ああ、たしかにそうなるかも。でもそのためには勉強頑張らないとな」

「だ、大丈夫だよ、夏休みも頑張ってるもん!」

「日向ちゃん、頑張って青桜高校に合格しようね!」

「うん! べ、勉強は大変だけど……」

「そっか、帰りだけじゃなくて、朝団吉と一緒に登校するのもありだな……毎日は無理かもしれないけど、今度からそうしていいか?」

「あ、うん、いいよ、一緒に行く時はいつでも連絡くれれば」


 四人で話しながら高校に着いた。中学生の姿もあっていつもより人が多いように見えた。日向と真菜ちゃんはまず体育館に行くことになっている。


「ここの廊下通って行ったら、体育館だから。僕は教室に荷物置いてから体育館に行くよ」

「はーい、お兄ちゃんは五組で、絵菜さんは六組だよね?」

「うん、二階に教室あるから、体育館で話が終わったら移動して来るといいよ」


 日向と真菜ちゃんと別れて、絵菜と教室の前で別れてから、僕は教室に荷物を置いて体育館へと向かった。中学生がたくさん集まっている中で、生徒会のメンバーがいるのが見えた。


「あら、日車くんおはよう、今日はもしかして妹さんも来てるの?」

「おはよう、うん、僕と絵菜の妹が来てるよ」

「そっか、沢井さんの妹さんもなのね。それにしても沢井さんの妹さんってどんな子なのかしら、やっぱり金髪なの?」

「ううん、黒髪で、大島さんと同じような長さだよ。しっかりしてて可愛いよ。あ、九十九さん、今日は挨拶があるね」

「う、うん、ちょっと緊張するけど、頑張る……」

「日車先輩、おはようございます、あ、そろそろ始まりますね、席についておきましょうか」


 中学生の前で副会長の進行の元、慶太先輩の挨拶があり、続けて九十九さんの挨拶があった。九十九さんも緊張していたようだが、挨拶では緊張している様子を全く見せず、きちんと話すことができた。さすがだなと思った。

 先生の説明の後、この場は解散となった。僕たちはそれぞれ教室に戻る。これから一時間だけ授業が行われる。先生が来るまでしばらく待っていると、中学生がぞろぞろと教室の後ろに入ってきた。日向と真菜ちゃんもいるな……と思っていたら、日向と目が合って、


「あ、お兄ちゃん!」


 と、日向が声を出して手を振っているではないか。


「ば、バカ! し、しーっ!」


 僕は慌てて人差し指を口元に当てて静かにするように言った。


「あ、も、もしかして、日車さんの妹さんですか……?」


 隣の席から富岡さんがニコニコしながら話しかけてきた。


「あ、うん、教室では静かにするように言っておいたのに……」

「あはは、可愛いですね、いいなぁ、私は末っ子なので、弟か妹がほしいと思った時もありました……!」

「あ、そうなんだね、うーん、妹いいかなぁ、兄としてはもう少し兄離れしてほしいんだけど……」

「可愛いじゃないですか、すごく憧れます……!」

「よーし、授業始めるぞー、今日はみんなの後輩になるかもしれない中学生のみなさんが来てるけど、授業は手抜かないからなー」


 大西先生がいつも通り授業を進めるが、手を抜かないと言いながらいつもよりスピードは遅めのような気がした。いつもこのくらいのスピードならみんなついて来れるのではないかと思ったが、それは言わないでおこう。

 日向と真菜ちゃんは五組と隣の六組を行ったり来たりしていたみたいだ。授業が終わって二人に話しかける。


「二人ともどうだった?」

「お兄ちゃんお疲れさま! 高校ってやっぱりすごいなぁ、こんな雰囲気なのかー」

「お兄様、お疲れさまです、先生の質問にもビシッと答えるお兄様がカッコよかった……!」

「そ、そうかな、ありがとう、これから部活動があるけど、見に行く?」

「あ、うん、火野さんと高梨さんがいるんだよね、見に行きたい!」


 絵菜と合流して、一緒にまずは体育館へと向かった。高梨さんがいたので手を振ると、こちらに気づいて「あ、やっほー!」と言いながらダッシュで日向と真菜ちゃんに抱きついた。いつも通りだが思わず絵菜と一緒に笑ってしまった。


「二人とも来てたんだねー、今日も可愛いよー、美味しくいただきたい……」

「た、高梨さん落ち着いて……二人に部活の様子を見せたいと思って」

「うんうん、ぜひ見て行ってー、バスケも楽しいよー二人が来年入ってくれると嬉しいなぁー」


 それからしばらくバスケ部の練習を見ていた。日向も真菜ちゃんも「すごーい!」と言っていた。僕も練習風景を見るのは初めてだったが、そういえば高梨さんは部長になっていたなと思い出した。指示を出す高梨さんがカッコよく見えた。

 その後グラウンドに行ってサッカー部の練習も見てみた。火野と中川くんがいたので手を振ると、こちらに気づいてやって来た。


「おーっす、日向ちゃんも真菜ちゃんも来てたのか!」

「こんにちは! 妹さんたちも久しぶりだね!」

「こんにちは! 高梨さんのところも見てきてすごいなーと思っていました!」

「火野さん、中川さん、こんにちは、二人ともカッコいいです……!」

「あはは、サンキュー、二人は女の子だけど、マネージャーというのもあるからね、入ってくれると嬉しいなぁ!」


 しばらくサッカー部の練習を見ていると、いつの間にか女子が集まっていて、キャーキャー言われている気がする。くそぅ、これだからイケメンは困る……。


「高校はこんな感じだけど、どうだった?」

「やっぱり高校はすごいなぁ、よーし私も来年はここに通うぞー!」

「日向ちゃん、勉強大変だけど、頑張ろうね!」


 二人が顔を合わせて「おー!」と言っている。うん、まだまだ大変なことはいっぱいあるだろうけど、なんとか頑張ってほしいなと思った。

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