第49話「お宅訪問」

 みんなで遊園地に行ってから数日、僕はまたバイトに精を出していた。

 今日は休みをとって、夏休みの課題をやろうと朝から机に向かっていた。しばらくバイトを頑張った分、勉強も頑張っていきたい。

 それにしても、今年も課題がたくさん出ている。数学はほぼ終わったが、物理、生物、英語あたりがまだまだたくさん残っていた。みんなは大丈夫だろうかと、ちょっと心配になった。

 昼ご飯を食べた後、のんびりしているとスマホが鳴った。RINEが送られてきたみたいだ。送り主は東城さんだった。


『こんにちは! 今お忙しいですか?』

『こんにちは、ううん、大丈夫だよ、どうかした?』

『あの、これからちょっと団吉さんのお家に遊びに行きたいなと思っているんですが、いいですか?』

『あ、うん、大丈夫だよ、日向もいるから喜ぶと思うよ』

『ありがとうございます! じゃあみんなで行きます!』


 ん? みんなで行くってどういうことだろう? と思ったが、まぁいいかと思ってしばらくリビングでのんびりしていると、インターホンが鳴った。東城さんが来たのかな。僕は玄関へと急ぐ。


「あ、東城さん、こんにち――」

「こんにちは! すみません急に来てしまって」


 僕は固まってしまった。なぜかと言うと、東城さんの周りに東城さんに負けないくらい可愛い女の子が四人いたからだ。知らない人ではない。あのメロディスターズのメンバーが全員揃っているのだ。


「え、え!? め、メロディスターズのみなさん!?」

「団吉くんこんにちはー、文化祭の時以来だねー。まりりんのところに遊びに来たから、団吉くんにも会いたくなってね」


 東城さんの隣にいたゆかりんが笑顔で言った。メロディスターズの顔と愛称はもちろん覚えている。ゆかりん、まりりん、しおみん、あきりん、ゆきみんの五人だ。


「あ、こ、こんにちは、その、これは夢でしょうか……」

「あはは、大丈夫だよ現実だよ、それにしても団吉くんはやっぱり可愛い顔してるね」

「ほんとだー、可愛いねー」


 ゆかりんに続いて、しおみん、あきりん、ゆきみんが次々と可愛いと言ってくれた。あ、あれ? ほんとに現実なのかな……。


「お兄ちゃん、なんか騒がしいけどどうしたの……って、え!? め、メロディスターズのみなさん!?」


 日向がパタパタとやって来て固まってしまった。まぁたしかにそうなるよな。


「あれ? 団吉くんの妹さん? 可愛い子発見ー!」

「ほんとだー、可愛いねー」


 あっという間に東城さん以外の四人に囲まれた日向は、「ふええ!? あ、あわわわ……」と、どうしたらいいのか分からない状態だった。


「もう! 団吉さんも日向ちゃんも困ってるから! 二人ともごめんなさい!」

「あ、い、いや、大丈夫……あ、ここじゃあれなので、みなさん上がってください」

「お、いいの? それじゃあおじゃましまーす、いやー外は暑いねー、汗が止まらなかったよ」


 みなさんをリビングへと案内する。自分の家にメロディスターズがいるというこの現実が嘘みたいだった。


「へぇー、ここが団吉くんの家かぁ、けっこう広いんだね。あ、私たちのCDがある!」

「あ、ほんとだー、ありがとねー」


 キョロキョロと見回していたゆかりんとしおみんが、コンポの横に置いてあったCDを見つけた。


「あ、い、いえ、みなさんの歌いいなと思って、配信だけじゃなくてCDもほしいなと思って」

「ありがとうー! あれ? そのスマホケース、もしかして私たちのグッズじゃない?」

「あ、はい、ライブに行った時に買わせてもらいました。妹も一緒のものを」

「そっかそっかー、ありがとねー!」

「あ、み、みなさんどうぞ」


 日向がみなさんにジュースを持って来てくれた。


「ありがとうー! 日向ちゃんっていうのね、可愛いわぁ~私の妹にしたいくらい」

「え、あ、えへへ……」


 日向はしおみんとあきりんとゆきみんに囲まれて頭をなでられている。


「もう! 日向ちゃん困ってるから! あ、団吉さん、私ついに天野くんとデートしてきました!」

「あ、そうなんだね、よかった、アイドルだからデートできないんじゃないかと心配してたよ」

「はい、大丈夫でした! ここにいるみんなやマネージャーに聞いたら、まりりんとバレないことを条件にOKが出たので!」

「ふふふ、まりりんがデートっていうから、てっきり団吉くんとなのかと思っていたら、天野くんという子だったなんてね、さすがまりりん、モテるねぇ」

「そ、そ、そんなことないよ!」


 ゆかりんが笑顔で言うと、東城さんがちょっと慌てた。


「でも、本当によかったのかな……私だけ特別みたいな」

「大丈夫だよー、年頃の女の子に恋愛するなっていうのも酷だよねぇー、私たちがいいって言ったんだから、まりりんは楽しめばいいんだよー」


 しおみんがそう言うと、東城さんは嬉しそうな顔をした。


「東城さん、天野くんとデート楽しめた?」

「はい! とっても楽しかったです! でも天野くん、団吉さんを超える男になりたいって言ってました。どういうことだろう?」

「ああ、恥ずかしいけど、僕に憧れがあるのかな……そういえば僕にもそんなこと言ってたよ」

「ふふふ、天野くんは団吉くんを恋のライバルだと思っていたところもあるんじゃないかな、まりりんは団吉くん大好きだもんねぇ」

「え!? あ、まぁ、そうだけど……」


 ゆかりんに言われて、東城さんは少し顔を赤くした。


「ふふふ、団吉くんはまりりんと学校も一緒なんだよね、これからもまりりんをよろしくね」

「あ、はい、こちらこそ……」

「団吉く~ん、やっぱり日向ちゃん私にもらえな~い?」

「あ、ずるい、私がもらうー」

「ふええ!? あ、あわわわ……」


 しおみんとあきりんとゆきみんが日向に抱きついたり頭をなでたりしている。なるほど、妹を狙うのは高梨さんだけではなかったか。日向も慌てていたが、大好きなメロディスターズを前にして頬が緩みっぱなしだ。


「もう! 団吉さん、日向ちゃん、ごめんなさい」

「あ、いや、大丈夫だよ、その、ちょっと現実なのかなって思うくらいで……」


 それからしばらくみんなで談笑した。なぜか日向が気に入られていたけど、メロディスターズのみなさんはとてもいい人たちだった。アイドルだけど気取っていなくて、ステージでは輝いているけど、みなさんオフの日は普通の女の子なのだな。

 そして、東城さんもメンバーに愛されているのだなと思った。東城さんと天野くんが、これからも楽しくデートできるといいな。

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