第47話「観覧車」

 色々乗っているとお昼をだいぶ過ぎていたので、僕たちは遊園地の中にあるレストランで昼食をいただくことにした。


「いやー、面白れぇな! こんなに盛り上がるとは思わなかったぜ」

「そだねー、それにしても日車くんは大丈夫? 色々ビビってたみたいだけど」

「う、うん、なんとか元通りになってきたよ。おかしいなぁ、昔は普通に乗れてたはずなんだけどなぁ」

「まぁ、久しぶりっていうのが影響してるのかもしれねぇな、無理することはないさ」

「でもお兄ちゃん、楽しまないともったいないよー、せっかく来たんだからさ」

「そ、そうだな、なるべく乗るようにしようかな」

「お兄様、後でバイキングに乗りませんか? 楽しそうです」

「バイキングって何だっけ? あ、あのでかい船が前後に揺れるやつか、まぁあれならなんとか……」


 昼食を食べ終わって、僕たちはバイキングに向かう。思っていたより船が大きく、スピードが出ているみたいだが……?


「こ、これか……」

「団吉、大丈夫、私がついてるから」

「う、うん、まぁ乗ってみるよ」


 一列がちょうど六人乗りだったので、僕たちは並んで座る。隣には絵菜と日向が座ってくれた。スタッフさんの合図の後、ゆっくりと動き出す。


「け、けっこう高いんだな……」

「そうだね、でもフリーフォールよりも低いじゃん? 大丈夫だよー」

「そ、そうだな、前後に揺れるだけだしな……あ、あああああ!!」


 その前後に揺れるのが恐怖だった。特に前に突っ込む時。胸がきゅっとなってこのまま地面に叩きつけられるのではないかという感覚になる。よく理科で振り子の実験があるが、そんなものはどうでもよかった。やっぱりこのまま空飛べそうだ。


「はぁ、はぁ……ま、まぁこんなもんかな……あはは」

「だ、団吉、弱い敵みたいなセリフになってる……」


 その後、空中ブランコ、ミニコースター、ゴーカートなどに乗る。ま、まぁ、他のものに比べるとわりとおとなしめで、僕でもじっくりと楽しむことができた。

 みんなで歩いて移動していたその時、絵菜が「ひっ!」という声を出して僕の左腕にしがみついて来た。絵菜の視線の先にあったのは――


「あ、お化け屋敷か、なんかやっぱり本格的で怖そうだな、さすがにあれは入れないね」

「……ははーん、そういえば絵菜はお化けが怖かったんだよねー、そんな絵菜の後ろにボーっと立つ長い黒髪の女性が……」


 高梨さんがそう言うと、絵菜が顔を真っ赤にしてグーで殴ろうとしている。高梨さんは「あはは、ごめん冗談だよー」と絵菜を止めている。


「え、絵菜、落ち着いて……お化け屋敷は行かないから、大丈夫だよ」

「う、うん、ごめん、別ので……」

「じゃあさ、最後にアレ乗らねぇか? みんな一緒はさすがに無理だけど、二人ずつくらいでいけるだろ」


 火野が指差した先にあったのは、観覧車だった。なるほど、高いところから景色を楽しむのもありかもしれない。


「ああ、そうだね、じゃあ日向一緒に乗るか?」

「ふっふっふー、私は真菜ちゃんと一緒に乗るから、お兄ちゃんは絵菜さんと一緒に乗って!」

「そうだね、日向ちゃんと一緒に高いところからの景色楽しもうかな!」


 日向と真菜ちゃんが「ねー」と言って顔を合わせている。


「そ、そっか、じゃあ絵菜と一緒に乗ろうかな……絵菜、行こうか」

「う、うん」


 火野と高梨さんが、「お先に行くぜー」と言って先に乗り込んだ。僕は日向と真菜ちゃんを先に行かせて、その後に絵菜と一緒に乗り込んだ。ゆっくりと観覧車が回っていく。高いところは少しドキドキするけど、スピードが出てるわけでもないので大丈夫だ。


「だ、団吉、隣に座ってもいいか……?」


 絵菜が恥ずかしそうにぼそっと言った。


「あ、うん、いいよ」


 僕がそう言うと、絵菜がゆっくりと僕の横に座って、左手を握ってきた。


「ごめんね、僕がヘタレだからジェットコースターも一度しか乗れなかったし……絵菜は楽しめた?」

「うん、大丈夫、こうして団吉と一緒にいれるのが嬉しいから。でも団吉と遊園地デートはさすがにできそうにないな……」

「あ、い、いや、絵菜が行きたいって思うならいつでも行くよ?」

「ううん、大丈夫、遊園地じゃなくても私は嬉しいし、一緒に色々なところに行きたいな」


 絵菜が僕の左肩に頭を乗せてきた。


「あ、そしたらさ、今度ちょっと遠出して、都会の方に行ってみない? なかなか行くことないし、真菜ちゃんの誕生日プレゼントも一緒に見に行けたらいいなと思ってるんだけど、どうかな?」

「あ、うん、行きたい。私もあまり都会の方行くことないから、楽しみ」

「うんうん、真菜ちゃんの誕生日プレゼントに何かいいものがあるといいけど……え?」


 景色を見ながら話していたその時、僕の頬に何か柔らかいものが当たった。絵菜が頬にキスをしてきたと気づくのに数秒かかった。


「え、絵菜……!?」

「ふふっ、ごめん、横顔がカッコよかったから、つい」

「あ、そ、そっか、なんだか恥ずかしいな……」


 顔が一気に熱くなっていった。た、たぶん真っ赤になっているんだろうな……。

 二人で景色を眺めていると、観覧車が一周して戻ってきた。ずっと手をつないでいたが降りる時も絵菜が離してくれなかったので、そのまま手をつないで一緒に降りる。先に戻っていたみんなに見つかって、「あはは、お前らほんとに仲が良いなぁ」と火野に言われた。ちょっとだけ恥ずかしかったけど、絵菜が嬉しそうだし、まぁいいか。


「いやー、面白かったな! また機会があればみんなで来たいくらいだぜ」

「ほんとだねー、楽しかったー! いっぱい遊んだよー」

「うん、火野、ありがとうな、楽しかったよ」

「火野、誘ってくれてありがと、楽しかった」

「火野さん、ありがとうございました! お兄ちゃんが絶叫系苦手というのが意外だったけど、楽しかったです!」

「火野さん、ありがとうございました、私も楽しかったです!」

「あはは、いえいえ、みんなが楽しんでくれたなら俺も嬉しいよ、またみんなで遊ぼうな!」


 火野が恥ずかしそうに顔をかきながら言った。

 帰りの電車の中で、疲れたのか絵菜と日向と真菜ちゃんが眠ってしまった。高梨さんが「ふふふ、寝顔も可愛い……食べたい……」とつぶやいていた。

 自分としては絶叫系の乗り物が苦手だったというのが意外だったけど、みんなで来れてよかったな。

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