第45話「杉崎の想い」

 木下とデートをする日がやって来た。

 あたしはドキドキしながら駅前へ向かった。十一時に待ち合わせにしているが、十五分も早く着いてしまった。それだけ楽しみだったのかもしれない。

 昨日まで何着て行こうか迷っていたが、姐さんが落ち着いた服装がいいんじゃないかと言っていたので、新しく用意した。ブラウンのロゴ入りTシャツに、黒と白のチェックプリーツスカート、足元はベージュのサンダルで決めてみた。いつものギャルの格好とはかなり違うので、自分でも少し恥ずかしかった。

 日陰のベンチに腰掛けて、木下とどんなこと話そうかなと考えていたその時だった。


「あ、あれ、杉崎さん……?」


 声をかけられたので見上げると、木下がそこにい――


「……あ、き、木下!? あれ!? め、メガネは……?」

「あ、ああ、今日はコンタクトにしてみたんだ。す、杉崎さんがメガネない方がいいって言ってたから……」

「あ、そ、そっかー……」


 そう、木下はメガネをかけていなかった。た、たしかに外した方が可愛い顔が見えていいって言ったけど……。


(や、ヤバい、き、木下がめっちゃ可愛い……ていうか、か、カッコいい……だ、ダメだ、直視できない……)


 顔が熱くなってきて、木下の顔を見れないでいると、


「す、杉崎さん、い、いつもと雰囲気違うね……その、あの、可愛い、よ」


 と、恥ずかしそうに木下が言うので、あたしの顔はさらに熱くなった。


「そ、そうかな、さ、サンキュー……ちょっと恥ずかしいんだけどな。き、木下も、いつもと雰囲気違うな……か、カッコいいよ」

「そ、そっか、ありがとう……。それじゃあ行こうか……って、ど、どこ行くんだっけ?」

「あ、ショッピングモールに行って、買い物に付き合ってくれないか? あと昼ご飯食べた後にでも、カラオケ行こーよ」

「う、うん、分かった、じゃあ行こうか」


 駅の中へと一緒に歩いていたら、「あ、そうだ」と木下が言って突然立ち止まった。どうしたんだろうと思ったら、


「よ、よかったら、手、つながない……?」


 と言って、左手をそっと差し出してきた。え、え!? て、手つなぐの!?


「あ、ああ……」


 そっと木下の左手を握る。木下の大きな手から温もりが伝わってくる。あたしは顔が熱くなりすぎて沸騰しそうだった。


(や、ヤバい、顔が真っ赤になってるんだろうな……な、なんか木下積極的だな……あ、あたしとしては嬉しいけど……)


 チラッと木下の顔を見ると、横顔もカッコよくてあたしはドキドキしてしまった。


(ううー、木下いつも以上にカッコいい……あたしドキドキしすぎてどうにかなってしまいそう……)


 それからショッピングモールに移動して、一緒に服や靴をあれこれと見て回った。木下にとっては面白くないかなとちょっと心配になったが、木下は笑顔で一緒に服とか見てくれて、「どっちが似合うと思う?」と聞いたら、「うーん、こ、こっちかな……でも、どっちも似合うと思う」と、恥ずかしそうにしながらも答えてくれた。

 お昼を過ぎたので、一緒にハンバーガーを食べる。目の前にカッコいい木下がいて、あたしはドキドキしすぎてハンバーガーの味が分からなくなっていた。


「そ、それにしても、どうして僕なんかと一緒に遊びに行きたかったの?」

「え? あ、その……き、木下と一緒にいると楽しいしさ、一緒に遊びに行ったらもっと楽しいんじゃないかなーって」

「そ、そっか、僕、趣味がオタクっぽいから、お、女の子には笑われてばかりで、こ、こうして女の子と遊びに行くなんて考えられなくて……」

「そ、そんな、オタクとか関係ないじゃん! あたし人の趣味笑うような奴嫌いだし、き、木下は日車に負けないくらい優しいし、メガネとったら可愛いし、いや、とらなくても可愛いし、それに――」


 そこまで話して、あたしはハッとした。あ、危ない、勢いで「好きだ」って言うところだった。でもそっか、木下は女の子に笑われてきたのか。だからちょっと女の子と話すのが苦手なのかもしれない。人の趣味を笑うような奴なんて最低だ。


「――あ、そ、その、木下めっちゃいい人だよ。でも、木下もあたしなんかと一緒でよかったのか……?」

「う、うん、ぼ、僕女の子と話すの苦手なんだけど、す、杉崎さんとならこうして自然に話せてるから、嬉しくて……杉崎さんと一緒なら楽しいだろうなって思って」


 その言葉を聞いて、胸がきゅっとなった。そっか、あたしとだったら自然に話せるのか。それって、あたしが特別みたいでなんだか嬉しいな……。


「そ、そっか、サンキュー……あ、あたしも木下と話すの、楽しいよー……」

「あ、ありがとう……あ、か、カラオケに行く前に、本屋に寄ってもいいかな? こ、ここ大きな本屋があるから」

「ああ、いいよー、あ、そしたらさ、あたしでも読めそうな本、教えてくんないかな?」

「あ、うん、いいよ、何がいいかな……ラブコメなら読みやすいかな……」

「あははっ、あたしバカだからさー、本とか全然読んだことないから、分かりやすいやつで頼むよーなんちって」

「う、うん、大丈夫、任せておいて。じゃあ本屋に行こうか」


 そっか、本に関しては自信があるんだな、『任せておいて』と言った木下がめっちゃカッコよかった。

 二人で本屋まで歩こうとすると、また木下が「て、手つなぐ?」と言ってそっと左手を出してきたので、あたしはまたそっと手を握った。うう、木下、これ反則だよ……めっちゃドキドキする。心臓の音が木下に聞こえるんじゃないかと思った。

 それから本屋で木下がおすすめする本を色々と教えてもらった。本のことを語る時の木下はとても輝いていた。あたしは木下おすすめの本を一冊買って、その後カラオケ屋に移動した。でもヤバい、カラオケだと二人の空間になって、あたしはドキドキがおさまらなかった。

 四人くらい座れる部屋だったけど、あたしは木下の隣にそっと座って歌っていた。木下は最初ビックリしていたけど、ここでも手をつないでくれたりしてめっちゃ優しかった。


(うう、嬉しいよ~……日車~、姐さん~、あたし嬉しすぎて空飛んじゃいそうだよ……)


 軽くトリップしそうになるあたしだった。危ない危ない。でも、このまま時が止まればいいのにな……と、密かに思っていた。

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