第44話「隣は」

 生徒会のみんなでカラオケに行く日がやって来た。

 一時に駅前に集合ということになっているので、僕は間に合うように駅前へ向かった。着くとすでに九十九さん、大島さん、天野くんがいた。


「みんな集まったわね、それじゃあ行きましょうか」

「そうですね、でもなんか休みの日にこうやって集まるのって、不思議な感じしますね」

「たしかに、みんな私服だからかな、なんか新鮮だよ」


 九十九さんも大島さんも私服で可愛らしいし、天野くんもキリっとしていてカッコよかった。ぼ、僕は大丈夫かな……もう少しオシャレな服装がよかっただろうか。

 みんなで駅前のカラオケ屋に行き、受付を済ませる。ドリンクバーで好きな飲み物を選ぼうとしていると、九十九さんが不思議そうな顔をしていた。


「……あれ? 日車くん、何してるの?」

「あ、これはドリンクバーって言って、自分で好きな飲み物を入れるんだよ。おかわりも自由だよ。九十九さんもそこにコップあるからぜひやってみて」

「う、うん……あ、氷もあるんだね。わぁ! ボタン押したらジュースが出てきた! すごい!」


 ドリンクバーに興奮気味の九十九さんだった。

 僕たちは六人くらいが座れそうな部屋に入った。広すぎず狭すぎず、ちょうどいいだろう。L字になっているソファーに、僕と九十九さん、大島さんと天野くんがそれぞれ座る。


「お、おかしいわね、やっぱり日車くんの隣に九十九さんがいる……どういうことかしら……」

「お、大島さん? あ、九十九さんここがカラオケの部屋だよ、どう?」

「す、すごい……なんかキラキラしてる、このタブレットみたいなものは何?」

「ああ、これはデンモクといって、これで曲入れたり食べ物の注文をするんだよ」

「えぇ!? す、すごい……どうやって曲が流れてるんだろうと思ってたけど、そっか、これで入れればいいのか……」


 カラオケが初めての九十九さんには、何もかもが新鮮に見えるようだった。


「今日はフリータイムにしたから、みんなで思いっきり歌っちゃいましょう! 僕からいきますね」


 天野くんがそう言って曲を入れて歌い出す。三年ほど前にデビューしたダンスユニットの曲だった。アップテンポでノリのいい曲なのでみんな笑顔になる。

 天野くんが歌い終わると、パチパチパチと誰よりも大きく拍手している九十九さんがいた。


「す、すごい! 本物の歌手みたい!」

「い、いやーあはは、さすがに本物には負けますけどね、でも褒められると嬉しいな……」

「九十九さんが楽しんでくれてよかったわ、次私が歌うわね」


 大島さんが入れたのは、もう十年以上活躍している坂道系アイドルグループの曲だった。この曲も元気が出る曲で、そんな明るい曲を元気な声で歌う、いつもと違う大島さんに少しドキッとした。

 大島さんが歌い終わると、また九十九さんがパチパチパチと大きく拍手した。


「す、すごい! 今の曲知ってる! わぁーみんなすごいなぁ」

「次、九十九さん歌ってみる?」

「あ、う、うん、緊張するな……あれ? これどうやって使えばいいんだろう?」

「ああ、ここを選んで、好きなアーティストの名前を入力するか、好きな曲の名前を入力すると、出てくるよ」

「あ、なるほど……」


 九十九さんにデンモクの使い方を説明していると、自然と距離が近くなって僕はドキドキしてしまった。九十九さんからふわっといいにおいがする……はい神様、僕は変態確定です。


「よ、よし、入れた……と思う、頑張るぞー」


 九十九さんがぐっと拳を握った。九十九さんが入れたのは、JEWELSの曲だった。JEWELSとは、オーディション番組を勝ち上がったメンバー八人で構成された今人気のアイドルグループだ。

 九十九さんの歌声は、優しくてなんだか温かさがあり、聴き入ってしまう不思議な魅力があった。歌い終わると恥ずかしそうな顔をして、


「ど、どうだったかな……?」


 と、僕の手をきゅっと握って感想を聞いてきた。


「え!? あ、うん、落ち着いていて優しい歌声で、とてもよかったよ……あはは」

「つ、九十九さん!? やっぱり日車くんの隣は危険ね、私が反対側に……!」


 そう言って大島さんは僕の右側にやって来た。あれ? 僕の左側に九十九さん、右側に大島さんがいる。な、なんで美人二人に挟まれているんだろう?


「え、あ、な、なぜ僕は挟まれているんだろう……あはは」

「日車先輩さすがです! モテモテですねー、これは沢井先輩に報告しないといけないですね」

「え!? あ、天野くん、頼むからそれだけはご勘弁を……ボコボコにされそう……!」

「あはは、冗談ですよ、でもこの日車先輩を超える男になるなんて、かなり難しいのでは……ブツブツ」

「ねぇ、次日車くんよね、何歌うの?」


 大島さんが僕にくっついてきてデンモクを覗き込む、久しぶりに大島さんが近づいて来たなと思ったが、ち、近すぎてドキドキしてしまった。絵菜に見られたら大変なことになりそうだった。


「そ、そうだなぁ、これにしようかな」


 僕はあるロックバンドのデビュー曲を入れて、歌い出す。これもアップテンポなのでみんながノリやすいと思う。

 歌い終わると、また九十九さんがパチパチパチと大きく拍手した。


「す、すごい! カッコいい……!」

「あ、ありがとう、なんとか外さずに歌えたよ」

「あ、ねえねえ、何か食べ物を注文しないかしら? こっちのデンモクでできるわよね」

「そうですね、じゃあここは九十九先輩に決めてもらいませんか?」

「え、あ、私か、そうだなぁ……あ、ピザってあるのね、食べたいかも。あ、ポテトもいいなぁ」

「あはは、うん、九十九さんの好きなもの注文するといいよ」


 それから料理を食べながらみんなで談笑した後、ストレスを発散させるかのようにみんなで歌いまくった。フリータイムということもあって、けっこう長い時間いたような気がする。

 みんなたくさん笑顔になっていた。九十九さんも最初は緊張していたが、JEWELSの曲を中心に歌って、たくさん笑っていた。みんなの笑顔を見ていると、来てよかったなと思った。

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