第43話「二人で」
夏休みに入り数日、僕はバイトに精を出していた。
もちろん山のように出た学校の課題もサボることなく進めているが、僕としてはバイトも頑張りたいと思っている。店長は「いやー日車くんが毎日入ってくれて嬉しいよー、でも無理しないでね、あっはっは」と言っていた。たしかに、無理をしすぎてまた体調を崩してしまったら大変だ。
今日もバイトが終わって帰ってから夕飯を食べて、よし課題を進めようと机に向かったその時、スマホが鳴った。画面を見ると木下くんからの着信のようだ。
あれ? RINEじゃなくて電話? と思ったが、とりあえず出る。
「もしもし」
「も、もしもし、ご、ごめん日車くん急に電話して、忙しい?」
「ううん、大丈夫だよ、今から課題やろうかなって思ってたとこ。何かあった?」
「そ、そ、それが……」
木下くんが「その、あの……」とちょっと言いづらそうにしていたので、待つことにした。
「す、杉崎さんに、こ、今度一緒に遊びに行かないかって誘われて、ぼ、僕思わず『うん』って答えたけど、れ、冷静になって考えたらそれって、で、でででデートなんじゃないかって……」
な、なるほど、ついに杉崎さんが木下くんを誘ったのか。
「そ、そうなんだね、たしかに二人だったらデートになるかもしれないね」
「そ、そうだよね、で、でも、僕女の子とでででデートなんてしたことないから、どうしたらいいのか分からなくて、ひ、日車くんなら何か分かるんじゃないかって思って……」
「そっか、もしかしてなんだけど、木下くんが前言ってた気になってる人って、杉崎さんのこと?」
「う、うん……そ、その通り……」
ちょっと恥ずかしいのか、木下くんの声が小さくなった。
「そっか、じゃあせっかくだし遊びに行くのもいいんじゃないかな、杉崎さんも喜ぶと思うよ」
「う、うん、で、でもどんな格好をしていけばいいのかも分からないし……」
「そうだなぁ、僕も絵菜と初めてデートした時は、事前に妹に服を見てもらったんだけど、キャラクターものはやめた方がいいって言われたよ」
「な、なるほど……」
「あとは、暑いし清潔感のある爽やかな服装がいいんじゃないかな、僕はTシャツの上に一枚半袖のシャツを着てたよ。あ、できればリュックじゃなくてポーチとか斜めかけの鞄とかの方がいいかも」
「あ、なるほど、か、鞄あったかな……探してみる」
「うんうん、どこに行くか決まってるの?」
「あ、す、杉崎さんが『行くところはあたしに任せとけー』って言ってたかな」
「そっか、じゃあ杉崎さんにお任せしていいんじゃないかな。あと、木下くんは女の子と話すのが少し苦手そうだったけど、大丈夫?」
「う、うん、杉崎さんとはだんだん普通に話せるようになってきたかも……な、なんでか分からないけど」
「そっか、大丈夫そうだね、急に手をつないだりしちゃうかもしれないね。あ、木下くんからつないでみるのもありかも」
「えぇ!? そ、それは無理かも……い、いや、僕も男だからしっかりしなくちゃいけないね」
その時、僕のスマホからRINEが届いた音が聞こえた。
「あ、ごめん、誰かからRINEが来たみたい」
「あ、う、うん、ごめんね急に電話して」
「ううん、大丈夫、また分からないことあったら連絡して。お役に立てるか分からないけど」
「う、うん、ありがとう、それじゃあまた」
木下くんとの通話を終了して、RINEを見る。送り主は杉崎さんだった。
『日車お疲れー! なーなー、聞いてほしいことあるんだけど、通話してもいいかー?』
『お疲れさま、うん、大丈夫だよ』
『サンキュー、あ、姐さんも入れてグループ通話するかー』
杉崎さんからのRINEの後、しばらくしてかかってきた。杉崎さんが僕と絵菜にまとめてかけているみたいだ。
「も、もしもし」
「もしもしー、あ、姐さん急にすみません、日車、お疲れー!」
「もしもし、お疲れさま、杉崎さん何かあった?」
「そーそー、聞いてくれよー、あたしついに木下とデートできそうなんだー! 誘ったら『うん』って言ってくれたー! マジ嬉しいんだけど!」
なんとなく木下くんのことじゃないかと思っていたが、一応聞いてみた。さっきまで木下くんと話していたことは言わない方がいいなと思った。
「そ、そっか、よかったよかった、木下くんと話せてる?」
「ああ、あの時はマジでドキドキして話せなかったけど、最近は前みたいに話せるようになったよー、まぁ、ドキドキすんのは変わらないんだけどなー」
「うん、杉崎も木下も、クラスで話してるの見るから、ホッとしてた」
「姐さ~ん、そうなんですよー、やっとあたしらしくなったかなーなんちって。あー何着て行こうかなー、姐さんはどんな服装がいいと思いますか?」
「え、あ、木下は派手で目立つの苦手そうだから、落ち着いた感じがいいんじゃないかな……」
「ふむふむ、たしかにそうですねー、あ、姐さんと日車の初デートの時、姐さんはどんな服装だったんですかー?」
「あ、わ、私は、黒いブラウスとピンクのフレアスカートで、黒のサンダル履いて……って、言うの恥ずかしいな……」
「なるほどー、なんとなく大人な感じですねー、ヤバい、想像したら可愛すぎて空飛んじゃいそうーなんちって」
「う、うん、絵菜がいつもとまた違って、すごく可愛かった……」
「あははっ、なんだよ日車ノロケかー? でもそうだよなー普段と違う格好ってドキドキするよなー、あたしもちょっと大人な格好してみようかなー」
「うん、杉崎さん可愛いから、似合うんじゃないかな」
「あははっ、サンキュー、これで木下があたしに振り向いてくれるといいけどなー」
そういえば木下くんも杉崎さんのことが気になっていると言っていたが、危ない、これは僕が話していけないことだ。
「う、うん、木下くんも杉崎さんとは話しやすいみたいだし、きっと大丈夫だよ」
「そうだといいけどなー、あ、あたしの話ばかりしてごめーん、二人は夏休みどこか出かけるのかー?」
「あ、そういえばみんなで遊びに行く約束はしてたけど、二人では全然だった……」
「そっかー、それは姐さんも寂しいと思うぞー、どこか連れてってやれよー」
た、たしかに、二人の時間も大事にしたいと思ったのに、二人の時間が全然なかった。これではいけない。
「そ、そうだね、絵菜、どこか遊びに行こう、考えておくよ」
「う、うん、分かった、私はどこでも嬉しい……」
「あははっ、いいないいなー、二人を追跡するのも面白そうだなーなんちって」
それからしばらく三人で話していた。あ、そういえば夏休みの課題やろうとしていたのだった。まぁいいか……。
木下くんと杉崎さんが楽しくデートできるといいなと思った。そして僕たちはどこへ行こうかと、話しながらぼんやりと考えていた。
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