第42話「一学期終了」

「んんー、終わったなぁ……」


 一学期の終業式の日、終礼後に思わず声が出てしまった。今日はいつも通り学校は午前中で終わる。クラスでは通知表をもらって一喜一憂するクラスメイトの姿があった。僕は一学期もちゃんと勉強してきたので、通知表に並んだ評価も立派なものだった。このまま二学期も好成績を収めたいものだ。


「日車さん、お疲れさまです……! なんだか嬉しそうですね」


 隣の席の富岡さんがニコニコしながら話しかけてきた。


「あ、お疲れさま、なんか一学期も色々あったけど、やっと終わったなーと思ってね」

「そうですね、私も通知表の評価がまあまあだったので、嬉しいです……! これも日車さんや大島さんに勉強を教えてもらったおかげだと思います……本当にありがとうございます……!」

「そっかそっか、ううん、富岡さんが頑張った結果が出てるんだよ。でもお役に立てたなら僕も嬉しいよ」

「……日車くん、富岡さん、お疲れ」


 ふと声をかけられたので見ると、相原くんがいた。


「あ、相原さん、お疲れさまです……!」

「あ、相原くんもお疲れさま、やっと一学期が終わったね」

「……うん、俺もだんだんと学校が楽しくなってきたよ。日車くんが言ってたこと今なら分かる気がする。日車くんや大島さんや富岡さんがいるからかな、ありがと」

「いえいえ、相原くんもほんと学校休まなくなったよね、僕も話せる人が増えて嬉しいよ」

「あら? みんな集まってるのね、お疲れさま」


 また声をかけられたので見ると、大島さんが笑顔でこちらを見ていた。


「……お疲れ」

「あ、大島さん、お疲れさまです……!」

「あ、大島さんもお疲れさま、色々あったけど大島さんのおかげでなんとかやって来れたよ、ありがとう」

「え、そ、そんな急に褒めても何も出ないわよ、ま、まぁ私も日車くんには感謝しているというか、あ、ありがとう」


 なぜか恥ずかしそうに顔を赤くする大島さんだった。


「……二人は生徒会に入ったから、これからも大変そうだね」

「うーん、そうかもしれないね、まぁメンバーもいい人が集まっているし、なんとかやれそうな気がするよ」

「さすが日車さんと大島さん、ライバルは強いですね……! あ、そういえば私も図書委員長になったんだった……」

「ああ、そうだったね、本が好きな富岡さんにぴったりなんじゃないかな」

「そうね、富岡さんなら図書委員長もちゃんとやってくれそうね。会議にも出てもらうことがあると思うから、よろしくね」

「は、はい……! 頑張ります……!」


 富岡さんがぐっと拳を握った。あまり見ない仕草だったので可愛いなと思った。


「……あ、よかったら、みんなRINE教えてくれないかな? たまには話したいなと思って」

「あ、うん、いいよ、じゃあこの四人でグループ作らない?」

「あ、はい、ぜひ……!」

「それもいいわね、せっかくだし作りましょ」


 みんなでスマホを取り出して、RINEグループを作った。昨日からRINEの友達が一気に増えて、何だか嬉しくなった。前は日向と母さんと火野くらいしかRINEする人いなかったもんな……うう、思い出して悲しくなった。


「……日車くん、彼女が待ってるみたいだけど、行かなくていいの?」


 相原くんの言葉に、え? と思って廊下を見ると、こちらをじーっと見つめる絵菜の姿があった。


「あ、ご、ごめん、じゃあそろそろ帰るね、お疲れさま」

「お疲れさま、あ、日車くん、昨日の生徒会での話、またRINEするわ」

「あ、うん、分かった、それじゃあまた」


 僕は慌てて廊下で待ってくれていた絵菜の元へと向かう。


「ご、ごめん、待たせてしまって」

「ううん、なんか楽しそうだったな……いいな、団吉と一緒のクラス……大島に代わってもらいたい……ブツブツ」

「え!? あ、まぁ、たしかに絵菜と一緒じゃないというのも不安になる気持ちが分かるというか……」


 そう、この前の慶太先輩の接近から、絵菜がクラスでどんな感じなのだろうかと気になって仕方がなかった。だ、男子が寄って来てないかとか……うう、別のクラスってこんなに不安になるものだったのか。


「ふふっ、お互い不安なんだな。でも大丈夫、私は団吉しか見えないから」

「うん、ありがとう、僕も不安だけど絵菜のこといつも大事に思ってるよ」

「ありがと。でもあの生徒会長、美人だよな……しかもなんか団吉に近づいているような気がする」


 絵菜の言葉を聞いて、僕はドキッとした。ま、まさか見られてる? それはないよな……これも絵菜の秘めた力なのだろうか。


「え、な、何もないよ、うん、何もない……」

「……何か隠してるって顔してる。怒らないから言ってみて?」


 絵菜が左腕にくっついてきて、僕の顔を覗き込む。うう、隠し事が苦手な性格がここでも出てしまうのか……。


「な、なんか九十九さん、家がお金持ちらしくて、色々なことが初体験で、その度になぜか頼りにされてるというか……で、でも、ほんとに何もないからね?」

「そっか、団吉は優しいからな……頼りたくなるのも分かるかも。でもそうか、大島だけでなく九十九も要注意だな……」

「い、いや、ほんとに何もないんだ、あ、でも夏休みに生徒会の四人で遊びに行くのが決まってた……」

「そ、そっか、まぁ、私は何も言えないけど……」


 絵菜がさらに左腕にくっついてきて、ぼそっと小さな声で、


「私が一番、団吉のことが好きなんだから……」


 と、言った。その一言を聞いて、僕はドキドキしてしまった。絵菜も誰にも負けたくないという気持ちがあるようだ。僕もそうだ。慶太先輩の件があってから、強く思うようになった。どんな男よりも絵菜のことが大好きだし、絶対に負けたくない。


「うん、僕も絵菜を好きって気持ちは誰にも負けないよ」

「うん、ありがと。優しい団吉のこと大好きになってよかった。あ、駅前の本屋に寄っていかないか? またおすすめの本教えてほしい」

「あ、うん、いいよ、僕も読んでる小説の新刊が出たはずだから、見に行きたいな」


 さ、さすがに九十九さんに手を握られることは言えなかったけど、うん、絵菜に寂しい思いはさせたくない。絵菜の手をぎゅっと握って、二人で駅前の本屋まで歩いて行った。

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