第41話「夏休みの計画」

「それにしても、立会演説会での団吉の演説はよかったなぁ、聞き入っちゃったぜ」


 一学期の終業式が明日となったこの日、僕たち四人はいつものように一緒に昼ご飯を食べていた。


「ほんとだねー、日車くんの熱意みたいなのが伝わってきたよー。ちょっと感動しちゃった」

「あはは、ありがとう、めっちゃ緊張したけどあまり噛まずによく話せた方かな」

「ああ、バッチリだったぜ。そういえば俺は体育委員長になってしまったよ。お願いされて断れなかったな」

「あ、そうなのか、そしたら生徒会とやり取りも増えるかもしれないな」

「ああ、そうだな、あと中川は風紀委員長になってたぜ。さらに中川はサッカー部の次期部長になりそうなんだ。団吉、よろしくな!」

「おっ、中川くん部長になりそうなんだねー。実は私も三年生が引退したら部長になってくれないかって言われてるんだー。もしかしたら日車くんと接する機会もある?」

「あ、そうなんだね、うん、僕は副会長だから一応生徒会と部活動の連絡を任されているよ。部長会議とかで会うことも多くなるかもね」

「そかそかー、日車くんよろしくねぇー。なんかみんな色々と任されるもんだねぇ」


 そこまで話して、絵菜が何も話していないことに気がついた。


「絵菜? どうかした?」

「あ、いや、みんなすごいなと思って……私何もやってないから」

「そんなことないよー、絵菜は日車くんを支えるっていう大事な仕事があるじゃないのー、『団吉、私の胸に飛び込んできて……』ってさー」

「なっ!? あ、ああ、団吉を支えてあげたい……」


 絵菜がそう言うと、僕の左手をきゅっと握ってきた。


「うん、絵菜にはいつも支えてもらってるよ。本当にありがとう」

「よっしゃ、そんな頑張ってるみんなに朗報があるぜ!」


 急に火野がそんなことを言い出す。朗報? 何のことだろうか。


「朗報? なんだ?」

「ふっふっふ、実はうちの親父が遊園地のチケットをもらったらしいんだ。けっこう枚数あるみたいだから、みんなで夏休みに行かねぇか? まぁ、部活の試合があるからそれが終わってからにはなるんだが」

「お、おお、そうなのか、ていうか僕たちが行っていいものなのか……?」

「ああ、兄貴は俺に『楽しんで来い』って譲ってくれたから、みんなで行こうぜ。日向ちゃんや真菜ちゃんの分もあるぜ」

「遊園地かぁー、そういえば最近行ってないなぁ。あーなんか楽しみになってきたよー! でもその前に部活の試合があるー」

「おう、そうだな、俺も優子も試合があるから、そうだな……すまねぇが七月三十一日の日曜日とかどうだ?」

「うん、大丈夫、その日は空けておくよ。絵菜も真菜ちゃんも大丈夫かな?」

「うん、大丈夫。真菜も喜ぶと思う」

「よっしゃ、決まりだな、また夏休み楽しもうぜ!」

「おう、それはいいんだが、夏休み明けにテストがあるのも忘れずにな」

「うっ、日車くんそれは言わないで~、まずは楽しもうよー」


 高梨さんが「ぐああ……」と言いながら机に突っ伏したので、みんな笑った。うん、夏休みもみんなで楽しめるといいな。



 * * *



「……だいたいこんなもんかしらね、まぁ明日で一学期も終わりだし、夏休みは楽しみましょ」


 放課後、生徒会室に四人で集まって、これからの活動の確認をしていた。大島さんの言う通り、明日で一学期も終わるので、しばらくは何もないと思う。


「うん、二学期は夏休み明けのテストの後に部長会議があるんだね」

「そうね、その後二年生は修学旅行か、色々と忙しくなりそうね。あ、もしかしたら夏休みの最後の方に学校に集まった方がいいかもしれないわね」

「ご、ごめんなさい大島さん、生徒会長の私が色々と仕切らなければいけないのに……」


 九十九さんが申し訳なさそうな声を出した。クラスでもそうだったが、この場でも大島さんがテキパキと動いてくれる。ちなみにクラスの学級委員は生徒会役員との重複はきついだろうと大西先生が言ってくれて、他の人に代わってもらった。


「いいのよ九十九さん、慶太先輩も言っていたように、みんなで支え合ってやっていきましょ。九十九さんは各行事で挨拶とかやってもらわないといけないし」

「まあまあ、この四人でいる時くらい、仕切るのは誰でもいいじゃないですか。九十九先輩も頑張ってもらうところがいっぱいあるし、大変だと思いますよ」

「う、うん……そこは頑張る……」


 たしかに、九十九さんも真面目でしっかりしているのだが、こういう場をまとめるのは大島さんの方が上手そうだった。天野くんの言う通り、四人でいる時くらいは誰が仕切り役でもいいのではないかと思う。


「九十九さん、慶太先輩も言ってたけど、あまり一人で背負い込まないでね。みんなで一緒に頑張って行こう」

「う、うん、分かった……ありがとう」

「……よし、堅苦しい話はここまでにして、さっきも言ったけどせっかく明日で一学期も終わりだし、夏休みにこの四人で遊びに行かないかしら? 仲良くなっておくのは大事だしね」

「あ、いいですね! それならみんなでカラオケとかどうですか? 歌ってスッキリしませんか?」

「あ、うん、それもいいかもしれないね。九十九さんも大島さんも行ける?」

「うん、いいわね、たまにはストレス発散しましょ」


 大島さんは返事をしてくれたのだが、九十九さんの返事がない。あれ? と思って見てみると、また固まっているように見えた。


「つ、九十九さん? どうかした?」

「……え、あ、その、あの……ごめんなさい、私カラオケって行ったことがなくて、どういうものか分からなくて返事できなかった……」

「お、おお、九十九先輩、初めてのカラオケになるのか……!」

「ああ、そうなんだね、みんないるから大丈夫だよ、歌えばスッキリすると思うよ」

「そ、そっか、じゃあ、行ってみたい……」


 九十九さんはそう言って、隣にいた僕の手をきゅっと握ってきた。


「え!? あ、う、うん、みんなで行けば怖くないみたいな……あはは」

「つ、九十九さん!? どうしてかしら、気がついたら日車くんの隣に九十九さんがいる……私が入り込むべきかしら……ブツブツ」

「お、大島さん、なんで慌ててるの……?」


 なぜか慌てる大島さんと、またきょとんとした顔で見つめる九十九さん。そしてそれを見て笑う天野くん。なんだろう、これが一連の流れのようになってきたな。え、絵菜には見せられないけど……。

 と、とにかく、色々と夏休みの計画が決まってきた。今年も楽しくなりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る