第33話「負けない」
定期テストの日がやって来た。
僕はあれから三日間、徹底的に勉強を頑張った。今までよりも強い意志を持っていると自分でも思う。絵菜を取られたくない、そのためには誰にも負けたくない、そんな気持ちだった。
今日は英語、物理、古文、明日は数学、現代文、世界史、生物、明後日はその他副教科という日程でテストが行われる。
「じゃあ、テスト始まるから荷物を廊下に出してくれー」
いつもの大西先生の一言で、みんなが動き出す。うちの高校は、テスト中は教科書やノートなどを全て廊下へ出すことが決まりとなっている。さて僕はどこに置こうかな……と思って廊下に出てみると、荷物を置くところに迷っていた富岡さんと相原くんの姿があった。なんだか一年生の時の絵菜みたいだなと思った。
「あ、富岡さん、相原くん、こっち空いてるから置いておかない?」
僕は二人を呼んで、三人分のスペースをとった。
「あ、ありがとうございます……あと、色々教えてくださって、そちらも本当に感謝しています……!」
「……俺も教えてもらって感謝してる、ありがと」
「いえいえ、大したことはできてないけどね、みんなで頑張ろうね」
「……ふふふ、日車くん、ついに本番ね、負けないからね!」
いつの間にか大島さんも僕たちのそばに来ていた。
「うん、僕も負けないから。一年の時とは違うところを見せつけるよ」
「な、なんか日車くん、急にカッコよくなったわね……嫌いじゃないわ。よ、よし、みんなで頑張りましょ」
「うん、あ、みんな集まってるし、またこれやろうよ」
僕がそう言って右手を出すと、みんなも右手を出してグータッチをした。よし、みんないい成績が残せますように。
* * *
数日後、一年の時と同じようにテストの結果が全部出揃った。
僕は学年で三位だった。一年の最後のテストが五位だったので、一気に二つ上がった。ついにここまで入り込むことができたのかと嬉しくなった。やはり強い意志を持ってからさらに勉強を頑張ったのがよかったのかもしれない。
今回も数学はやや難しく、平均点もそんなに高くなかったが、僕はいつも通り百点をとることができた。大西先生に聞いたところ、百点を取ったのは僕一人だったらしいので嬉しくなった。大西先生が「お前はあっさり百点とっていくなぁ……」と言って、若干涙目だったのは気のせいだろうか。
休み時間に満足して結果を眺めていると、隣の席の富岡さんがニコニコしているのが見えた。何か嬉しいことでもあったのだろうか。
「富岡さん、ニコニコしているけど、どうかした?」
「あ、か、顔に出てましたかね、お恥ずかしいです……テストの結果が九十三位と今までで一番よかったです!」
あまり大きな声を出さない富岡さんだが、言葉の最後の方がやや大きな声になった。それだけ嬉しかったのだろう。
「そうなんだね、よかったよかった。あ、数学もよくできてるね、少し難しかったけど」
「はい、日車さんと大島さんに教えてもらったところが出てきたので、嬉しかったです!」
「うんうん、やっぱりみんなで復習したのがよかったよね。僕も教えることでいい復習になったしよかったよ」
「……日車くん、どうだった?」
富岡さんと話していると、相原くんから声をかけられた。
「あ、相原くん、僕は三位だったよ、今までで一番よかったよ」
「さ、三位……! 日車さん、すごいです……! わぁ、数学も百点……!」
「……さすが日車くんだね、すごいよ。俺は百八十一位だったけど、今までで一番よかった。いつももっと下の方だったんで」
「そっかそっか、相原くんは休みがかなり少なくなって、授業にもちゃんと出てるから、その結果が出たんじゃないかな」
「……それもあるけど、やっぱり日車くんと大島さんに教えてもらったのが大きかったと思う。ありがと」
「いえいえ、でもお役に立てたのなら僕も嬉しいよ」
「ふふふふふ、日車くん、全部出揃ったわね、さぁ勝負よ!」
急に大きな声が聞こえたと思ったら、大島さんがニヤニヤしながらこちらに来た。
「あ、勝負と言っても順位を言わなきゃ始まらないわね……私は七位だったわ。日車くんは?」
「……大島さん、また勝たせてもらった、三位だったよ」
「なっ!? さ、三位!? 私も今までで一番よかったのに、さらに上を行くなんて……! ま、負けたわ……」
大島さんが分かりやすいほどにガックリとうなだれている。うん、今回は大島さんに負けるわけにはいかなかったのだ。
「ど、どこで差がついたのかしら……数学は二点しか変わらないし……あ、英語かしら」
「そうだね、あと物理と世界史もそうかもしれないね」
「くっ、物理はとことん私の足を引っ張るのかしら……」
でも結果を見せてもらうと、教科によっては大島さんの方が上のものもあり、自分もまだまだ頑張らないといけないなと思った。
「か、完全に負けたわ……日車くん、望みを言いなさい……む、胸は杉崎さんみたいにはないから無理だけど、日車くんが望むなら……」
「え!? そ、そんな勝負だったっけ……って、それじゃ僕が胸が大好きな人みたいじゃないか! そ、そんなことないからね!」
「……日車くん、顔が赤くなってる」
「まぁ、日車さんも男の子ですからね……興味はありますよね……」
「ちょ、ちょっと待って! 何もないからね!」
僕が慌てていると、みんな笑った。うう、どうしてこうなるの……。
ちなみに後から聞いたら、絵菜は百十位、火野は百三十六位、高梨さんは百二十位だったらしい。みんな一年生の最後よりも下がっていて、「に、二年の洗礼を浴びてしまった……」と肩を落としていた。ま、まぁ、始まったばかりだし気にしなくていいと思う。
とりあえず、僕はいいスタートが切れた気がして、嬉しくなった。このまま頑張っていきたい。
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