第25話「淡い恋」
体育祭の次の日、学校は休みだったので、僕はバイトに精を出した。
土日は体育祭のことで精一杯だったのでバイトを入れることが出来ず、その分この日に頑張った。初めて閉店までいて、店長に「日車くん、学校で疲れてるだろうに頑張るね! あっはっは」と言われた。でもそんなに学校の疲れはなかった自分がいて、よく寝たおかげかなと思っている。
そしてさらに次の日、五時間目は生物だったので、少し早めに第一理科室に向かった。入ると絵菜と大島さんと杉崎さんと木下くんが座っていた。
「おっ、日車お疲れー、なぁなぁ、体育祭すごかったなー、やっぱり姐さんの大活躍よ!」
「お疲れさま、うん、絵菜めちゃくちゃカッコよかったよ。びっくりした」
「……もう、その話はやめにしないか、恥ずかしすぎる……」
「あははっ、でもあれからクラスでの姐さんの人気が上がったんですよ! やっと全人類が姐さんの魅力に気づいたか……遅いくらいだけど」
「た、たしかに沢井さん、クラスメイトによく話しかけられてたね」
「あれ? そうなんだね、絵菜もクラスに友達できそう?」
「う、うーん、どうだろ、たしかによく話しかけられるようになったけど……」
「いいじゃない、日車くんなんて私と相原くんと富岡さんくらいしか友達いないんだし。話せる人が増えるのはいいことよ」
「お、大島さん、かなりグサッときた……」
うう、でもたしかに相変わらず僕は友達が少ない気がする。話せる人がなかなか増えないというか。みんなどうやって友達になっているのだろうか。
「と、富岡ってのは、どんな子なんだ……?」
「え、あ、本が好きな可愛らしくておとなしい子だよ。あれ? 前にも話したような……」
「ふふふ、日車くんと富岡さん、仲良く本の話してるもんね、あの雰囲気はなかなか近づけないわ」
「……か、可愛らしいのか、くっ、別のクラスなのが悔しすぎる……」
「お、大島さん!? な、何もないからね!?」
慌ててフォローするが、大島さんがニヤリとしたのは気のせいだろうか。
……あれ? おとなしいといえば、さっきからおとなしい人がいることに気がついた。その人を見ると、ある人をちらちらと見ているような……気のせいかな。
* * *
その日の放課後、帰る準備をして廊下に出ると、絵菜と杉崎さんが何か話していた。
「お、ひ、日車お疲れー……」
杉崎さんが挨拶をしてくれる……のだが、いつもと様子が違うように見えた。何かあったのかな?
「お疲れさま、二人で何か話してたの?」
「あ、いや、その……ちょ、ちょっと相談というか、なんというか」
いつもの杉崎さんらしくない、ハッキリしない返事が来た。相談? 何か男の僕には話しづらいことなのだろうか。
「あ、そうなんだね、じゃあ僕はお邪魔になったらいけないし先に帰ろうかな」
「あ、いや、別に日車なら聞かれてもいいんだけど、その、あの……」
「ふふっ、団吉、杉崎は――」
「お、お疲れさま、み、みんなこんなところでどうしたの?」
後ろから声がしたので振り向くと、木下くんがこちらに来ていた。
「……!!」
「あ、木下くんお疲れさま、帰るとこ?」
「う、うん、今日は駅前の本屋に寄って、この前出た小説の新刊を買って帰ろうと思ってたよ」
「あ、もしかしてあれかな、そういえば出るって言ってたね」
「う、うん、続きが気になってね。それよりも何かあったの?」
「いや、僕もよく分からな――」
「――ごめん日車、姐さん、また明日!!」
杉崎さんが突然大きな声を出して、逃げるように廊下を走って行った。
「あ、あれ? どうしたんだろ杉崎さん……」
「な、何かあったのかな?」
「ふふっ、団吉、後で話すよ。木下にはまだ聞かせられないけど」
「はひ!? ぼ、僕? な、何か悪いことした……?」
「ううん、そうじゃないけど、ごめん、今は聞かせられないんだ」
「はひ!? そ、そっか、分かった……じゃあ日車くん、沢井さん、また明日ね」
木下くんが小さく手を振って帰って行く。木下くんに聞かせられないって何だろう?
「え、絵菜、何か知ってるの?」
「うん、どうやら杉崎は、木下のことが好きになったみたいなんだ」
あーなるほど、杉崎さんが木下くんのことが好きと。
……って、えええええ!?
「ええっ!? す、杉崎さんが、木下くんを……!?」
「うん、さっき話してたのはそれ。なんか、いつものように木下に話しかけられなくなったって。木下を見るとドキドキしちゃうって」
「え、で、でも、いつも杉崎さんは木下くんのことからかって……あ、あれ?」
そ、そういえば生物の授業が始まる前、杉崎さんが急におとなしくなったなと思って見てみたら、なんとなく木下くんの方をちらちらと見ていたような気がしたけど……それと、いつもの『あたしにしとけーなんちって』という軽い感じの言葉が全然なかったような。
「た、たしかに、なんか木下くんが話した途端、杉崎さんがおとなしくなったというか、なんというか……」
「ふふっ、恥ずかしかったんだろうな、それでさっき私にこっそり話してくれた」
「そ、そっか……杉崎さんが……」
杉崎さんがおとなしかった理由も、さっき逃げるように帰って行った理由も分かったのだが、まだ頭の中が整理しきれていない感じだった。
「あ、でもよかったのかな、僕が絵菜から聞いてしまって、こういうのは本人から聞いた方がいいような……」
「大丈夫、さっき杉崎も言いかけてたけど、教えても大丈夫だって言ってた。木下にだけは秘密でって」
「そ、そっか、それで木下くんには聞かせられなかったのか……」
「うん、そういうこと。私もびっくりした。でも最近クラスでもあまり杉崎と木下は話してないなって思ってた」
「そ、そうなんだね……」
そっか、杉崎さんが、木下くんのことを……木下くんはどう思っているのか聞きたくなったが、まだ聞けないかもしれないなと思った。
(杉崎さんは、その、好きな人とかいないの?)
(んー、今はいないかなー。まぁ、いつかいい人が現れるっしょ!)
そういえば以前杉崎さんにこんなことを聞いていたなと思い出した。ということはいい人が現れたということか。
そして僕は、火野と高梨さん、天野くんと東城さんのことを思い出していた。またタイプが違う二人だけど、この後どうなるのだろうかと気になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます