第24話「激走」

「――次は、プログラム十四番、クラス対抗リレーです」


 放送部のアナウンスの後、リレーの代表がグラウンドに入る。クラス対抗リレーは学年別、そしてクラス別に男女が交互に走る。先生たちも代表が走るらしい。大西先生も走るとか言っていたな。

 まず一年生が走る。やはりクラスの代表が出ているだけあって、みんな速かった。一年生が終了した時点では紅白ほぼ互角のような気がした。

 続いて二年生が走る。第一走者は女子だ。運動部の人がほとんどだった。

 スタートの合図とともに、一斉に走り出す。五組は三位あたりを走っている。うん、いい位置だと思う。

 第二走者は男子。一組は中川くんの姿が見えた。中川くんはめちゃくちゃ速く、一気に先頭に躍り出る。さすがサッカー部のエース候補だ。あ、大西先生が「若い者には負けんぞーーー!!」と、でかい声を出しながら走っている。でも一人に抜かれた。

 みんなが走る度に「いけー!」「頑張れー!」と歓声が上がる。第三走者は女子だ。高梨さんの姿が見えた。二組は五位だったが、高梨さんがスピードを上げて一人、また一人と追い抜いていく。「おい、二組の女子、速い上に可愛くね!?」と、ここでも高梨さんが人気だった。

 第四走者の男子、第五走者の女子が終わる頃の順位は、先頭から一組、五組、二組、三組……と続いていた。五組もいい位置につけている。

 そしてついにアンカーの男子。一組は火野、五組は相原くんがバトンをほぼ同時に受け取る。なんと二人の対決がここで見れるとは。相原くんがいいスタートを切り少しリードするが、火野も負けていない。中盤からスピードを上げ、相原くんに追いつく。僕は「二人とも頑張れーーー!!」と叫んでいた。

 

「キャーッ! 火野くーーん!!」

「相原くーーん! 頑張れーーーっ!!」

 

 最後の直線で、火野が最後の力でさらにスピードを上げ、相原くんを一歩リードする。わずかの差だったが、そのまま一組が一位でゴールした。五組は二位、二組が三位と、紅組のクラスが上位に入ってきた。これはいい結果だと思う。


「はぁ、はぁ、お前、いい足してるな! サッカー部に入らねぇか!?」

「はぁ、はぁ……いや、それは遠慮しておく、めんどくさい」


 火野と相原くんが握手しているのが見えた。お互いの健闘を称え合っているのだろうか。

 その後、三年生が終わり、最終結果が出る。勝ったのは――


「――紅組の勝利です!」


 そのアナウンスを聞いて、「やったー!」と周りから歓声が上がった。僕は相原くんたちの元へ行く。


「相原くん! すごい走りだった! よかったよ!」

「……ごめん、最後の最後で負けてしまった。一組の火野……だっけ、速いな」

「ううん、火野とほぼ互角の勝負だったよ! それだけでもすごい!」

「そうよ、相原くんカッコよかったわ、頑張ってくれてありがとう」

「相原さん、すごかったです……! カッコいい……!」

「……そ、そうかな、ありがとう、なんだか恥ずかしいな……」


 相原くんがポリポリと顔をかいた。だんだんと顔も赤くなってきていた。


「さぁ、最後グラウンドに集まらなきゃね、行きましょ」

「あ、うん、そうだね」


 最後の挨拶と閉会式が行われる。うん、みんなで頑張って、紅組が勝つことまでできてよかったなと思う。



 * * *



 グラウンドでは生徒や先生たちが後片付けをしていた。部活に入っている人が借り出されているみたいで、僕はクラスのみんなに教室に荷物を置いている人はそれを取って今日は解散ということを伝えただけだった。

 僕はしばらく相原くんたちと話した後、グラウンドを眺めていた。なんだろう、これで終わったんだなという感慨深い気持ちになっていた。


「おーっす、お疲れ、団吉残ってたのか、終わったなー」


 火野がやって来て話しかけてきた。サッカー部も片付けに参加していたようだが、終わったのだろうか。


「お疲れさま、片付け終わった?」

「ああ、だいたい終わった。いやーしかし勝ててよかったな! 燃え尽きたぜー」

「うん、みんなで頑張った甲斐があったね」

「そういえば、団吉のクラスの相原……だっけ、いい足してるなー、ぜひうちのサッカー部にほしいくらいなんだが、誘ったら断られちまった」

「あはは、相原くんめんどくさいことは嫌いだからね、でもいい勝負だった。すごいもの見た気がするよ」

「ああ、今日はなんとか勝てたけど、もう一回走ったら分からねぇなぁ、また相原と勝負したいなぁ」

「やっほー、お疲れー、終わっちゃったねー、なんか寂しいというか」


 高梨さんが手を振りながらこちらにやって来た……と思ったら、隣には絵菜もいた。


「おーっす、お疲れー」

「お疲れさま……って、あれ? 絵菜も残ってたの?」

「あ、教室に荷物置いてたから、ちょっと取りに行ってて。グラウンド見たら団吉がいた気がしたので来てみた」

「そっかそっか、終わっちゃったね、あっという間だったけど、楽しかったな」

「うんうん、陽くんの最後の走りシビれたなー! 日車くんも絵菜も追い抜いてたし、すごかったよー」

「あはは、そんな高梨さんも二人追い抜いてたよね、いつも綺麗な高梨さんがカッコよく見えたよ」

「ふっふっふー、まぁ私にかかればあんなもんかな! でも絵菜は私よりすごかったよねーこのこのー」


 高梨さんが絵菜に抱きついて頬をツンツンと突いている。絵菜は「あ、ああ……」とちょっと恥ずかしそうにしていた。


「そうだ、せっかく四人いるからさ、この後ハンバーガー屋にでも行かねぇか? お疲れさま会みたいな感じで」

「ああ、いいねぇ、運動したらお腹空いてきたし、行こ行こー!」

「うん、行こうか、絵菜も行ける?」

「うん、大丈夫、なんか喉が渇いてきたし、行きたい」


 その後四人でハンバーガーを食べながら、今日の体育祭のことを色々話していた。去年の今頃の僕だったらこんなことはなかっただろう。いや、そもそも体育祭自体を楽しめていたとは思えない。

 みんなで一つになって頑張ることは、とても大事なことだなと思った。いい思い出になりそうな気がした。

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