第23話「接戦」

 絵菜の大活躍があった後、二年男子の四百メートルリレーが行われる。

 僕は第二走者の位置に着く。同じ第二走者に陸上部はいないようだが、運動部に入っている人がけっこういるみたいだ。でも負けられない。

 第一走者が一斉にスタートする。五組は三位くらいを走っている。そのまま三位でバトンを受け取り、僕は一気に走り出す。


「日車くーーん! いっけーーーっ!!」

「団吉ーーー! 追いつけーーーっ!!」

「日車くん!! 頑張れーーーっ!!」

「日車ーーー! 抜いたらあたしの胸触っていいぞーーーっ!!」


 高梨さんと火野と中川くんと杉崎さんの応援が聞こえる。な、なんか杉崎さんがおかしい気がするが、今は目の前に集中するのみ!

 僕はコーナーで前の一人に追いつき、少し並走した後、ラストで追い抜いて二位となった。そのまま第三走者にバトンを渡すが、アンカーの野球部のクラスメイトが追い抜かれて結局五組は三位だった。


「だ、団吉、応援してたよ、カッコよかった……」


 戻ると絵菜に声をかけられた。


「ありがとう、あっという間だったけど、楽しめたような気がするよ」


 応援席に戻ると、相原くんと大島さんと富岡さんがやって来た。


「……日車くん、ナイスラン、二位に押し上げたね。誰かさんが抜かれたけど」

「日車くん、カッコよかったわ。そして沢井さんは足が速かったのね……くそ、負けたわ……」

「日車さん、お疲れさまです……! すごくカッコよかった……!」

「ああ、ありがとう、なんとか頑張れてホッとしているよ」


 リレーの後にもう一種目あり、午前中のプログラムは終了となった。一時間の昼休みに入る。そういえば日向が真菜ちゃんと応援に行くと言っていたので、僕は二人を探した。


「あ、お兄ちゃん! こっちこっち、場所とってあるからみんなでご飯食べよー」


 日向が僕を見つけて、手を引いていく。大きなシートで場所をとっていたようで、絵菜と真菜ちゃんが座っていた。


「お兄様、お疲れさまです。走ってるの見ました! すごくカッコよかった……」

「あはは、ありがとう、それよりもやっぱり絵菜だよ、本当に速かった」

「うんうん、絵菜さんすごかった! 思わず真菜ちゃんと大きな声出しちゃった!」

「う、うん、ありがと、みんなに色々言われてちょっと恥ずかしかった……」

「おーっす、お疲れ、みんなここにいたのか」

「お疲れさま! みんな頑張ってたね!」

「やっほー、お疲れー、ねえねえ、私たちも一緒にいいかな?」


 火野と中川くんと高梨さんがこちらにやって来た。


「あ、お疲れさま、うん、みんなで食べよう」

「サンキュー、いやーリレーは盛り上がったなー、思わずでかい声出しちゃったぜ」

「ああ! 日車くんも沢井さんもいい走りだった! 二人とも抜いてたからね!」

「あはは、ありがとう中川くん、同じ走者に陸上部の人がいなかったのがありがたかったよ」

「それでも運動部の人いたのにさー、二人ともすごいねぇ! よーし私たちも負けてられないね!」

「おう、クラス対抗リレーは最後だからな、気合い入れていくぜ!」

「ああ! みんなで紅組の勝ちをこの手にいただこうじゃないか!」


 火野と中川くんと高梨さんから燃えるオーラが見えた。うん、この三人なら絶対に大丈夫だ。


「みなさん頑張ってください! 午後も応援してます!」

「私もみなさんの頑張りを見てたら元気出てきました……! 頑張ってください!」

「あはは、もー日向ちゃんも真菜ちゃんも可愛いんだからー! そろそろ食べごろかな、美味しそう……じゅるり」

「た、高梨さん心の声が……午後は部活動紹介と、玉転がしと、騎馬戦と、クラス対抗リレーか」

「おう、そうだった騎馬戦もあるんだった、そこでも頑張らねぇとな!」

「ああ! 点数もそんなに差がないし、なんとか騎馬戦でも勝たないといけないな!」

「よし、またみんなでグータッチしない? 午後も頑張ろーということでさ」


 日向と真菜ちゃんも入れて、みんなで右手を出してグータッチをした。よし、なんとか勝てるといいな。



 * * *



 午後は部活動紹介から始まった。火野と中川くんと高梨さんがユニフォーム姿で歩いている。火野と中川くんはキャーキャー言われているし、高梨さんも「おい、あのバスケ部の背の高い子可愛くね?」と男子がそわそわしていた。くそぅ、イケメンと美人が羨ましい。

 部活動紹介の後、玉転がしまで終わった時点で、紅組と白組の差は十点しかなかった。ほぼ互角だ。この後の騎馬戦とクラス対抗リレーで決まる。

 騎馬戦は学年別、紅白に分かれての戦いで、男子全員が出ることになっている。僕は相原くんを上にする馬役の一人だ。帽子を取られるか、騎馬がくずれたら負けとなってしまう。


「相原くん、いっぱい取っちゃってね」

「……うん、もちろん。出るからには頑張るよ」


 一年が終わり、二年の出番となる。応援席から女子の声が聞こえる。


「相原くん! 頑張ってー!」

「あ、相原さん……! が、頑張ってくださいー!」

「あ、相原卑怯だぞ! 大島さんと富岡さんに応援してもらっているなんて!」


 大島さんと富岡さんの声が聞こえた。野球部のクラスメイトの声は無視する相原くんだった。

 二年の騎馬戦が始まる。開始からどんどんぶつかっていく。僕たちは白組の猛攻を受けるが、相原くんがひょいひょいと相手の帽子をどんどん奪っていく。すごい、相原くん何でもできるなと思った。


「おっ、団吉のところも残ってるな! このまま押し切ろうぜ!」


 目の前に火野たちの騎馬があった。同じ紅組なので戦う必要はないが、油断すると白組がどんどんやって来る。それでも僕たちは帽子を取られることも倒されることもなく、制限時間いっぱいまで残ることができた。


「相原くんすごい! 最後まで残れたね!」

「……よかった、馬がしっかり支えてくれたからやりやすかったよ」


 騎馬戦が終わり、今度は紅組が白組を一歩リードした。しかし最後のクラス対抗リレー次第ではまだまだどうなるか分からない。


「最後だね、相原くん頑張って!」

「相原くん、応援してるわ、最後決めてきて!」

「あ、相原さん、が、頑張ってください……!」

「……ありがとう、頑張る。あ、最後にもう一回」


 みんなでエールを送ると、相原くんが右手を出してきたので、僕たちは四人でグータッチをした。うん、本当に最後、みんな頑張ってほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る