第22話「活躍」

 体育祭の日になった。

 この日朝早くから休日出勤となってしまった母さんに代わり、日向がウキウキでちょっと豪華なお弁当を作っていた。


「お兄ちゃん、今日お弁当持って真菜ちゃんと応援に行くからね、頑張ってね!」

「あ、そうなのか、うん、頑張るよ」


 日向に「行ってらっしゃーい」と見送られ、学校へ行く。朝からたくさんの生徒がグラウンドに集まっていた。


「おーっす、団吉おはよ、ついに来たな本番が!」


 後ろから声をかけられたので振り向くと、火野がいた。


「おはよう、ついに来てしまったね、なんかちょっと緊張してきた」

「あはは、まぁ楽しもうぜ、俺らは二年の今年しか体育祭はないんだし」

「お、おはよ」

「やっほー、おはよー、ついに本番だねー、燃えてきたー!」


 絵菜と高梨さんがこちらにやって来た。高梨さんはやる気を見せて拳をぐっと握った。


「おーっす、おはよ、みんなクラスは別だけど紅組で一緒だからな、絶対勝とうぜ!」

「おはよう、うん、みんなで勝てるといいね」

「そだねー、あ、みんなでグータッチしようよ、いつも通りにさ」


 四人で右手を出してグータッチをした。よし、なんか緊張がほぐれた気がする。


「――生徒のみなさんは、各クラスの応援席に集まってください。繰り返します、生徒のみなさんは――」


 放送部の放送が入る。もうすぐ始まるのだ。最初はグラウンドで挨拶と選手宣誓と準備体操だったっけ。

 みんなと別れて自分のクラスへ行く。クラスメイトが「頑張ろうね」と言い合っていた。クラスが一つになる感じがいいなと思った。


「……日車くんおはよ」


 応援席に着くと、相原くんが話しかけてきた。


「あ、おはよう、今日も来てくれたんだね、嬉しいよ」

「……まぁ、来なくて日車くんに悲しい思いさせたくないから」

「あはは、うん、相原くんはリレーでも頑張ってもらわないといけないからね」

「あら、日車くん、相原くん、おはよう」

「日車さん、相原さん、おはようございます……!」


 気がつけば大島さんと富岡さんも集まっていた。


「……おはよ」

「あ、おはよう、今日はみんなで絶対勝とうね」

「な、なんか朝からやる気満々ね……そういう日車くんも嫌いじゃないわ、絶対に勝ちましょ」

「わ、私はできること少ないけど、みなさんを応援してます……!」

「うん、あ、みんなでグータッチしない? 気合い入れようよ」


 僕がそう言うと、みんな右手を出してグータッチをした。よし、さらに気合いが入った気がする。今日は頑張れそうだ。



 * * *



 挨拶と選手宣誓と準備体操の後、プログラムが始まった。最初は全員が走る百メートル走だ。

 僕は八人中三位という結果だった。陸上部の人もいたから仕方がない。他の人が走っているのも見たが、火野と中川くんと相原くんはぶっちぎりで速く、三人で勝負したら誰が速いんだろうかと思った。さらに高梨さんと、なんと絵菜も一位になっていた。びっくりしたが、やはり絵菜は足が速かったのだ。

 続いて二人三脚、女子のダンス、ムカデ競争などが行われた。二人三脚ではなんと大島さんと富岡さんのペアがぶっちぎりで速く、あっという間に一位になっていた。僕は戻ってきた二人に声をかける。


「すごいね、二人とも圧倒的な速さだったよ」

「あ、ありがとう、そうね、練習はしたけど、まさかこんなに差がつくとは……目立ってしまった……」

「は、恥ずかしいです……で、でも、運動で一番になったの初めてで、嬉しいです」

「うんうん、よかったよ、あ、そろそろ四百メートルリレーの集合がかかる頃か」

「あ、日車くん出るわね、応援してるわ、頑張ってね」

「日車さん、頑張ってくださいね、応援してます……!」

「なっ!? ひ、日車卑怯だぞ! 大島さんと富岡さんに応援してもらってるなんて!」


 突然野球部のクラスメイトが声を上げる。たしかに大島さんは美人だし、富岡さんも可愛らしくてほわほわしているけど、君は女子だったら誰でもいいのか。


「……日車くん、あんなの聞かなくていいから。頑張って」

「うん、頑張るよ、行ってきます」


 相原くんたちに挨拶して、入場門へと移動する。そこで女子のリレーに出る絵菜と一緒になった。


「あ、団吉、リレー頑張ろ。団吉のこと応援してるから」

「うん、頑張ろうね、僕も絵菜を応援してるよ」

「――次は、プログラム八番、四百メートルリレーです」


 放送部のアナウンスの後、入場門からグラウンドに入る。一年、二年、三年の順に走ることになっている。よく見ると一年の中には天野くんもいた。走っている姿をバッチリと見た。天野くんのカッコいい姿を東城さんも見てくれたかな。

 続いて二年の女子が走る。絵菜は第三走者のようだ。一斉にスタートしたが、六組は少し出遅れてしまって、第二走者で五位となっていた。


「さ、沢井さん、ごめ――」

「大丈夫!!」


 初めて絵菜の大きな声を聞いた気がする。大丈夫と叫んだ絵菜は、スタートからぐんぐんスピードに乗る。気がついたら僕は「絵菜ーー! 頑張れーー!!」と叫んでいた。


「絵菜ーーー! いけーーーっ!!」

「沢井ーーー! 抜けるぞーーっ!!」

「沢井さーーん! ファイトーーっ!!」

「姐さーーん! やっちゃえーーっ!!」


 高梨さんと火野と中川くんと杉崎さんの大きな声が聞こえてきた。杉崎さん以外はクラスそっちのけで絵菜を応援している。スピードに乗った絵菜は一人、また一人と追い抜き、ラストでもう一人に追いついて二位となった。


「お、おい、あの金髪の子速いな!」

「あれ沢井さんだろ? あんなに速かったのか!」


 僕の周りの人もざわざわしている。みんな絵菜にびっくりしているようだ。うん、めちゃくちゃ速くて僕もびっくりした。

 そのまま六組は二位でゴールした。間違いなく絵菜のおかげだ。僕は戻ってきた絵菜に声をかける。


「絵菜! すごかったね! 二人抜いて三人目にも追いついたよ!」

「あ、ありがと、自分でもびっくりした……」

「沢井さんすごい! めっちゃ速いね!」

「沢井さんありがとう! 二位になれたのも沢井さんのおかげだよ!」


 絵菜は六組の女子たちに囲まれる。「あ、う、うん……」と少し恥ずかしそうにしている絵菜だった。


「あ、団吉、次頑張って、応援してる」

「うん、ありがとう、頑張ってくるね」

「え、え!? もしかして沢井さんの彼氏!?」

「えー! いいなー沢井さん彼氏いたんだー! 羨ましい!」


 六組の女子たちに色々と言われて、絵菜はさらに恥ずかしそうにしていた。よし、次は僕だ。さすがに絵菜みたいにはならないと思うけど、頑張ろうと思った。

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