第19話「メンバー選定」
「はい、それでは今日は体育祭の各種目のメンバーを決めていきたいと思います」
大島さんの言葉に、みんなが「はーい」と答える。火曜日のホームルームで、今月末にある体育祭の話し合いが行われていた。
うちの高校は少し変わっていて、一年ごとに球技大会と体育祭が入れ替わる。去年は時期的にもう少し後に球技大会があり、今年は五月に体育祭が行われることになっていた。年間のスケジュールをどうにかやりくりすれば、どちらもできるのではないかと思うのだが、大人の事情があるのだろう。ん? 大人の事情って何だ?
「大島さん、メンバー選定は立候補なの?」
「うーん、立候補も聞くけど、徒競走系は体育の五十メートル走のタイムが速い人を優先的に入れていこうと思うわ」
「あ、なるほど……」
今大島さんが言ったことを、そのままみんなに伝えている。「はーい」「問題ないでーす」などと軽い感じで返事がきた。いつものように自由にあれこれ話しているが、やはり学級委員の言うことはちゃんと聞いている。
「決めないといけないのは四百メートルリレーとクラス対抗リレーね。タイムが速い人を言うから、日車くん黒板に書いてくれる?」
「うん、分かった」
大島さんがメンバーの名前を言い、僕が黒板に一人ずつ書いていく。
「……次に速いのは相原くんね。あら、相原くん足も速いのね」
「おお、そうなんだね、相原くん、四百メートルリレーとクラス対抗リレーどっちがいい?」
相原くんの席は窓際の一番前なので、僕が相原くんに声をかけた。
「……うーん、めんどくさいけど、どっちでもいいよ」
「そっか、そしたらクラス対抗リレーに男子代表の一人として出てもらおうかな」
「……分かった、まぁ、日車くんがそう言うなら」
ちょっとめんどくさそうな顔をしていたが、相原くんがなんとか承諾してくれた。
「クラス対抗リレーは決まったわね、あと四百メートルリレーだけど、足が速い順でいくと……あ、男子の最後のメンバーは日車くんね」
「あーなるほど、日車く……ええ!? ぼ、僕!? もっと速い人いるのでは……!?」
「わ、分かりやすいノリツッコミするわね……速い順で決めてるから、仕方ないじゃない」
「そ、そっか……分かった」
みんな五十メートル走で手抜いてない? と思ったが、なんと僕がリレーの最後のメンバーに入ってしまった。まぁ、短距離も嫌いではないけど、うーん、やっぱり納得がいかない。
「リレーはこれで決まったわね、走る順番は代表の人たちの中で決めてもらうとして、リレーに出てない人で二人三脚とムカデ競争に出るメンバーを決めたいと思います」
大島さんがそう言うと、また「はーい」という声が聞こえてきた。どちらに出たいか意見を聞いて、その中で二人三脚の場合はペアを、ムカデ競争の場合は五人のメンバーを決めていく……のだが、また一人ぽつんとどこにも入れない人を見つけてしまった。
「あ、大島さん、富岡さんがまた一人になってる……」
「あら、じゃあ私と一緒に二人三脚やるっていうのはどうかしら?」
「あ、なるほど、じゃあ本人に聞いてくるね」
僕はそう言って、富岡さんのところに行く。
「富岡さん、何も決まってないなら、大島さんと一緒に二人三脚に出ない?」
「え、え!? い、いいのですか……?」
「うん、大島さんも決まってないみたいだったから、大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます……! やっぱり私浮いてしまって……お恥ずかしいです」
そういえば去年、球技大会の時にも少し浮いていた僕は、なかなか決まらなかったソフトボールの方に無理矢理入れられたなと思い出した。
「大島さん、富岡さんゲットしてきたよ。あと決まってない人いる?」
「や、やっぱり某モンスターゲームみたいに言うわね……うん、これでみんな決まったみたい。よかったわ」
僕と大島さんと富岡さんがまた同じようにホッとした顔を見せた。なんとか体育祭のメンバーが決まった……のだが、
「おい、日車、お前何番目走りたいんだ? 絶対に負けられないからな!」
と、野球部のクラスメイトに話しかけられた。ああ、君また同じクラスだったんだね。今気がついたよ。
「あ、まぁ、何番目でもいいけど、アンカーはさすがに無理かな」
「当然だ、アンカーは俺なんだからな、一番になって駆け抜けてやるぜ!」
心の中で、誰かに追い抜かれるか、途中でこけてしまえばいいのにと思ってしまった。いけないいけない、そんな悪いことを考えるのはよくないと思う。
「そっか、じゃあ二番目くらいにしとこうかな」
「いいか、絶対に抜かれるなよ、みんなで俺にいいところで回せよ!」
「……日車くんは大丈夫よ、やる時はやる男よ、それよりも自分の心配したらどう? アンカーなら他のクラスも速い人が来るんじゃない?」
横で聞いていた大島さんがさりげなくフォローしてくれた。あれ? 大島さん実は優しい人?
「なっ!? ひ、日車卑怯だぞ、大島さんに応援してもらってるなんて!」
「い、いや、別に応援してもらってるわけではないような……」
「大丈夫よ、日車くんは私が応援してるわ。私、日車くんのような優しくて謙虚な男が好きなの」
大島さんがそう言って僕の右手をそっと握ってきた。
「お、大島さん!?」
「なっ!? く、くそ、抜かれたらタダじゃおかねぇぞ!」
野球部のクラスメイトは吐き捨てるように言って自分の席に戻って行った。去年は高梨さん狙いだったような気がするが、美人だったら誰でもいいのか君は。
「……日車くんも大変ね、みんなにモテモテで」
「あ、いや、男にモテてもあんまり嬉しくないよ……って、お、大島さん、ち、近――」
なんだか久しぶりに大島さんが近づいてきたなと思った。え、絵菜に見られたら大変なことになりそうだ、違うクラスでよかった……って、それもまた違うような気がする。
と、とにかく、あとは本番に向けて練習などを頑張るのみである。僕もリレーの代表になったからには、負けられないなと思った。
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