第18話「連休最後」
『団吉ぃ~、連休だからって課題が山のように出たんだけど、数学と英語が分かんなくて全然進まねぇよぉ』
連休の最終日の日曜日、部屋で勉強をしていると、グループRINEで火野が力のない言葉を送ってきた。そうか火野のところもたくさん課題が出たのか。僕のところも各先生が連休だからといって浮かれないようにと課題を出してきた。だいたい終わったが、数学があと少し残っていた。
『そうか、火野のところも課題出たのか。たぶん教えることはできると思うけど』
『助けてくれ~、月曜日にいきなり数学があるから、大ピンチだ』
『あー、私も課題がたくさん出たよ、数学分かんないよ~、日車先生助けて~』
『なんと、高梨さんもか、それは困ったな……絵菜はどう?』
『私も今やってるけど、数学が難しくて分からない……』
『そっか、じゃあ前みたいにみんなで集まってやってみる? うちならできると思うけど』
『おお、ありがたい! ダッシュで行くぜー!』
『私も行くー! あ、おいしいもの持って行くねー』
『わ、私も行く』
結局四人で集まることになった。そういえば去年の夏休みにも同じようなことがあったな。あの時高梨さんと日向が初めて会って、いきなり抱きついたんだっけ。
みんなが来るまで残っていた数学を片付けておこうと勉強に集中した。四十分ほど経って、みんなが揃ってうちにやって来た。
「いらっしゃい、あれ? みんなで待ち合わせて来たの?」
「おーっす、駅前で待ち合わせて来たぜ。すまんな団吉も課題出たんじゃねぇか?」
「ああ、ほぼ終わったから大丈夫。みんなを見ることができるよ」
「やっほー、さすが日車先生、頼りになります!」
「わ、私も数学分からないから教えてほしい……」
「うん、とりあえず上がって。またリビングでやろうか」
みんなをリビングに案内すると、母さんがニコニコしながらジュースを持って来てくれた。
「みんないらっしゃい、勉強大変ね、私も高校生活を思い出すわ~」
「おじゃまします! すいませんぞろぞろと邪魔になりそうで」
「いいのいいの、それにしても火野くんまたカッコよくなったんじゃない? 背もまだ伸びてるのかしら」
「はじめまして、私高梨っていいます。いつも日車くんにはお世話になっていて。すみませんおじゃまします」
「あらあら、はじめまして、団吉と日向の母です。すごく美人だって聞いてたけど本当ね、モデルさんみたい」
母さんに褒められて火野と高梨さんが照れている。くそぅ、これだからイケメンと美人は困る……。
「――よし、そしたらまたリビングとダイニングで分かれてやろうか」
「オッケー、あれ? 日向ちゃんは出かけてるの?」
「ああ、部屋で勉強してたみたいだけど、もうすぐ来るんじゃないかな」
「じゃーん、噂をすればなんとやらですよー、みなさんこんにちは!」
いつの間にか日向がリビングに来ていた。そんな日向を見つけた高梨さんはいつものように抱きついた。うん、そろそろ食われそうだな。
* * *
去年の夏休みと同じように、リビングのテーブルで絵菜と高梨さんが、ダイニングのテーブルで僕と火野が勉強していた。僕は教える側なので、ちょいちょい移動して三人にあれこれと教えていた。文系でも数学は数Ⅱ・数Bまでやるらしく、理系の僕たちの方が授業は少し進んでいたのと、これまで習ったところが課題にも出ていたので、スムーズに教えることができた。
「おっ、三時になったな、ちょっと休憩するか」
「そだねー、あ、陽くんとバウムクーヘン買ってきたんだー、みんなで食べよー。日向ちゃんとお母さんの分もあるので、ぜひ一緒に」
「あらあら、ありがとうね、あ、これ美味しいって評判のところね」
「あ、火野さん、高梨さん、ありがとうございます!」
「いえいえー、日車くんこの前誕生日だったよね? おめでとー。このバウムクーヘンは私と陽くんからのプレゼントってことで。ちょっとずるいかな」
「え!? あ、ありがとう。ごめん、何か気を遣わせてしまったみたいで……」
「気にすんな、たいしたことできてねぇけど、これくらいやらせてくれ」
「ああ、ありがとう、嬉しいよ」
みんなでバウムクーヘンをいただいた。うん、かなり美味しい。そういえば僕もこのバウムクーヘンは聞いたことがある。評判になっているだけあるなと思った。
「日車くんの誕生日は、絵菜と過ごせた?」
「あ、うん、水族館に行ってきたよ。楽しかった」
「おお、水族館デートか! いいなー楽しそうだ」
「団吉と一緒に行けて、楽しかった……魚がとても綺麗だった」
「そかそかー、いいないいなー、日車くんはもちろん、絵菜も嬉しかったよねぇー、このこのーお熱いんだからー」
高梨さんが絵菜に抱きついて頬をツンツンしている。絵菜は「あ、ああ……」と言いながらちょっと恥ずかしそうにしていた。
「そういえば、去年の夏休みにこうやって勉強した時は、団吉と沢井がどんどん仲良くなってたよなぁ、懐かしいぜ」
「そそ、いつの間にか名前呼びになってたりしてねー、びっくりしたの覚えてるよー」
「そういえばそうだったね、そんなこと言ってるけど、火野と高梨さんだって仲良くなってたじゃないか。花火大会に誘ったりしてさ」
「お、おお、そうだったな、あの時はめっちゃ緊張してたぜ……」
「あはは、二人ともお互い好きなのに言えないでいたよね。まだ一年も経ってないけど、すごく昔のような気がする」
僕がそう言うと、火野と高梨さんは「お、おおー……」と恥ずかしそうにしていた。
「団吉のおかげで、数学何とか終わりそう。ありがと」
「ああ、いえいえ、絵菜のクラスも数学は大西先生だよね、ついていけてる?」
「うーん、相変わらず早くて分からないところもあるかな……」
「俺も団吉のおかげでなんとかなりそうだぜ。しかし文系でも数学やらないといけないんだなぁ」
「ほんとだよー、数学が苦手で文系行ったのに、また辛い目にあってるよー。日車くんいないからなかなか聞けないし」
「まぁ、教えられることがあったらまた今日みたいに教えるよ」
「おお、日車先生、頼りにしてます!」
「私もー、日車神だけが頼りだよー、おお日車神よ、もっと数学を簡単にしてください~」
「い、いや、僕は一般人だからね?」
僕がそう言うと、みんな笑った。
その後、夕方まで勉強して、なんとかみんな課題を終わらせることができた。僕はお役に立てたようでよかった。
勉強が目的とはいえ、こうやって集まるのも悪くないなと思った。みんなが数学を好きになってくれれば……と思うが、さすがにそれはないか。これからも僕ができることがあれば、力になってあげたいな。
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