第16話「髪型」

 連休の間の平日、僕はいつものように学校へ行き、午前中の授業を受ける。

 今年は三連休の後一日学校へ行って、また三連休があって、一日学校へ行って、また連休があるという、間の一日をそれぞれ休めればかなりの大型連休になったのになと思う日程だった。今日は最初の三連休の後の平日だ。社会人は有給休暇とやらを使うのだろうか。

 昨日グループRINEで、『ショッピングモールでデートしてきたぜー』と火野が言っていた。あれから火野と高梨さんも仲良くやっているようで、よかったなと思った。僕と絵菜は友達のピンチにちゃんと力になれたのだろうか。

 昼休みになり、僕はいつものように弁当を持って学食へ行く。すると背中をトントンと叩かれたので振り向くと、絵菜がいた。


「団吉も今から行くのか、一緒行こ」

「あ、うん、そういえば髪切ってから初めての登校だったね、何か言われなかった?」

「杉崎が大興奮で飛び跳ねてた……杉崎の友達のギャルにも『マジパネェ!』って言われて、木下にも似合ってるって言ってもらえた」

「あはは、杉崎さんは相変わらずだね。あ、木下くん女子と話せるようになってきたのかな……」


 二人で話しながら学食に行くと、火野と高梨さんが奥に座っていた。


「やっほー、お疲れー……って、あれ!? 絵菜!? 髪がショートになってる! 可愛いー!!」


 高梨さんは立ち上がり、絵菜に抱きついてよしよしとなでている。想像通りの反応で僕は笑ってしまう。絵菜は恥ずかしいのか少し下を向いていた。


「おー、沢井髪切ったのかー! 可愛いな、めっちゃ似合ってるよ」

「あ、ああ、ありがと……優子、恥ずかしいから……」

「あはは、あまりにも可愛くてついつい。でもどうしたの急に短くして」

「あ、いや、伸びてきたから切ろうと思って、美容師さんに短くしても似合うって言われて、そのまま……」

「そかそかー、うんうん、似合ってるよー、ああ、私の絵菜がこんなに可愛くなって……日車くんもメロメロだねぇ」


 高梨さんがそう言って僕の腕をツンツンと突いてくる。絵菜は顔を赤くしていたが、僕も顔が熱くなってきた。


「私の絵菜って何なんだ……だ、団吉にも可愛いって言ってもらえたから、嬉しい……」

「う、うん、すごく可愛くて似合ってるよ、その、あの……はっ!?」


 ふと見ると、火野と高梨さんがニヤニヤしながら僕と絵菜を見ていた。うう、恥ずかしい……。


「よし、可愛い絵菜を見ながらご飯食べることにしますかー!」

「い、いや、普通に食べてくれ……恥ずかしいから」


 その日の昼休みは、ずっと絵菜が恥ずかしそうにしていた。でもやっぱり絵菜が可愛くて僕はドキドキしていたのだった。僕はショートヘアの女の子が好きだったのだろうか。



 * * *



 午後の五時間目は生物の授業だった。僕がちょっと早めに第一理科室に入ると、絵菜と杉崎さんと木下くんが座っていた。


「おっ、日車お疲れー、なあなあ、姐さんめっちゃ可愛くなってるよな!? あたしびっくりして空飛んじゃうかと思ったよーなんちって」

「お疲れさま、うん、僕もびっくりしたけど、似合ってるよね」

「さ、沢井さん、金髪でショートで芸能人みたいだよね」

「なんだよ木下ー、もしかして姐さんに惚れたのか? 惚れるならあたしにしとけーなんちって」

「はひ!? い、いや、そういうわけでは……」

「も、もうその話はやめてくれ……恥ずかしすぎる……」

「あら? 沢井さん、髪切ったのね」


 後ろから声がしたので見ると、大島さんが少し目線をそらしながら話しかけていた。


「あ、ああ……」

「ふーん……に、似合ってて可愛いわね、ま、まぁ、私の方が可愛いんだけど」

「あ、ありがと……って、大島はいちいち一言多い……」


 ああ、せっかく仲良くなれそうだったのに、余計なことを言ってしまう大島さんだった。


「大島ー、日車が姐さんとイチャイチャできないからつまんないって言う~」

「なっ、日車くんそんなこと考えてたの? 沢井さんだってみんなの前だと嫌に決まってるでしょ」

「なっ!? い、いや、何も言ってないから!」

「はーい、授業始めるわよー、席についてー」


 先生が来て授業が始まる。僕たちはまた固まって座っていた。


「姐さん姐さん、また急にどうして髪短くしたんですか?」


 こっそりと絵菜に話しかける杉崎さんだった。


「い、いや、伸びたから切ろうと思って、美容師さんに勧められて……」

「そうですかー、いいなーあたしも短くしようかなー、そして姐さんみたいに金髪に」

「やめときなさい、似合う人と似合わない人がいるわよ」

「グサッ、お、大島、たまに毒吐くよな……あ、そしたら大島の中で姐さんは似合う人ってことだよな」

「ま、まぁ、そうとも言わないこともないわね……」


 ちょっと恥ずかしそうにしている大島さんだった。女子トークについていけない。いや授業中だけど。


「なー、日車と木下はあたしの金髪似合うと思うか?」

「え、あ、杉崎さんは今の茶髪の方が似合ってるんじゃないかな……あはは」

「はひ、ぼ、僕も日車くんと同じ意見で……」

「そっかー、じゃあこのままにしとこうかなー、大島はけっこう美人だから金髪でも似合うんじゃないか?」

「う、うーん、さすがに沢井さんのようにはできないわね……」

「こらー、そこおしゃべりしないのよー」


 うっ、先生にまた怒られてしまった。当たり前といえば当たり前なのだが。


「すみません、杉崎さんが分からないところがあると言っていたので私と日車くんが教えていました」

「あら、そうなの? まぁ仕方ないわね、できれば分からないところは先生に聞いてねー」


 大島さんが大ウソをついてなんとか回避できた。みんな真面目に授業受けようよ……と思ったが、僕も話していたので人のことは言えなかった。

 その日はずっと絵菜の髪型の話で盛り上がっていた。絵菜は恥ずかしいのか顔を赤くして下を向いていた。

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