第14話「スポーツ」

 次の日の日曜日、駅前に集合ということにしていたので、僕は間に合うように家を出た。

 昨日火野にRINEで『明日四人で遊びに行かないか?』と聞いたら、『お、おお、分かった』とちょっとびっくりしたような返事が来た。二人きりで会うのはまだ難しくても、僕と絵菜がいればちょっとは違うのではないかと思った。

 駅前に着くと、いつも通り火野がいて、こちらに気づいて手を振っていた。


「おっす、急に遊びに行こうなんて言うから、ちょっとびっくりしちまったよ」

「ああ、ごめん、まだ二人きりで会うのは難しいかなと思ってね」

「あ、ああ、そうだな……ほんと、団吉と沢井には感謝してる。サンキューな」

「ううん、困った時はお互い様だよ」


 僕がそう言って少し笑うと、火野も笑顔を見せた。うん、やっぱり火野はいつも通り笑顔でいる方がカッコいい。

 しばらく待っていると、絵菜と高梨さんがやって来た。


「や、やっほー……」

「お、おっす……」


 二人とも視線を合わさずにぎこちなく挨拶する。まぁ、いつも通りにする方が難しいか。


「よし、揃ったね、ちょっと電車で移動するから、行こうか」

「あ、ああ……ってか、どこ行くんだ?」

「ふふっ、それはまだ秘密」


 絵菜が秘密だと言うと、火野も高梨さんも頭の上にハテナが浮かんでいそうだった。

 僕たちは電車に乗り、三駅隣の駅に着き、しばらく歩いて行く。その先にあったのは――


「着いたよ、ここだよ」

「……へ? ここ?」


 二人がポカンとした顔で見上げる。そこはスポーツアトラクション施設だった。ボウリングやバスケやフットサル、さらにカラオケやゲームセンターまで入っている、言わばスポーツが何でもできる施設だ。


「うん、二人ともスポーツが得意だから、ここだったら楽しめるんじゃないかと思って」

「お、おお、なるほど……そ、そうだな、体動かしたいかも」

「う、うん、私もなんか動きたいかも……」

「よし、じゃあまずはボウリングでもやってみようか、僕は負けそうだけど」


 施設に入り受付を済ませて、ボウリング場へ行く。シューズをレンタルして、ボールを選んでレーンへ行く。投げる順番は火野、高梨さん、僕、絵菜となった。モニターにみんなの下の名前がひらがなで表示されている。


「よ、よし、じゃあ俺からだな……」


 火野が投げようとボールを持とうとしたその時だった。


「……陽くん、ごめん! 私拗ねてた……陽くんが女の子と楽しそうに話してるのが面白くなくて、私より他の女の子の方がいいんじゃないかって思って……冷たい態度とってしまって、ごめん……」


 少し下を向いて泣きそうな顔になっている高梨さんだった。そんな高梨さんを見た火野は、高梨さんに近づき、そっと抱き寄せた。


「よ、陽くん……!?」

「俺の方こそごめん、優子の気持ちを考えてあげられなかった。他の子がいいわけない、優子が一番好きだよ。たしかに他の子と話すこともあるかもしれないけど、優子が一番大事だから」

「う、うん、ありがと……私も陽くんが大好き……」


 高梨さんもぎゅっと火野を抱きしめる。や、やばい、いつもカッコいい火野がさらにカッコよく見える。男の僕でも惚れそうだった。


「……あ、せ、せっかく来たんだから楽しもうぜ! よ、よーし俺からだな、決めてやるぜ!」


 僕たちの前で抱き合ったのが恥ずかしかったのか、火野も高梨さんも顔が真っ赤だった。でも火野もいつもの雰囲気が戻ってきたような気がする。

 火野が一投目を投げる。スピードもあって、ピンはあっという間に全部倒れた。


「うわぁー! 陽くんすごい!」

「よっしゃー! どうだーやればできる男だろ!」


 火野と高梨さんがハイタッチする。続けて僕と絵菜とハイタッチした。くそぅ、イケメンは何やってもカッコいいな。


「よーし、次は私だねー、全部粉々にしてやる!」

「た、高梨さん、それはゲームができなくなってしまうから、程々に……」

「あ、そだね」


 高梨さんがテヘッと舌を出したので、みんな笑った。うん、高梨さんもいつもの雰囲気が戻ってきた。



 * * *



 ボウリングを楽しんだ僕たちは、次にバスケをすることにした。もちろん高梨さんがバスケ部なので、色々教わりながら高梨さんのテクニックを見たりして楽しんだ。火野も普段はサッカーだがバスケもけっこう上手く、このイケメンは何でもできてしまうのかと感心した。

 しばらく楽しんだ後、休憩しようということでジュースを買って休憩エリアの椅子に座ることにした。


「あー久しぶりにバスケやったけど、面白いなー。優子はさすが上手いわ」

「ふっふーん、スモールフォワードの本領発揮ってやつだねー、でも陽くんも上手いし、日車くんと絵菜もけっこうドリブルとかスムーズだねぇ、びっくりしたよ」

「う、ううん、優子の教え方が上手いんだ……」

「あはは、絵菜ったら可愛いこと言うんだからーこのこのー」


 高梨さんが絵菜に抱きついて頬をツンツンしている。高梨さんファンが見たら羨ましい光景だろう。


「はーでも、日車くんも絵菜もありがとね、私たちのために色々してくれて」

「そうだな、ほんと団吉と沢井には感謝してるぜ。体動かせて気持ちもかなりスッキリしたよ」

「いえいえ、それならよかったよ。二人がスポーツ出来てすごいところを改めて知った……」

「うん、二人ともすごい……」

「あはは、まぁ勉強は日車くんにはかなわないけど、スポーツならお任せあれ!」

「おう、俺もそうだぜ、スポーツならなんでもこいってもんだ!」


 火野と高梨さんが同じように胸を叩く。うん、二人とも元気が出たみたいでよかった。


「あ、次フットサルしない? 陽くんのカッコいいテクニックを見たいなー」

「おっ、いいな、みんなでやろう、俺が色々教えてやるぜ」


 その後、みんなでフットサルをして楽しんだ。サッカー部の火野が丁寧に教えてくれて、さらに火野のボールテクニックは素人目線でもすごいことが分かった。さすが一年の時から試合に出してもらえるだけあるなと思った。

 火野も高梨さんも、そして僕も絵菜もたくさん笑った。ここに来てよかったなと思う。

 色々な人と接している以上、お互い気になることはあるかもしれない。でも、素直に自分の気持ちを大事にして、相手にちゃんと伝えることが出来れば、どんなことも乗り越えて行けるのではないか。

 これからも、火野と高梨さんが仲良く過ごせますように。

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