第13話「恋心」
次の日、僕は三時までバイトをこなして、絵菜と高梨さんと約束している駅前に向かった。
駅前に着くと、絵菜と高梨さんがもう来ていて、こちらに気づいて手を挙げた。
「や、やっほー……ごめん、バイト終わりにわざわざ来てもらって」
いつもの高梨さんの挨拶だが、どこか元気がないように見えた。
「いやいや、大丈夫だよ、それよりも聞いてもらいたいことがあるって言ってたけど……」
「あ、う、うん、そこの喫茶店に入ろっか」
僕たちは駅前の喫茶店に入る。人はいたが奥の席に座ることができた。ここは高梨さんが火野のことを好きだと僕に相談してきた場所だ。そして東城さんと初めて会った日に訪れた場所でもある。
三人でコーヒーやジュースを注文した後、高梨さんが大きなため息をついた。
「はぁぁ……私何やってんだろ、ごめんね昨日はお昼ご飯ドタキャンしちゃって」
「いや、それは大丈夫なんだけど、どうかした?」
「うん……陽くんとケンカしちゃって……いや、私が一方的にムカついたと言った方がいいのかな……」
そう言いながらぼんやりと宙を見た高梨さんだった。火野と話したことを言うべきか黙っておくべきか迷ったが、隠しきれないような気がしたのでそっと話題に出してみることにした。
「そっか……実は昨日火野から少し話を聞いてね、火野はどうして高梨さんが怒ったのか分かってなかったみたいで」
「そっか、うん、陽くんは分かんないだろうね……陽くんモテるもん……」
おーい高梨さん、『モテるもん』とか言ってるけど、あなたも十分モテますよと言いたいところだったが、言わないことにした。
「優子は、火野が誰か他の女子にとられるんじゃないかって思ってない?」
「えっ……?」
絵菜の言葉に、高梨さんが驚いた表情を見せた。
「……うん、前から思ってたんだけど、クラスが分かれちゃってさらに強く思うようになって……陽くんモテるから、私じゃなくてもいいんじゃないかなって……女子と楽しそうに話してるの見ちゃって、面白くなくて……あはは、ほんとバカみたいだよね」
「ううん、優子、気持ちすごくよく分かる。私も団吉が他の女子と話してるの見て、拗ねたことあるから。今も団吉とクラスが分かれて、優子と同じことよく思う」
「……そっか、絵菜もそうなのか、なんであんなに面白くないって思っちゃうんだろうね、他の女子と話すことだってあるのに、見ちゃうとダメなんだ……」
「それは、高梨さんが火野のこと大好きだからじゃないかな。僕も男として逆の立場だったら同じこと思いそうだし。ま、まぁ、女子と全然話さないっていうのは無理なんだけど……」
僕と絵菜の話を真剣に聞いていた高梨さんが、ジュースを飲んでまたため息をついた。
「そうだよね……はぁぁ……私つい強く当たっちゃった……陽くんも怒らせちゃったみたいだし……どうしよう……」
「高梨さん、火野は怒ってないみたいだよ。火野もどうすればいいのか分からなかったみたいで僕たちに話してくれたよ」
「……そっか、でもなんか面と向かって話しにくくて、どうしたらいいんだろう……」
うーん、たしかになかなか話しにくいよなぁ、どうすればいいのかと頭をフル回転させる。
「……そうだ、高梨さん、明日部活とか予定ある?」
「え? 明日は部活もないし、特に予定もないけど……」
「そっか、絵菜は空いてる?」
「う、うん、私も予定はないよ」
「よし、だったら四人で遊びに行かない? だ、ダブルデートみたいな……って、これダブルデートって言うんだよな? まぁいいや、とにかく火野もどうにかしたいみたいだったから、僕たちがいたら少しは話しやすいんじゃないかな?」
突然の僕の提案に絵菜も高梨さんも驚いた表情を見せたが、
「……うん、分かった、行こう。日車くんと絵菜がいてくれたら何とかなりそうな気がする」
と、高梨さんがどこか覚悟を決めたような感じで話した。
「うん、どこに行くかは僕と絵菜で考えるから、楽しみにしておいて。って、勝手に絵菜を巻き込んでるけどいいかな?」
「うん、大丈夫。私も考える」
「……ありがとー、私たちのためにこんなにしてくれて、感謝だよー。あ、なんかお腹空いてきたな、ケーキでも食べようかな」
あの恋の相談の時みたいにいきなり食に走る高梨さんを見てつい笑うと、絵菜と高梨さんも笑った。うん、やっぱり高梨さんは笑って元気な方が可愛い。なんとか火野と仲直りしてもらいたいなと思った。
* * *
「優子、少し元気出たみたいだな」
その後しばらく喫茶店で話して、夕方に高梨さんと駅で別れてから、僕と絵菜は一緒に帰っていた。
「うん、やっぱり高梨さんは笑って元気な方が可愛いよ。なんとか仲直りできるといいんだけど」
「うん、私もそう思う。明日どうしようか、お互い付き合い始めてから、だ、ダブルデートなんて初めてで」
「うーん、考えてたんだけど、こことかどうだろう? 二人にぴったりだと思うんだけど」
僕はそう言ってスマホを絵菜に見せる。
「ああ、なるほど、悪くないかも。あの二人なら楽しんでくれそう」
「うん、僕が風邪ひいた時、困った時はお互い様だって高梨さんも言ってたよね、僕たちが力になれてるかな」
「うん、力になれてると思う。でも優子も本当は不安で仕方がなかったんだな、気持ちがすごくよく分かった……」
絵菜がそう言って僕の左手をそっと握ってきた。
「そうだね、僕も絵菜のこと好きな男子が現れたら、不安で押しつぶされそうになるかも……」
「私はどんな男が現れても、団吉のことが大好きだよ」
「ありがとう、ぼ、僕もなぜか最近女子と話すことが多い気がするけど、絵菜のことが大好きなのは変わらないから」
「うん、ありがと、団吉のこと大好きになってよかった……」
絵菜が僕の左腕にぴたっとくっついてきた。は、恥ずかしいけど、絵菜がそうしたいならと思ってそのまま歩いて行く。
しかし、女子の気持ちが少し分かったような気がする。なかなか難しいけど、僕も絵菜を不安にさせるようなことはしたくないな。
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